「行列の積」というと,難しい定義のものが一般的ですが,行列の要素・成分ごとの積であるアダマール積について紹介します。
行列のアダマール積の定義
定義(アダマール積)
A=(aij),B=(bij) を m×n 行列とする。このとき,そのアダマール積 (Hadamard product) C=A⊙B (または C=A∘B), C=(cij) を
cij=aijbij
で定義する。すなわち,
⎝⎛a11a21⋮am1a12a22⋮am2……⋱…a1na2n⋮amn⎠⎞⊙⎝⎛b11b21⋮bm1b12b22⋮bm2……⋱…b1nb2n⋮bmn⎠⎞=⎝⎛a11b11a21b21⋮am1bm1a12b12a22b22⋮am2bm2……⋱…a1nb1na2nb2n⋮amnbmn⎠⎞
と定義する。
こちらの方が,積としては自然と感じるかもしれません。ポイントは以下です。
Point~アダマール積~
- アダマール積は同じ形の行列に対して定義され,同じ形の行列を返す。
具体例を挙げましょう。
アダマール積の具体例
アダマール積の具体例
- ⎝⎛123⎠⎞⊙⎝⎛102⎠⎞=⎝⎛106⎠⎞.
- (1324)⊙(310−1)=(330−4).
アダマール積の性質
簡単な性質を確認しておきましょう。
命題(アダマール積の性質)
A,B,C を m×n 行列,O をm×n の零行列とすると,
- (A⊙B)⊙C=A⊙(B⊙C) (結合法則).
- A⊙B=B⊙A (交換法則).
- (A+B)⊙C=A⊙C+B⊙C (分配法則).
- O⊙A=A⊙O=O.
ほぼ明らかのため,証明は省略します。