Irrational slope topology とは, xy 平面における, y\ge 0 をみたす上半平面の有理点上で定義される位相で,可算集合でハウスドルフ空間,連結だが弧状連結ではないという性質をもちます。また,ハウスドルフ( T_2)なのに,完全ハウスドルフ( T_{2\frac{1}{2}})でない例としても挙げられます。
Irrational slope topology について解説しましょう。
Irrational Slope Topology
定義(Irrational slope topology)
X = \{ (p,q)\in \mathbb{Q}^2\mid q\ge 0\} とする。さらに,無理数 \theta>0 を一つ固定する。 (p,q)\in X に対し,その \varepsilon -近傍 (\varepsilon>0) を
\begin{aligned} &N_\varepsilon (p,q)\\&=\{(p,q)\}\cup B_\varepsilon \left(p+\frac{q}{\theta}\right) \cup B_\varepsilon \left(p-\frac{q}{\theta}\right) \end{aligned}
と定める。ただし, x\in\mathbb{R} に対し, B_\varepsilon(x) =\{ (r,0)\in\mathbb{Q}^2\mid |r-x|<\varepsilon\} である。
N_\varepsilon によって生成される位相 \mathcal{O} を Irrational slope topology という。
(p,0)\in X における近傍は N_\varepsilon (p,0)= \{(r, 0)\in \mathbb{Q}^2 \mid |r-p|<\varepsilon \} の形です。

上図の赤い部分が N_\varepsilon (p,q) です。ただし,有理点に限ります。点線が傾き \pm\theta の直線です。\theta は無理数でしたから,無理数の傾きなわけですが,これが irrational slope というわけです。N_\varepsilon (p,q) は近傍の性質をみたしており,近傍から位相が生成できるので,irrational slope topology を考えることができます。
Irrational Slope Topology の性質
まず,これから紹介する性質をまとめましょう。
| 性質 | その性質をもつかどうか |
|---|---|
| 第一可算・第二可算・可分 | 〇 |
| T_0, T_1, T_2 空間 | 〇 |
| T_{2\frac{1}{2}}, T_3, T_{3\frac{1}{2}}, T_4, T_5 空間 | × |
| 半正則 | × |
| コンパクト・点列コンパクト・可算コンパクト・極限点コンパクト | × |
| σコンパクト・リンデレーフ・擬コンパクト | 〇 |
| 局所コンパクト | × |
| 連結 | 〇 |
| 弧状連結 | × |
可算集合でハウスドルフ( T_2)なのに,連結であり,また弧状連結でないという面白い性質を持っています。,またハウスドルフ( T_2)なのに,完全ハウスドルフ( T_{2\frac{1}{2}})でない例としても挙げられます。
順番に紹介していきます。
Irrational Slope Topology と可算公理
X は可算集合であり, n\ge 1 と (p,q)\in X に対し, N_{1/n} (p,q) たちは開基になっていますから,第二可算であり,よって第一可算・可分でもあります。
Irrational Slope Topology と分離公理
| T_0, T_1, T_2 空間 | 〇 |
| T_{2\frac{1}{2}}, T_3, T_{3\frac{1}{2}}, T_4, T_5 空間 | × |
| 半正則 | ×¥ |
まず定義を確認しましょう。文献によって定義が変わることがあるので注意が必要です。
| 名称 | 定義 |
|---|---|
| T_0 コルモゴロフ | 任意の異なる2点 x,y\in X に対して, x\in O_x,\, y\notin O_x となる開集合 O_x または x\notin O_y,\, y\in O_y となる開集合 O_y の少なくとも一方が取れる |
| T_1 | 任意の異なる2点 x,y\in X に対して, x\in O_x,\, y\notin O_x となる開集合 O_x と x\notin O_y, \,y\in O_y となる開集合 O_y の両方が取れる |
| T_2 ハウスドルフ | 任意の異なる2点 x,y\in X が開集合で分離される, すなわち x\in O_x, \, y\in O_y,\, O_x\cap O_y=\emptyset となる開集合 O_x, O_y が取れる |
| T_{2 \frac {1}{2}} 完全ハウスドルフ | 任意の異なる2点 x,y\in X が閉近傍で分離される, すなわち x\in O_x, \, y\in O_y,\, \overline{O_x}\cap \overline{O_y}=\emptyset となる開集合 O_x, O_y が取れる |
| T_3 | 任意の閉集合 F と任意の点 x\in X\setminus F が開集合で分離される, すなわち F\subset O_F,\, x\in O_x,\, O_F\cap O_x=\emptyset となる開集合 O_F, O_x が取れる |
| T_{3 \frac{1}{2}} | 任意の閉集合 F と任意の点 x\in X\setminus F が連続関数で分離される, すなわち連続関数 f\colon X\to [0,1] で, f|_F=0,\, f(x)=1 となるものが取れる |
| T_4 | 任意の2つの互いに素な閉集合 F,G\subset X が開集合で分離される, すなわち F\subset O_F,\, G\subset O_G,\, O_F\cap O_G=\emptyset となる開集合 O_F, O_G が取れる |
| T_5 | \overline{A}\cap B=A\cap \overline{B}=\emptyset をみたす任意の2つの集合 A,B\subset X が開集合で分離される, すなわち A\subset O_A,\, B\subset O_B,\, O_A\cap O_B=\emptyset となる開集合 O_A, O_B が取れる |
| 半正則 (semiregular) | 正則開集合全体が開基となる |
T_2 (ハウスドルフ)であることが示せれば,自動的に T_1, T_0 であることが従い,また T_2 であってかつ T_{2\frac{1}{2}} (完全ハウスドルフ)でないことが示せれば,自動的に T_3, T_{3\frac{1}{2}}, T_4, T_5 でないことが従います。
証明
T_2 (ハウスドルフ)であることについて
\theta は無理数であるから,図のような傾き \pm\theta の点線上には,有理点が高々一つしか存在しないことが,背理法により示せる(もし有理点を2つ以上通るとすると,\theta は有理数になってしまう)。

ゆえに, (p,q),(p',q')\in X が (p,q)\ne (p'.q') であるとき, p\pm q/\theta, p'\pm q'\theta のどの2つの数も一致しない( q=0 または q'=0 のときは3つないしは2つの数がどの2つも一致しないと考える)。
したがって, \varepsilon を十分小さくすることで, N_\varepsilon (p,q)\cap N_\varepsilon (p',q')=\emptyset とできる。
T_{2\frac{1}{2}} (完全ハウスドルフ)でないことについて
\overline{N_\varepsilon(p,q)} は,下図の領域のようになる(ただし,有理点に限る)。

これより,2つの開集合の閉包は必ず交わるので, T_{2\frac{1}{2}} にはならない。
半正則でないことについて
A を正則開集合とする。 (p,q)\in A に対し, (p,q)\in N_\varepsilon (p,q)\subset A となる \varepsilon >0 が取れる。 A は正則開集合としたので, \operatorname{Int}\left(\overline{N_\varepsilon (p,q)}\right)\subset A であるが,左辺は1つ前で示したように, (p,q)\;(q>0) となる点が無限個あるので, A もそうである。
N_\varepsilon (p,q) には, (p,q)\;(q>0) となる点は1点しかないので,これに含まれる正則開集合は存在しない。よって,正則開集合全体が開基となることはないので,半正則ではない。
証明終
Irrational Slope Topology とコンパクト性
まず定義を確認しましょう。
| 名称 | 定義 |
|---|---|
| コンパクト (compact) | 任意の開被覆が有限部分被覆をもつ |
| 点列コンパクト (sequentially compact) | 任意の点列が収束部分列をもつ |
| 可算コンパクト (countably compact) | 任意の可算開被覆が有限部分被覆をもつ |
| 極限点コンパクト (limit point compact) | 任意の無限部分集合が集積点をもつ |
| σコンパクト (σ-compact) | コンパクト集合の可算和でかける空間 |
| リンデレーフ (Lindelöf) | 任意の開被覆が可算部分被覆をもつ |
| 擬コンパクト (pseudocompact) | この上の任意の実連続関数が有界 |
| 局所コンパクト (locally compact) | 任意の点がコンパクトな近傍をもつ |
極限点コンパクトでないことが言えれば,コンパクト・点列コンパクト・可算コンパクトでないことは自動的に従います。
証明
極限点コンパクトでないこと
\mathbb{Z} は集積点をもたないので,言える。
擬コンパクトであること
f\colon X\to \R が連続ならば定数関数となることを示そう。もし定数関数でなかったとすると,異なる2点 a,b\in f(X) を取ることができる。さらに, a,b における閉近傍 F, G を, F\cap G=\emptyset となるように取れる。
f^{-1}(F) は f^{-1}(\{a\}) の閉近傍であり,同様に f^{-1}(G) は f^{-1}(\{b\}) の閉近傍である。 F\cap G=\emptyset なので, f^{-1}(F)\cap f^{-1}(G)=\emptyset でなければならないが, T_{2\frac{1}{2}} でないことを証明したときの議論から,これはあり得ない。
ゆえに, f は定数関数となることが示せたので, X は擬コンパクトである。
σコンパクト・リンデレーフであること
1点集合は明らかにコンパクトであり, X は可算集合なので,σコンパクトである。σコンパクトならリンデレーフも言えるので,リンデレーフでもある。
局所コンパクトでないこと
局所コンパクトハウスドルフ空間( T_2)は正則( T_3)であるはずだが,今は T_2 だが T_3 ではないので,局所コンパクトでない。
証明終
Irrational Slope Topology と連結性
証明
連結であること
T_{2\frac{1}{2}} でないことを証明したときの議論から,2つの開集合の閉包は必ず共通部分をもつ。もし連結ならば,U\cap V=\emptyset,\, X=U\cup V となる開集合 U,V\subset X が取れるが,このとき, \overline{U}=U, \, \overline{V}=V となって, \overline{U}\cap \overline{V}=\emptyset なので,矛盾している。ゆえに連結でない。
弧状連結でないこと
弧状連結であると仮定すると,連続写像 f\colon [0,1]\to X が取れる。 X は可算集合なので, f(X) は高々可算であり,X はハウスドルフ( T_2)なので, 1点集合は閉である。ゆえに,
[0,1]=\bigcup_{(p,q)\in f(X)} f^{-1}(\{(p,q)\})
は,[0,1] が高々可算個の,互いに素な閉集合の和で表されることを示しているが,これは不可能であることが知られているので, X は弧状連結でない。
証明終



