シェルピンスキー空間とは,2点集合 \{0,1\} に,密着位相でも離散位相でもない開集合族 \bigl\{ \emptyset, \{0\}, \{0,1\}\bigr\} を入れた位相空間で,非常に基本的な位相空間の一つです。
シェルピンスキー空間は, T_0 空間であるが, T_1 空間でない例としても登場します。シェルピンスキー空間の定義・性質について紹介しましょう。
シェルピンスキー空間の定義
定義(シェルピンスキー空間)
2点集合 S=\{0,1\} について,その上の開集合族を
\color{red} \Large \mathcal{O}=\Bigl\{ \emptyset, \{0\}, \{0,1\}\Bigr\}
としたときの位相空間 (S,\mathcal{O}) をシェルピンスキー空間 (Sierpinski space) という。
シェルピンスキー空間は,2点集合に入る密着位相でも離散位相でもない位相です。開集合の補集合が閉集合なので,シェルピンスキー空間の閉集合族は
\large \mathcal{F}=\Bigl\{ \emptyset, \{1\}, \{0,1\}\Bigr\}
となります。開集合族が \mathcal{O}'=\bigl\{ \emptyset, \{1\}, \{0,1\}\bigr\} で,閉集合族が \mathcal{F}'=\bigl\{ \emptyset, \{0\}, \{0,1\}\bigr\} とすることもありますが,同じことです。
シェルピンスキー空間の性質
- 可算公理
- 分離公理
- コンパクト性
- 連結性
の順に性質を確認しましょう。
1. 可算公理
これは,そもそもシェルピンスキー空間 S=\{0,1\} が有限集合であることから直ちに従います。
2. 分離公理
定理2(シェルピンスキー空間と分離公理)
シェルピンスキー空間 (S,\mathcal{O}) は,
- T_0 空間である。
- T_1, T_2, T_3 空間ではない。
- T_4, T_5 空間である。
本記事では, T_0 から T_5 は以下のように定義しています。この定義は文献によって変わりますから,注意してください。
名称 | 定義 |
---|---|
T_0 コルモゴロフ空間 (Kolmogorov space) | 任意の異なる2点 x,y\in X に対して, x\in O_x,\, y\notin O_x となる開集合 O_x または x\notin O_y,\, y\in O_y となる開集合 O_y の少なくとも一方が取れる |
T_1 | 任意の異なる2点 x,y\in X に対して, x\in O_x,\, y\notin O_x となる開集合 O_x と x\notin O_y, \,y\in O_y となる開集合 O_y の両方が取れる |
T_2 ハウスドルフ空間 (Hausdorff space) | 任意の異なる2点 x,y\in X に対して, x\in O_x, \, y\in O_y,\, O_x\cap O_y=\emptyset となる開集合 O_x, O_y が取れる |
T_3 | 任意の閉集合 F と任意の点 x\in X\setminus F に対して, F\subset O_F,\, x\in O_x,\, O_F\cap O_x=\emptyset となる開集合 O_F, O_x が取れる |
T_4 | 任意の2つの互いに素な空でない閉集合 F,G\subset X に対して, F\subset O_F,\, G\subset O_G,\, O_F\cap O_G=\emptyset となる開集合 O_F, O_G が取れる |
T_5 | \overline{A}\cap B=A\cap \overline{B}=\emptyset をみたす任意の2つの空でない集合 A,B\subset X に対して, A\subset O_A,\, B\subset O_B,\, O_A\cap O_B=\emptyset となる開集合 O_A, O_B が取れる |
定理2が正しいことは,全て定義から確認可能です。 T_4, T_5 空間である理由は,そもそも「任意の2つの互いに素な空でない閉集合 F,G\subset X」や,「 \overline{A}\cap B=A\cap \overline{B}=\emptyset をみたす任意の2つの空でない集合」を取れないからです(空虚な真)。
3. コンパクト性
有限集合なので,どちらも明らかです。点列には,無限個の 0 または無限個の 1 が出現するため,部分列で 0 値定数列か, 1 値定数列をもちます。
もし,ある点列において,無限個の 0 と無限個の 1 の両方が出現するとき,この点列は 1 に収束するが, 0 には収束しません。一方で, 0,1 の両方が集積点となります。面白いですね。
4. 連結性
定理4(シェルピンスキー空間と分離公理)
シェルピンスキー空間 (S,\mathcal{O}) は,
- 連結 (connected) である。
- 弧状連結 (path connected) である。
- 弧連結 (arc connected) ではない。
- hyperconnected かつ ultraconnected である。
定義を確認しておきましょう。
名称 | 定義 |
---|---|
連結 (connected) | 2つの互いに素な開集合 U,V で, U\cup V=X となっているものは存在しない |
弧状連結 (path connected) | 任意の異なる2点 x,y\in X について,ある連続写像 f\colon [0,1]\to X で, f(0)=x, f(1)=y となるものが存在する |
弧連結 (arc connected) | 上の f として,埋め込みすなわち f\colon [0,1]\to f([0,1]) が同相となっているものが常に取れる(※ 単に f として全単射なものが取れるとすることもある) |
hyperconnected | 任意の空でない2つの開集合が常に共通部分を持つ |
ultraconnected | 任意の空でない2つの閉集合が常に共通部分を持つ |
定理4の1.と4.は定義から明らかです。3.も全単射 f\colon [0,1]\to \{0,1\} は存在しないので明らかです。2.の弧状連結について確認しましょう。 f\colon [0,1]\to \{0,1\} を
f(t)=\begin{cases} 0 & 0\le t< 1,\\ 1 & t=1 \end{cases}
とすると,これは連続で, 0 と 1 のパスになっているため,弧状連結が示せました。