ユークリッド空間・距離空間・位相空間におけるある集合の「閉包」とは,ある集合を含む最小の閉集合のことです。まずは位相空間における一般的な閉包を定義し,ユークリッド空間・距離空間におけるもっとイメージしやすい定義を述べましょう。
閉包の定義
まずは一般の位相空間における閉包を定義し,より具体的なユークリッド空間・距離空間における別の定義を紹介しましょう。
位相空間における閉包の定義
まずは,一般の位相空間における閉包の定義を述べます。
定義1(閉包)
(X,\mathcal{O}) を位相空間とし, A\subset X とする。
A を含む最小の閉集合を A の閉包 (closure) といい, A^a や \color{red}\large \overline{A} や \operatorname{Cl}(A) などとあらわす。
定義から明らかに A\subset \overline{A} です。
高校では,\overline{A} は A の補集合を表していたと思いますが,大学では A^c で A の補集合を表し, \overline{A} で A の閉包を表すのが普通です。
\mathcal{C}_A を A を含む閉集合全体としたとき, \bigcap_{C\in\mathcal{C}_A} C も A を含む閉集合ですから,「 A を含む最小の閉集合」を考えることができます。
開集合の補集合が閉集合,閉集合の補集合が開集合ですから, X\setminus \overline{A} は, X\setminus A に含まれる最小の開集合(すなわち集合 X\setminus \overline{A} の内部(開核))です。
ユークリッド空間・距離空間における点列を用いた定義
さて,より具体的なユークリッド空間・距離空間では,閉包は別な定義が可能ですから,それを紹介しましょう。何でもかんでも一般的な定義だけ分かっているだけではダメで,イメージを持ちやすい定義を理解しておくのが大切です。
以下では,距離空間で定義しますが,ユークリッド空間 \R^n としてもよいです。
定義2(点列の収束と閉集合)
(X, d) を距離空間とし, A\subset X とする。
A における収束する数列 \{a_n\}\subset A の収束先となり得る点全体の集合を A の閉包 (closure) といい, A^a や \color{red}\large \overline{A} や \operatorname{Cl}(A) などとあらわす。
たとえば, a\in A に対し, a,a,a,\ldots という定数列は a に収束しますから, A\subset \overline{A} が成り立ちます。
分かりやすい定義だと思います。たとえば,収束する数列 \{a_n\}\subset (0,1) の収束先としてあり得る範囲は [0,1] なので, \overline{(0,1)}=[0,1] です。
【距離空間】内部(開核)・境界の概念を用いた定義~触点全体の集合~
(X, d) を距離空間とします。 \varepsilon >0 に対し,点 x\in X における \varepsilon-近傍を
\textcolor{red}{\large B_\varepsilon(a)}=\{ x\in \R^n \mid d(a, x)<\varepsilon\}
とかくことにします。
定義3(触点・閉集合)
(X, d) を距離空間とし, A\subset X とする。
x\in X が,任意の \varepsilon>0 に対して,
\Large \color{red} B_\varepsilon (x)\cap A \ne \emptyset
をみたすとき,x は A の触点 (adherent point, point of closure) という。触点全体の集合を A の閉包 (closure) といい, A^a や \color{red}\large \overline{A} や \operatorname{Cl}(A) などとあらわす。
定義より明らかに A\subset \overline{A} です。
触点とは,集合の内点か境界点です(→内部(開核)・外部・境界について詳しく図解~距離空間・位相空間~)。よって,集合の閉包とは,集合の内部と境界の和集合といえます。すなわち,
\large \overline{A} =\operatorname{Int}(A)\cup \partial A
です。詳しくは
も見てください。
閉包の具体例
例1( \R).
実数 \R の部分集合について,
- \overline{(0,1)}=\overline{[0,1)}=\overline{[0,1]}=[0,1]
- \overline{\{a\}}=\{a\}
- \overline{\mathbb{Q}}=\overline{\mathbb{R}\setminus\mathbb{Q}}=\mathbb{R}
例2( \R^2).
\R^2 の部分集合について
- \begin{aligned} &\overline{\{(x,y)\in\R^2\mid x^2+y^2<1\}} \\&=\{(x,y)\in\R^2\mid x^2+y^2\le 1\}\end{aligned}
- \begin{aligned} &\overline{\{(x,y)\in\R^2\mid x^2+y^2=1\}} \\&=\{(x,y)\in\R^2\mid x^2+y^2=1\}\end{aligned}
例3(離散距離).
(X, d) を離散距離空間とする。すなわち, d(x,y)=\begin{cases} 1 & x\ne y, \\ 0& x=y\end{cases} とする。このとき,任意の A\subset X に対し, \overline{A}=A である。
どの点同士の距離も 1 なので, \{a_n\}\subset A が収束するには,最終的に定数列 a,a,a,a,\ldots にならねばなりません。 a\in A ですから, A 内にしか収束できません。
例4(密着位相).
(X, \mathcal{O}) を密着位相空間とする。このとき,
\overline{A} = \begin{cases} \emptyset & A=\emptyset, \\ X & A\ne \emptyset\end{cases}
である。
密着位相空間における閉集合は \emptyset と X のみですから,明らかです。
なお,離散位相は例3.と同じです。
閉包の性質
定理(閉包の性質)
(X,\mathcal{O}) を位相空間とし, A,B\subset X とする。このとき,
- \overline{\emptyset}=\emptyset, \;\overline{X} = X
- A\subset \overline{A}
- \overline{\bigl(\overline{A}\bigr)}=\overline{A}
- \overline{A\cup B} = \overline{A}\cup \overline{B}
なお,一般に \overline{A\cap B} \subset \overline{A}\cap \overline{B} ですが,等号は成り立ちません。
実際, A\cap B\subset \overline{A}, \overline{B} なので, A\cap B \subset \overline{A}\cap \overline{B} がいえます。右辺は閉集合なので, \overline{A\cap B} \subset \overline{A}\cap \overline{B} となります。一方で, \R において, A = [0,1),\; B =(1,2] とすると,
\begin{aligned}\overline{A\cap B}&=\overline{\emptyset}=\emptyset,\\ \overline{A}\cap \overline{B}&= [0,1]\cap [1,2]=\{1\} \end{aligned}
となって,異なる集合となります。
定理の証明
1.から3.は定義より明らかなので,4.のみ示す。
A\cup B\subset \overline{A}\cup \overline{B} であり,右辺は閉集合であるから,
\overline{A\cup B}\subset \overline{A}\cup \overline{B}
が成り立つ。一方で, A\cup B\supset A より, \overline{A\cup B}\supset \overline{A} であり,同様に \overline{A\cup B}\supset \overline{B} であるから,
も成り立つ。よって, \overline{A\cup B}= \overline{A}\cup \overline{B} である。
証明終
なお,4.は無限個の集合では成り立ちません。たとえば, A_n = \{1/n\} とすると,
\begin{aligned}\overline{ \bigcup_{n=1}^\infty A_n} &= \{ 1/n \mid n \ge 1\} \cup \{0\}, \\ \bigcup_{n=1}^\infty \overline{A_n} &= \{ 1/n \mid n \ge 1\} \end{aligned}
となって,等号が成り立ちません。