半円板位相(Half-Disc Topology)は,完全ハウスドルフ( T_{2\frac{1}{2}})だが正則( T_3)でない例として有名です。半円板位相について,定義と性質を解説しましょう。
半円板位相(Half-Disc Topology)

定義(半円板位相)
\begin{aligned}X&=\{(x,y)\in \R^2\mid y\ge 0\},\\ P&= \{(x,y)\in \R^2\mid y> 0\}, \\ L&= \{(x,y)\in \R^2\mid y=0\}\end{aligned}
と定める。 X における通常の位相(ユークリッド位相)を \mathcal{O} とする。(x,0)\in L と (x,0) の \mathcal{O}–開近傍 U に対し,集合
を付加した X 上の位相 \mathcal{O}_H を半円板位相 (half-disc topology) という。
もし x\in P なら,通常の開円板が x の基本近傍系となり, x\in L なら,以下の図のように, x 自身と, x まわりの通常の開半円板から x 軸部分を除いたものの和が x の基本近傍系となります。

x\in X,\, \varepsilon>0 に対し, B_\varepsilon (x)=\{y\in X\mid |x-y|<\varepsilon \} と定めると, x\in P なら \{B_\varepsilon(x)\cap P \}_{\varepsilon >0} が x の基本近傍系となり, x\in L なら \bigl\{\{x\}\cup (B_\varepsilon(x)\cap P) \bigr\}_{\varepsilon >0} が x の基本近傍系です。
半円板位相(Half-Disc Topology)の性質
位相空間 (X,\mathcal{O}_H) の性質で,今から解説するものをまず列挙しておきましょう。
| 性質 | (X,\mathcal{O}_H) |
|---|---|
| 第一可算・可分 | 〇 |
| 第二可算 | × |
| T_0, T_1, T_2,T_{2\frac{1}{2}} 空間 | 〇 |
| T_3, T_{3\frac{1}{2}}, T_4, T_5 空間 | × |
| 半正則 | × |
| コンパクト・点列コンパクト・σコンパクト・リンデレーフ・局所コンパクト | × |
| パラコンパクト・可算パラコンパクト・メタコンパクト | × |
| 可算メタコンパクト | 〇 |
| 連結・弧状連結 | 〇 |
性質を見ていきましょう。注意ですが, x\in P に対し,
\overline{B_\varepsilon(x)\cap P}=\overline{B_\varepsilon(x)}^{\R^2} \cap P
であり, x\in L に対し,
です。ただし, \overline{\phantom{h}\cdot\phantom{h}}^{\R^2} は \R^2 の通常の位相における閉包(閉円板)を表します。

半円板位相と可算公理
証明
第一可算であることについて
x\in P に対し, \{B_{1/n}(x)\cap P \}_{n\ge 1} は可算な基本近傍系である。
x\in L に対し, \bigl\{\{x\}\cup (B_{1/n}(x)\cap P) \bigr\}_{n\ge 1} が可算な基本近傍系である。
よって,第一可算である。
可分であることについて
Q=\mathbb{Q}^2\cap X は可算かつ稠密な集合である。実際, x\in X\setminus \overline{Q} が取れるとすると, x の開近傍で Q と共有点をもたないものが取れなければならないが,それは x の基本近傍系の定義からあり得ない。
よって,可分である。
第二可算でないことについて
X が第二可算なら, X の部分空間である L も第二可算であるが, L は部分空間として離散空間であるから,これは第二可算でない。よって, X は第二可算でない。
証明終
半円板位相と分離公理
| 性質 | (X,\mathcal{O}_H) |
|---|---|
| T_0, T_1, T_2,T_{2\frac{1}{2}} 空間 | 〇 |
| T_3, T_{3\frac{1}{2}}, T_4, T_5 空間 | × |
| 半正則 | × |
まず定義を確認しましょう。文献によって定義が変わることがあるので注意が必要です。
| 名称 | 定義 |
|---|---|
| T_0 コルモゴロフ | 任意の異なる2点 x,y\in X に対して, x\in O_x,\, y\notin O_x となる開集合 O_x または x\notin O_y,\, y\in O_y となる開集合 O_y の少なくとも一方が取れる |
| T_1 | 任意の異なる2点 x,y\in X に対して, x\in O_x,\, y\notin O_x となる開集合 O_x と x\notin O_y, \,y\in O_y となる開集合 O_y の両方が取れる |
| T_2 ハウスドルフ | 任意の異なる2点 x,y\in X が開集合で分離される, すなわち x\in O_x, \, y\in O_y,\, O_x\cap O_y=\emptyset となる開集合 O_x, O_y が取れる |
| T_{2 \frac {1}{2}} 完全ハウスドルフ | 任意の異なる2点 x,y\in X が閉近傍で分離される, すなわち x\in O_x, \, y\in O_y,\, \overline{O_x}\cap \overline{O_y}=\emptyset となる開集合 O_x, O_y が取れる |
| T_3 | 任意の閉集合 F と任意の点 x\in X\setminus F が開集合で分離される, すなわち F\subset O_F,\, x\in O_x,\, O_F\cap O_x=\emptyset となる開集合 O_F, O_x が取れる |
| T_{3 \frac{1}{2}} | 任意の閉集合 F と任意の点 x\in X\setminus F が連続関数で分離される, すなわち連続関数 f\colon X\to [0,1] で, f|_F=0,\, f(x)=1 となるものが取れる |
| T_4 | 任意の2つの互いに素な閉集合 F,G\subset X が開集合で分離される, すなわち F\subset O_F,\, G\subset O_G,\, O_F\cap O_G=\emptyset となる開集合 O_F, O_G が取れる |
| T_5 | \overline{A}\cap B=A\cap \overline{B}=\emptyset をみたす任意の2つの集合 A,B\subset X が開集合で分離される, すなわち A\subset O_A,\, B\subset O_B,\, O_A\cap O_B=\emptyset となる開集合 O_A, O_B が取れる |
| 半正則 (semiregular) | 正則開集合全体が開基となる |
T_{2\frac{1}{2}}\implies T_2\implies T_1\implies T_0 ですから,T_{2\frac{1}{2}} であることを示せば T_0, T_1, T_2,T_{2\frac{1}{2}} 空間であることは分かります。
また, T_2 の下では, T_5\implies T_4\implies T_{3\frac{1}{2}}\implies T_3 ですから,T_3 でないことが示せれば, T_{3\frac{1}{2}},T_4, T_5 でないことも分かります。
証明
T_{2\frac{1}{2}} 空間であることについて
X 上のユークリッド位相 \mathcal{O} と今回の半円板位相 \mathcal{O}_H に対し, \mathcal{O}\subset \mathcal{O}_H である。(X,\mathcal{O}) は T_{2\frac{1}{2}} であるから,(X,\mathcal{O}_H) もそうである。
T_3 空間でないことについて
\varepsilon >0,\, x=(x,0)\in L とする。このとき,F=X \setminus \bigl(\{x\}\cup (B_\varepsilon(x)\cap P)\bigr) は x を含まない閉集合であり,これと x は開集合で分離できないことを示そう。
もし開集合で分離できたとする。すなわち,x\in U,\, F\subset V となる開集合 U,V\in\mathcal{O}_H で, U\cap V=\emptyset とできたとする。 このとき,ある \delta>0 が存在して,
x\in \{x\}\cup (B_\delta(x)\cap P)\subset U
とできる。 x+\delta/2 =(x+\delta/2,0) \in F\subset V なので, x+\delta/2 における開近傍で, V に含まれるものが存在する。しかし, x+\delta/2 における開近傍は, B_\delta(x)\cap P\subset U と交わるので, U\cap V=\emptyset に矛盾する。
ゆえに, X は T_3 でない。
半正則でないことについて
x\in L に対し, \operatorname{Int}\left(\overline{\{x\}\cup (B_\varepsilon(x)\cap P) }\right) は L 上の区間を含んでしまうため,開基になりえない。よって,半正則でない。
証明終
半円板位相とコンパクト性
まず定義を確認しましょう。
| 名称 | 定義 |
|---|---|
| コンパクト (compact) | 任意の開被覆が有限部分被覆をもつ |
| 点列コンパクト (sequentially compact) | 任意の点列が収束部分列をもつ |
| σコンパクト (σ-compact) | コンパクト集合の可算和でかける空間 |
| リンデレーフ (Lindelöf) | 任意の開被覆が可算部分被覆をもつ |
| 局所コンパクト (locally compact) | 任意の点がコンパクトな近傍をもつ |
| (可算)パラコンパクト (paracompact) | 任意の(可算)開被覆が局所有限な(すなわち,各点ごとに有限個の集合でしか覆われていない近傍をもつような)開細分被覆をもつ |
| (可算)メタコンパクト (metacompact) | 任意の(可算)開被覆が点有限な(すなわち,各点ごとに有限個の集合でしか覆われていない)開細分被覆をもつ |
証明
点列コンパクトでないことについて
x_n=(n, 0) は明らかに収束しないので,点列コンパクトでない。
コンパクト・σコンパクト・リンデレーフでないことについて
\{\{x\}\cup P\}_{x\in L} は X の開被覆であるが,可算部分被覆はないので,リンデレーフでない。コンパクト \implies σコンパクト \implies リンデレーフであるから,σコンパクト・コンパクトでもない。
局所コンパクトでないことについて
局所コンパクトハウスドルフ( T_2)空間は正則( T_3)であるが,今は T_2 だが T_3 でないので,局所コンパクトでない。
メタコンパクトでないこと
開被覆 \bigl\{\{x\}\cup P\bigr\}_{x\in L} の開細分被覆 \{ V_\lambda\}_{\lambda\in \Lambda} を考える。このとき,各 \lambda\in \Lambda に対し, x\in V_\lambda となる x\in L は高々一つであることに注意する。
n\ge 1 とする。ある \lambda\in \Lambda が存在して, \{x\}\cup (B_{1/n}(x)\cap P) \subset V_\lambda とできる x\in L 全体の集合を S_n とおく。すなわち,
S_n=\left\{ x\in L\middle| \begin{aligned}&\exists \lambda\in \Lambda , \\&\{x\}\cup (B_{1/n}(x)\cap P) \subset V_\lambda\end{aligned}\right\}
とする。 \bigcup_{n=1}^\infty S_n= L であることと,ベールのカテゴリー定理より,ある N\ge 1 が存在して, \overline{S_N}^{\R} が区間を含むようにできる。ただし, \overline{\phantom{h}\cdot\phantom{h}}^{\R} は通常のユークリッド位相における閉包を表す。 I\subset \overline{S_N}^{\R} を通常のユークリッド位相における開区間とする。 x\in I と 0<y<1/N に対し,点 (x,y)\in X は無限個の \{V_\lambda\}_{\lambda\in \Lambda} で覆われているので, \{V_\lambda\} は点有限の被覆にはなりえない。
以上から, X はメタコンパクトではない。
可算メタコンパクトであること
\{U_n\} を可算被覆とする。このとき,\{U_n\cap P\} は P の被覆であり, P\subset X は部分位相としてユークリッド位相と一致しているから,点有限な細分 \{V_m\} \subset P をもつ。
S_n = U_n\cap L とし, S_n=\emptyset となるものは無視して,新たに番号付けした \{S_j\} を考える。 \{U_j\} は L の開被覆である。 T_j = S_j\setminus \bigcup_{i<j} S_i とすると,T_j\cap T_j'=\emptyset\,(j\ne j') や \bigcup_{j} T_j=L である。ここで,
U'_j = U_j \cap \left(\bigcup_{x\in T_j}\bigl(\{x\} \cup (B_{1/j}(x)\cap P)\bigr)\right)
と定めると, \{U'_j\} は L の,\{U_j\} の細分となる開被覆である。また, x\in L に対し, x\in U'_j となる j は一つしかない。さらに (x,y)\in P に対し, y<1/j となる j は有限個しかないので, \{U'_j\} 自体は点有限である。
\{V_m\}\cup \{U'_j\} は点有限な開被覆になっているから, X は可算メタコンパクトである。
可算パラコンパクトでないこと
L を,通常のユークリッド位相における可算個の稠密な部分集合 \{D_n\} に分割する。すなわち D_n\cap D_n' = \emptyset \,(n\ne n'), \, \overline{D_n}^{\R}=L,\, \bigcup D_n=L である。さらに, D_n\subset U_n\subset X を \mathcal{O}_H–開近傍とする。
このとき, \{U_n\}\cup \{P\} は可算開被覆だが,局所有限な細分をもたない。ゆえに, X は可算パラコンパクトでない。
証明終




