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【下限位相】ゾルゲンフライ直線について掘り下げる

集合と位相
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\R における通常の位相は開区間 (a,b) を開基とする位相ですが,ゾルゲンフライ直線 \R とは半開区間 [a,b) を開基とする位相であり,この位相を下限位相といいます。

ゾルゲンフライ直線は, \R における通常の位相より大きく,通常の位相とは異なった面白い性質をもつものです。性質を掘り下げましょう。

【下限位相】ゾルゲンフライ直線の定義

ゾルゲンフライ直線の定義

定義(下限位相・ゾルゲンフライ直線)

実数全体の集合 \R に対し,

\Large\color{red} \mathcal{B}_l=\{ [a,b)\subset \R\mid a<b\}


開基とする位相 \mathcal{O}_l下限位相 (lower limit topology, right half-open interval topology) といい,位相空間 (\R, \mathcal{O}_l)ゾルゲンフライ直線 (Sorgenfrey line) という。

\mathcal{B}_l開基とする位相とは,「 O\subset \R が開集合である必要十分条件は,O \mathcal{B}_l の元となる集合の和集合でかけること」を言います(→開基・準開基と位相の生成について詳しく)。たとえば,

(a,b)=\bigcup_{n\ge 1} \left[a+\frac{1}{n}, b\right)


ですから,(a,b)\in\mathcal{O}_l です。どんな集合が開集合になるか,閉集合になるかを表にしたものが以下です。

a<b とする\mathcal{O}_l-開集合\mathcal{O}_l-閉集合
(a,b)〇: \bigcup_{n\ge 1} [a+1/n, b) ×
[a,b]×
[a,b)
(a,b]××
\{a\}×
(-\infty, b)〇: \bigcup_{n\ge 1} [a-n, b)
(-\infty, b]×
(a,\infty)〇: \bigcup_{n\ge 1} [a+1/n, a+n)×
[a, \infty)〇: \bigcup_{n\ge 1} [a, a+n)

開集合でないことを示すには,開基の次の性質を使います(→開基・準開基と位相の生成について詳しく)。

開基の同値な定義

(X,\mathcal{O})位相空間とし,\mathcal{B}\subset \mathcal{O} とする。このとき,次は同値である。

  1. \mathcal{B} は開基である
  2. 任意の開集合 O\in\mathcal{O} と任意の x\in O について,ある B_{x}\in \mathcal{B} が存在して, x\in B_{x}\subset O とできる。

たとえば, [a,b] が開集合でないときは, b\in B\subset [a,b] となるような B\in\mathcal{B}_l が存在しないからです。

上の表より,直ちに次のことが分かります。

定理1(下限位相は通常の位相より大きい)

\R の通常の位相を \mathcal{O} とすると,下限位相 \mathcal{O}_l\mathcal{O} より大きい(細かい・強い)。すなわち,

\Large\color{red}\mathcal{O}\subset \mathcal{O}_l

通常の位相は, \mathcal{B}=\{(a,b)\subset \R\mid a<b\} を開基とし,\mathcal{B}\subset \mathcal{O}_l なので分かります。

なお,逆に

\Large\mathcal{B}_u=\{ (a,b]\subset \R\mid a<b\}


開基とする位相 \mathcal{O}_u上限位相 (upper limit topology, left half-open interval topology) と言います。同じことなので,本記事では下限位相のみ考えます。

【下限位相】ゾルゲンフライ直線の性質

可算公理・分離公理・コンパクト性・連結性を順番に紹介しましょう。

ゾルゲンフライ直線と可算公理

第一可算第二可算可分距離化可能性
××

ゾルゲンフライ直線は,第一可算だが第二可算でない代表的な例の一つです。

証明

第一可算であることについて,x\in \R に対し,

\{ [x, x+q)\mid q\in\mathbb{Q}, \,q>0\}


基本近傍系をなす可算集合なので,示せた。

第二可算でないことについて, \mathcal{B}_0\subset \mathcal{O}_l可算開基とすると,x<y に対し, [x, y) \mathcal{B}_0 の元の集合の和集合でかけることになるが, x\in \R の取り方は非可算個あり,全ての x<y でそれが成り立つことはおかしい。よって,第二可算でない。

可分であることについて,有理数全体の集合 \mathbb{Q} (\R, \mathcal{O}_l) において稠密である。実際,無理数全体の集合に含まれる開基 \mathcal{B}_l は存在しないので,無理数全体の集合の内部(開核)は空集合であるからである。よって,示せた。

距離化可能でないことについて,距離空間では,第二可算と可分は同値であるが,今は可分なのに第二可算でないので,距離化可能でない。

証明終

ゾルゲンフライ直線と分離公理

T_0, T_1, T_2
(ハウスドルフ空間)
T_3 T_4,T_5

本記事では, T_0 から T_5 は以下のように定義しています。この定義は文献によって変わりますから,注意してください。

名称定義
T_0
コルモゴロフ空間
(Kolmogorov space)
任意の異なる2点 x,y\in X に対して, x\in O_x,\, y\notin O_x となる開集合 O_x または x\notin O_y,\, y\in O_y となる開集合 O_y の少なくとも一方が取れる
T_1任意の異なる2点 x,y\in X に対して, x\in O_x,\, y\notin O_x となる開集合 O_x x\notin O_y, \,y\in O_y となる開集合 O_y の両方が取れる
T_2
ハウスドルフ空間
(Hausdorff space)
任意の異なる2点 x,y\in X に対して, x\in O_x, \, y\in O_y,\, O_x\cap O_y=\emptyset となる開集合 O_x, O_y が取れる
T_3任意の閉集合 F と任意の点 x\in X\setminus F に対して, F\subset O_F,\, x\in O_x,\, O_F\cap O_x=\emptyset となる開集合 O_F, O_x が取れる
T_4任意の2つの互いに素な空でない閉集合 F,G\subset X に対して, F\subset O_F,\, G\subset O_G,\, O_F\cap O_G=\emptyset となる開集合 O_F, O_G が取れる
T_5 \overline{A}\cap B=A\cap \overline{B}=\emptyset をみたす任意の2つの空でない集合 A,B\subset X に対して, A\subset O_A,\, B\subset O_B,\, O_A\cap O_B=\emptyset となる開集合 O_A, O_B が取れる

定義から明らかに T_2\implies T_1\implies T_0 T_5\implies T_4 です。

証明

T_0,T_1, T_2 であることについて,\mathcal{O}_l は通常の位相 \mathcal{O} より大きく,通常の位相においては, T_0,T_1, T_2 であるから,同じくそうである。

T_3 であることについて,1点集合 \{x\} は閉集合であることと,後で示すが, T_4 であることから,示せた。

T_4, T_5 であることについて, A,B\subset \R が,下限位相 \mathcal{O}_l において \overline{A}\cap B=A\cap \overline{B}=\emptyset をみたすとする。このとき, \R\setminus \overline{B} は開集合なので,任意の a\in \R\setminus \overline{B} に対し,ある x_a\in \R が存在して,

[a, x_a) \subset \R\setminus \overline{A}


とできる。ここで,

O_A = \bigcup_{a\in A} [a, x_a) \supset A


とすると,これは開集合である。 O_B\supset B も同様に定めるとする。このとき, O_A\cap O_B=\emptyset である。実際,そうでないとすると,ある a\in A,\, b\in B に対し, [a, x_a)\cap [b, x_b)\ne\emptyset となる。もし, a<b とすると, b\in [a, x_a)\subset \R\setminus\overline{B} となり, a>b とすると, a\in [b, x_b)\subset \R\setminus \overline{A} となる。いずれにしろ矛盾している。

したがって, O_A\cap O_B=\emptyset が言えたので, T_5 が示せた。よって T_4 でもある。

証明終

T_1 かつ T_5 が成り立つことを完全正規 (completely normal) ということがあります。

ゾルゲンフライ直線とコンパクト性

コンパクト点列コンパクトσコンパクト局所コンパクトリンデレーフパラコンパクト
××××

\R は通常の位相でもコンパクトではありませんが,[0,1] は通常の位相でコンパクトです。一方で,ゾルゲンフライ直線においては,[0,1]コンパクトではありません。

コンパクトでないこと,σコンパクトでないこと,局所コンパクトでないことは,以下の定理から直ちにわかります。

定理(ゾルゲンフライ直線におけるコンパクト集合)

ゾルゲンフライ直線 (\R, \mathcal{O}_l) において, A\subset Xコンパクトならば,A は高々可算集合で,かつ A の通常の位相における内部(開核)が空集合である。

たとえば, \{ 1/n\mid n\ge 1\}\cup \{0\}コンパクトです。

「通常の位相における内部(開核)が空集合である」の部分は,「 A は通常の位相における疎集合 (nowhere dense) である」といってもよいです。疎集合の厳密な定義は, A閉包内部(開核)が空集合であること,すなわち,\operatorname{Int}(\overline{A})=\emptyset ですが,ハウスドルフ空間 ( T_2 空間) におけるコンパクト集合は閉集合であることから,今は同じことです。

なお,逆に高々可算集合かつ疎集合 (nowhere dense) だからといって,コンパクトとは言えません。たとえば,\mathbb{Z}\subset \Rコンパクトではありません。

ゾルゲンフライ直線が点列コンパクトでないことは,数列 1,2,3,\ldots, が収束しないことから分かります。

定理の証明

A\subset Xコンパクトとする。このとき,任意の a\in A に対して,ある x_a<a が存在して, (x_a, a)\cap A=\emptyset とできることを示そう。

もしある a\in A で,そうでないとすると, \{a_n\}\subset A が上昇列(増大列)でかつ a_n \xrightarrow{n\to\infty} a となるものが取れる。このとき,

(-\infty, a_1) \cup \bigcup_{n=1}^\infty [a_n, a_{n+1}) \cup [a, \infty)


A の開被覆となるが,有限部分被覆が存在しないので, Aコンパクト性に矛盾する。よって赤字は示せた。

赤字により, A の通常の位相における内部(開核)が空集合であることが直ちにわかる。また, n\ge 1 に対し, A_{m, n}=\{ a\in A\cap [m,m+1] \mid a-x_a>1/n\} は高々 n 個以下の集合であり,

A = \bigcup_{m, n =1}^\infty A_{m, n}


なので, A は高々可算集合である。

証明終

最後に,リンデレーフであることと,パラコンパクトであることを示しましょう。

リンデレーフ・パラコンパクトであることの証明

リンデレーフであることについて

\{U_\lambda\}_{\lambda\in\Lambda}\subset \mathcal{O}_l \R の開被覆とする。\mathcal{O} \R における通常の位相とする。 \lambda\in\Lambda に対し,

O_\lambda = \operatorname{Int}_{\mathcal{O}}(U_\lambda)


と定める。すなわち, O_\lambda は, U_\lambda \in\mathcal{O}_l の通常の位相 \mathcal{O} における内部(開核)と定める。 O=\bigcup_{\lambda\in\Lambda} O_\lambda とおくと,O\subset \R \mathcal{O}-開集合である。 \R の任意の \mathcal{O}-開集合はリンデレーフであるから,ある可算開部分被覆 \{O_n\}_n\subset \{O_\lambda\}_{\lambda\in\Lambda} が存在して,

O=\bigcup_n O_n


とかける。さらに, A=\R\setminus O は高々可算集合であることを示そう。 a\in A に対し,ある a<x_a が存在して, (a,x_a)\cap A=\emptyset とできる。実際, a\in U_\lambda となる \lambda\in \Lambda を取ると,開基の定義より,

a\in [a, x_a) \subset U_\lambda


となる x_a \in \R が存在する。このとき, (a,x_a) \subset \operatorname{Int}_{\mathcal{O}}(U_\lambda) なので, (a,x_a)\cap A=\emptyset である。

ゆえに,真上の定理の証明と同じ要領で, A が高々可算集合であることがわかる。

したがって, A を被覆する可算部分集合 \{U_m\}_m \subset \{U_\lambda\}_{\lambda\in\Lambda} が存在する。

\{ U_n\}_n \cup \{U_m\}_m


が,ちょうど \R の高々可算被覆になっている。よって,(\R, \mathcal{O}_l) はリンデレーフである。

パラコンパクトであることについて

リンデレーフかつ正則 ( T_0 かつ T_3) なので,パラコンパクトである。

証明終

ゾルゲンフライ直線と連結性

連結完全不連結
×

完全不連結であることさえ証明できれば,連結でないことは自動的に従いますが,念のため,直接連結でないことも述べておきましょう。

証明

連結でないことについて

[a,b) は開かつ閉集合であるから,連結ではない。

完全不連結であることについて

A\subset X を連結成分とする。 A が2点以上の集合だとすると,ある a\in A が存在して,

A\cap (-\infty, a) ,\quad A\cap [a,\infty)


がともに空でない集合にできる。どちらの集合も A における相対位相において開集合なので, A が連結であることに矛盾する。したがって, A は1点集合であるから,完全不連結であることが示せた。

証明終

開かつ閉である集合 [a,b)開基とする位相空間0次元 (zero-dimensional) ということがあります。ゾルゲンフライ直線は0次元です。

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参考

  1. L. A. Steen, J. A. Seebach, Counterexamples in Topology, 2nd edition. Springer, 1978.