負の二項分布 NB(r, p) における,積率母関数(モーメント母関数)・特性関数はそれぞれ
\begin{aligned} E[e^{tX}] &= \left(\dfrac{p}{1-(1-p)e^t}\right)^r,\quad t<-\log (1-p),\\ E[e^{itX}]&=\left(\dfrac{p}{1-(1-p)e^{it}}\right)^r,\quad t\in\mathbb{R} \end{aligned}
となります。これについて,その導出の証明を行いましょう。
負の二項分布の積率母関数(モーメント母関数)・特性関数
定理(負の二項分布の積率母関数(モーメント母関数)・特性関数)
X\sim NB(r, p) とする。このとき, X の積率母関数(モーメント母関数)・特性関数は
\small \color{red} \begin{aligned} E[e^{tX}] &= \left(\dfrac{p}{1-(1-p)e^t}\right)^r,\: t<-\log (1-p),\\ E[e^{itX}]&=\left(\dfrac{p}{1-(1-p)e^{it}}\right)^r,\: t\in\mathbb{R} \end{aligned}
である。
後半については,複素数の累乗を考えていますが,正の整数乗なので,あまり深刻ではありません。単に複素数を r 回掛けるだけです。
証明に入る前に,負の二項分布の定義を復習しておきましょう。
0<p<1, \, r\ge 1 を整数とする。確率変数 X が k = 0,1,2,\ldots に対し,
\color{red}\begin{aligned} P(X=k) &= {}_{k+r-1}\mathrm{C}_k\, p^r(1-p)^k \\ &= {}_{k+r-1}\mathrm{C}_{r-1}\, p^r(1-p)^k \end{aligned}
となるとき, X はパラメータ (r, p) の負の二項分布 (negative binomial distribution) に従うという。本記事では,\color{red} X\sim NB(r,p) とかくことにする。
負の二項分布の定義と性質まとめについては,以下で解説しています。
負の二項分布の積率母関数(モーメント母関数)の導出
まず,二項分布の積率母関数(モーメント母関数)の導出から始めましょう。
証明
期待値と負の二項分布の定義から,
\begin{aligned} E[e^{tX}] &= \sum_{k=0}^\infty e^{tk} P(X=k) \\ &= \sum_{k=0}^\infty e^{tk} {}_{k+r-1}\mathrm{C}_k\, p^r(1-p)^k \\ &=p^r \sum_{k=0}^\infty {}_{k+r-1}\mathrm{C}_k\, \{(1-p)e^t\}^k \end{aligned}
であり,この無限和が収束するには, (1-p)e^t < 1 すなわち, t<-\log (1-p) が必要である。このとき,
ただし, Y\sim NB(r, (1-p)e^t) である。よって, t<-\log(1-p) で
証明終
負の二項分布の特性関数の導出
特性関数の方も,積率母関数(モーメント母関数)と同様の議論を,といいたいところですが,複素数の範囲で NB(r, pe^{it}) とするのは無理があるため,できません。今回は,積率母関数を拡張して証明しましょう。
証明
積率母関数(モーメント母関数)の等式
\small E[e^{tX}] = \left(\dfrac{p}{1-(1-p)e^t}\right)^r,\; t<-\log (1-p)
を \{ z \in\mathbb{C}\mid \operatorname{Re} z < -\log (1-p) \} 上に解析接続することで,この上の z で
となる。 z=it, \; t\in\mathbb{R} とすると,
がわかる。
証明終
解析接続の議論は,複素関数論の範囲です。具体的に示すには,左辺が解析的であり,右辺も解析的であることをそれぞれ示し,よってお互い解析接続したものが等しくなる,とします。