PR

同値類と商集合をわかりやすく図解~定義と具体例4つ~

集合と位相
記事内に広告が含まれています。

集合において,同値関係の元を集めた「同値類」と,それらを集めた集合である「商集合」は,専門数学における難しい概念の1つでしょう。これについて,具体例・図を交えて解説します。

同値類と商集合の定義

定義(同値類・商集合)

X 上に同値関係 \sim が定まっているとする。このとき,

\color{red} [x]=\{ y\in X\mid x\sim y\}


同値類 (equivalence class) という。また,同値類全体の集合を,集合 X の同値関係 \sim のよる商集合 (quotient set) といい,

\color{red} {X/\!\sim } = \{ [x] \mid x\in X\}


とかく。

[x] は,代わりに \overline{x} C(x) という記号を用いたりもします。

定義中に「同値関係」という言葉が出てきたので,一応復習しておきましょう。「同値関係」とは,以下の3つをみたす二項関係です。

同値関係の復習
  1. x\in X\implies x\sim x (反射律)
  2. x\sim y, y\sim z \implies x\sim z (推移律)
  3. x\sim y \implies y\sim x (対称律)

詳しくは,以下で解説しています。

同値類は, x\sim y \iff [x]=[y] が成立し,逆に, x\not\sim y \iff [x]\cap [y] =\emptyset も成立します。
前半は明らかで,後半も,もし [x]\cap [y]\ne \emptyset ならば,共通部分の元の1つを z とすると, x\sim z\sim y となって, x\sim y ですから矛盾ですね。

このことから,同値類によって,集合の元がいくつかの集合にグループ分けされることが分かるでしょう。

同値類のイメージ図

このグループ分けを一つの元と見て,それの集合を考えたのが,商集合なわけです。

このとき, x\mapsto [x] となる写像 \pi \colon X\to X/\!\sim が定まります。これを,自然な射影といいます。下図のように,この写像 \pi は射影的な見方ができますね。

同値類・商集合・自然な射影のイメージ図

同値類と商集合の具体例

理解には,やはり具体例を確認するのが一番でしょう。

例1.

p を素数とする。整数全体の集合 \mathbb{Z} における, p を法とする合同関係 \equiv \pmod p は同値関係である。

この同値関係により,同値類 [0], [1],\dots, [p-1] を考えることができ,これを元とする,商集合 \mathbb{Z}/\!\! \equiv が作れる。

この同値類を剰余類 (residue class) という。この商集合を剰余体 (residue field) といい, \color{red} \mathbb{Z}/p\mathbb{Z} \color{red} \mathbb{F}_p とかく。

\mod p の世界ですね。 p で割った余りについて,整数全体の集合 \mathbb{Z} 全体を分割し,同じ余りは同じものとみなしているわけです。

ZとZ/pZのイメージ図

実際のところは,毎回 [0], [1], \dots, [p-1] のように括弧をつけるのは面倒なので,普通に 0,1,\dots, p-1 \in \mathbb{Z}/p\mathbb{Z} とかかれます。仰々しく n+p\mathbb{Z} \in \mathbb{Z}/p\mathbb{Z} とかくこともあります。

例2.

以下, S^1=\{ (x,y)\in\mathbb{R}^2\mid x^2+y^2=1\} を単位円とする。

f\colon \mathbb{R}\to S^1f(x)=(\cos x, \sin x) と定義し, x,y\in \mathbb{R} に対して,

x\sim y \stackrel{\mathrm{def}}{\iff} f(x)=f(y)


と定めた同値関係について,その商集合 \mathbb{R}/\!\!\equiv \color{red}\mathbb{R}/2\pi\mathbb{Z} とかかれる。

\mod 2\pi の世界です。実際, x\sim y \iff x-y =2n\pi\; (n\in\mathbb{Z}) ですね。 2\pi の整数倍で等しいものを,同じものとみなします。イメージとしては,数直線を円周 2\pi の円に巻き付けて,重なるところを同一視する感じです。図で描くと,以下です。

RとR/2πZ のイメージ図

円周率の \pi と自然な射影の \pi\colon \mathbb{R}\to \mathbb{R}/2\pi\mathbb{Z} が文字被りしていますね。失礼いたしました。文脈で判断してください。

幾何学的には, \mathbb{R}/2\pi\mathbb{Z} は,1次元トーラスとも言われます。

さらに発展的な例を見ておきましょう。発展的といっても,数学科の学生にとってはごく身近なものです。

例3.

実数係数1変数多項式全体の集合 \mathbb{R}[X] X^2+1 で割ったあまりで等しいものを合同と考える同値関係,すなわち,

f\equiv g \pmod{(X^2+1)} \stackrel{\mathrm{def}}{\iff} f-g X^2+1 で割り切れる

について,その商集合 \mathbb{R}[X]/\!\!\equiv\color{red} \mathbb{R}[X]/(X^2+1) とかかれる。

多項式の演算をそのまま引き継ぐ形で, \mathbb{R}[X]/(X^2+1) の上にも演算が定義でき(実際は和・差・積以外に商も定義でき),その演算は複素数 \mathbb{C} の演算と同じ(体として同型である)ことが知られています。

これは,実数の多項式の商集合を考えることで,複素数全体の集合が構成できるとも言えます。

次は,ベクトル空間の例です。

例4.

V,Wベクトル空間 f\colon V\to W線形写像とする。 f核(Ker) \operatorname{Ker} f = \{ v\in V\mid f(v)=0\} とかくことにすると, v_1,v_2\in V について,

v_1 \sim v_2 \stackrel{\mathrm{def}}{\iff} v_1-v_2\in \operatorname{Ker} f


と定めた同値関係について,その商集合 V/\!\!\sim \color{red} V/\operatorname{Ker} f とかく。

「準同型定理」でも使われる話ですね。この商集合もベクトル空間になっているため,商ベクトル空間とも言われます。

関連する記事