補コンパクト位相とは,実数全体の集合において,通常の位相で補集合がコンパクトになるような部分集合全体のなす位相で,通常の位相より小さい位相空間になります。
補コンパクト位相について,その定義と性質を,通常の位相や補有限位相とも比較しながら述べましょう。
補コンパクト位相の定義
定義(補コンパクト位相)
(\R,\mathcal{O}) を実数全体の集合における,通常の位相空間とする。
\color{red}\mathcal{O}_{cc} =\{ \emptyset\}\cup \{ O\subset \R\mid \R\setminus O \text{ is }\mathcal{O}\text{-compact}\}
を,補集合が (\R,\mathcal{O}) におけるコンパクト集合になる部分集合全体(と \emptyset の和集合)とすると,(\R,\mathcal{O}_{cc}) は位相空間になる。これを,補コンパクト位相 (compact complement topology) という。
通常の位相 (\R,\mathcal{O}) におけるコンパクト集合は,有界閉集合です。よって, \R \setminus O が \mathcal{O}–コンパクトなら, O は \mathcal{O}-開集合です。ゆえに, O\in \mathcal{O}_{cc}\implies O\in\mathcal{O} が成り立ちます。
補集合が有限集合であるような集合族(と \emptyset の和集合)を
\mathcal{O}_f=\{\emptyset\}\cup \{ O\subset \R \mid \R \setminus O \text{ is finite}\}
とすると, (\R,\mathcal{O}_f) も位相空間になり,これを補有限位相 (cofinite topology, finite complement topology) といいます。補有限位相は補有限位相と補可算位相について掘り下げるで解説しています。有限集合は \mathcal{O}–コンパクト集合なので, O\in\mathcal{O}_f\implies O\in\mathcal{O}_{cc} です。
以上の議論から,
\Large\color{red} \mathcal{O}_f\subset \mathcal{O}_{cc}\subset \mathcal{O}
が成立します。すなわち,補コンパクト位相 \mathcal{O}_{cc} は補有限位相 \mathcal{O}_f より大きい(細かい・強い)ですが,通常の位相 \mathcal{O} より小さい(粗い・弱い)です。
補コンパクト位相の性質
\mathcal{O}_f,\mathcal{O} と比較しながら,性質を述べましょう。まずは全ての性質をまとめます。
補有限位相 (\R, \mathcal{O}_f) | 補コンパクト位相 (\R, \mathcal{O}_{cc}) | 通常の位相 (\R, \mathcal{O}) | |
---|---|---|---|
第一可算 | × | 〇 | 〇 |
第二可算 | × | 〇 | 〇 |
可分 | 〇 | 〇 | 〇 |
T_0, T_1 空間 | 〇 | 〇 | 〇 |
T_2, T_3, T_4, T_5 空間 | × | × | 〇 |
コンパクト | 〇 | 〇 | × |
点列コンパクト | 〇 | 〇 | × |
連結・局所連結・弧状連結 | 〇 | 〇 | 〇 |
hyperconnected | 〇 | 〇 | × |
ultraconnected | × | × | × |
これらを順にみていきましょう。
1. 第一可算・第二可算・可分であることについて
証明
第一可算であることについて
x\in \R に対し,
\small O_{x, n} = (-\infty, -n)\cup \left(x-\frac{1}{n}, x+\frac{1}{n}\right)\cup (n, \infty)
とすると, \{O_{x, n}\}_{n=1}^\infty は可算な基本近傍系である。よって,第一可算である。
第二可算であることについて
\{O_{q,x}\}_{n\ge 1, q\in \mathbb{Q}} は \mathcal{O}_{cc} の可算な開基となるから,第二可算である。
可分であることについて
\mathcal{O}_{cc}\subset \mathcal{O} であることと,\mathcal{O} においての \mathbb{Q} の閉包 \overline{\mathbb{Q}}^\mathcal{O}=\R が成り立つので, \overline{\mathbb{Q}}^{\mathcal{O}_{cc}}=\R である。
証明終
2. T0, T1だが,T2~T5でないことについて
証明は補有限位相と補可算位相について掘り下げるとほぼ同じなのでそちらを参照してください。コンパクト集合の有限個の和集合はコンパクト集合であることに注意しましょう。
3. コンパクト・点列コンパクトであることについて
証明
コンパクトであることについて
\{U_\lambda\}_{\lambda}\subset \mathcal{O}_{cc} を開被覆とする。\mathcal{O}_{cc} の定義より, \R\setminus U_\lambda は \mathcal{O}–コンパクトである。 \mathcal{O}_{cc}\subset \mathcal{O} より,\{ U_1, U_2,\ldots, U_n\}\subset \{U_\lambda\}_\lambda が存在して,
\R\setminus U_\lambda=U_1\cup U_2\cup\cdots\cup U_n
とかける。このときの \{ U_1, U_2, \ldots, U_n, U_\lambda\} は \{U_\lambda\}_{\lambda} の有限部分被覆である。したがって,(\R,\mathcal{O}_{cc}) はコンパクトである。
点列コンパクトであることについて
第一可算公理をみたすコンパクト空間は,点列コンパクトでもあるため,題意は示された。
証明終
4. 連結・局所連結・弧状連結・hyperconnectedだがultraconnectedでないことについて
まずは定義を確認しておきましょう。
名称 | 定義 |
---|---|
連結 (connected) | 2つの互いに素な開集合 U,V で, U\cup V=X となっているものは存在しない |
局所連結 (locally connected) | 全ての点において,連結集合からなる基本近傍系を持つ |
弧状連結 (path connected) | 任意の異なる2点 x,y\in X について,ある連続写像 f\colon [0,1]\to X で, f(0)=x, f(1)=y となるものが存在する |
hyperconnected | 任意の空でない2つの開集合が常に共通部分を持つ |
ultraconnected | 任意の空でない2つの閉集合が常に共通部分を持つ |
hyperconnected ならば連結・局所連結も成立することが簡単に分かります(→hyperconnected(既約位相空間)とultraconnected)。
証明
コンパクト集合の2つの和集合はまたコンパクトであることに注意する。これと \R が通常の位相 \mathcal{O} でコンパクトでないことから,任意の2つの \mathcal{O}_{cc}-開集合は,共通部分をもつ。よって hyperconnected であり,これにより,連結・局所連結もわかる。
また,\mathcal{O}_{cc}\subset \mathcal{O} であり, (\R, \mathcal{O}) は弧状連結なので, (\R,\mathcal{O}_{cc}) もそうである。
また, x\ne y に対し, \{x\}, \{y\} は共に \mathcal{O}_{cc}-閉集合だが,共通部分をもたないため,ultraconnected ではない。
証明終