ミンコフスキーの不等式とは, L^p ノルムに関する三角不等式
\|f+g\|_p\le \|f\|_p+\|g\|_p
のことをいいます。ミンコフスキーの不等式について,その証明を行いましょう。
ミンコフスキーの不等式
以下で, 1\le p<\infty のとき, \|f \|_p=\left(\int_\R |f|^p\,dx\right)^{1/p} であり, \|f\|_\infty = \inf\{ t\ge 0\colon \mu(|f|>t)=0\} ( |f| の本質的上限; esssup, \mu はルベーグ測度) とします。
また, f\colon \R\to\R \, (\text{or } \mathbb{C}) が f\in L^p(\R) というのは, \|f\|_p<\infty を意味します。 L^p(\R) とは, \|f\|_p<\infty となるような関数全体の集合です。
ミンコフスキーの不等式 (Minkowski’s inequality)
1\le p\le \infty,\; f,g\in L^p(\R) とする。このとき,
\Large\color{red}\|f+g\|_p\le \|f\|_p+\|g\|_p
が成り立つ。特に, f+g\in L^p(\R) である。
1\le p<\infty のときは
\small \color{red}\!\! \left(\int_\R |f+g|^p\,dx\right)^{1/p}\!\!\! \le \!\left(\int_\R |f|^p\,dx\right)^{1/p}\!\!\!\!\!+\!\left(\int_\R |g|^p\,dx\right)^{1/p}
ですね。
ミンコフスキーの不等式は L^p(\R) がノルム空間であるということを示しています。
実際, f,g\in L^p(\R)\implies f+g\in L^p(\R) より L^p(\R) はベクトル空間であり,また,ミンコフスキーの不等式そのものは,ノルムに関する三角不等式になっていますね。ノルムは,定義から三角不等式を必ず満たさねばなりませんから,これは L^p(\R) がノルム空間であることの証明の一部になっています。
また,これはより一般の L^p 空間でも成立します。すなわち, 1\le p<\infty のときは
\small \color{red} \!\! \left(\int|f+g|^p\,d\mu\right)^{1/p}\!\!\! \le \! \left(\int|f|^p\,d\mu\right)^{1/p}\!\!\!\!\!+\!\left(\int |g|^p\,d\mu\right)^{1/p}
が成り立ちます( \mu はより一般の測度)。さらに,級数版のミンコフスキーの不等式
も同様に成り立ちます。
ミンコフスキーの不等式の証明
p=\infty のときは絶対値の三角不等式からほぼ明らかなので,それ以外の場合について \|f+g\|_p\le \|f\|_p+\|g\|_p を証明しましょう。
証明
1\le p<\infty のときに証明する。
簡単のため, \alpha=\|f\|_p ,\; \beta=\|g\|_p と書くことにする。 \alpha=0 なら f=0,\,\text{a.e.} であり,不等式は明らかである。同様に \beta=0 のときも明らかなので, \alpha,\beta>0 としてよい。
\tilde{f}=f/\alpha,\; \tilde{g}=g/\beta とする。このとき, \|\tilde{f}\|_p=\|\tilde{g}\|_p=1 であることに注意する。
\begin{aligned} |f+g|^p&\le \bigl||f|+|g|\bigr|^p =(\alpha |\tilde{f}|+\beta|\tilde{g}|)^p\\ &= (\alpha+\beta)^p\!\left(\frac{\alpha}{\alpha+\beta}|\tilde{f}|+\frac{\beta}{\alpha+\beta}|\tilde{g}|\right)^p \\ &\le (\alpha+\beta)^p\!\left(\frac{\alpha}{\alpha+\beta}|\tilde{f}|^p+\frac{\beta}{\alpha+\beta}|\tilde{g}|^p\right)\end{aligned}
ただし,最後の不等式は関数 x\mapsto x^p の凸性を用いた。両端辺を積分すると,
であるから, \|f+g\|_p\le \|f\|_p+\|g\|_p が成り立つ。
証明終
無事に証明できましたね。キーとなるのは x\mapsto x^p の凸性でした。
p=1 のとき,等号成立はa.e.で f,g が同符号になるときです。
また, 1<p<\infty のとき, x\mapsto x^p は狭義凸なので,等号成立は f=0,\,\text{a.e.} または g=0,\,\text{a.e.} または g=cf,\, \text{a.e.} となる定数 c\ge 0 が存在するとき( \tilde{f}=\tilde{g},\,\text{a.e.} のとき)になります。