チコノフの定理とは,コンパクトな空間の直積はコンパクトであるという定理です。選択公理が必要な定理で,普通に証明しようとすると複雑ですが,ネット(有向点族)あるいはフィルターの概念を認めると簡単に証明できます。
本記事では,ネット(有向点族)・フィルターの概念を認めて証明しましょう。
チコノフの定理
チコノフの定理 (Tychonoff’s theorem)
\Alpha を空でない集合とし,各 \alpha\in\Alpha に対し, (X_\alpha, \mathcal{O}_\alpha) は位相空間とする。
このとき,直積空間 X=\prod_{\alpha\in\Alpha} X_\alpha がコンパクトである必要十分条件は,各 X_\alpha がコンパクトであることである。
\implies の証明は簡単です。 p_\alpha\colon X\to X_\alpha を自然な射影とすると,p_\alpha は連続であり,コンパクト集合の連続像はコンパクトであるから, X がコンパクトならば X_\alpha もコンパクトです。
チコノフの定理は選択公理と同値な命題として知られています。まあ位相空間の多くの議論は,選択公理を無意識に使っていることもありますから,今さら強調して言うことではないのかもしれませんがね。
チコノフの定理の証明

\impliedby の証明をしましょう。ネット(有向点族)あるいはフィルターの知識を認めると,ものすごく簡単に証明できるので,今回はネット(有向点族)を使った証明と,フィルターを使った証明を紹介しましょう。
ネット(有向点族)を使った証明
普遍ネット(超ネット)を用いると簡単に証明できます。
\impliedby のネットによる証明
(x_\lambda)\subset X を普遍ネットとする。普遍ネットの像は普遍ネットなので, \bigl(p_\alpha(x_\lambda)\bigr) は X_\alpha 上の普遍ネットである。
X_\alpha はコンパクトであり,コンパクト空間上の普遍ネットは収束するので, p_\alpha(x_\lambda)\to x_\alpha となる x_\alpha\in X_\alpha が存在する。
このとき, x=(x_\alpha)\in X とおくと,直積位相とネットの収束の関係により, x_\lambda\to x である。 X 上の任意の普遍ネットが収束するので, X はコンパクトである。
証明終
普遍ネット(超ネット)の概念をとらえるのに,選択公理を用いています。
フィルターを使った証明
フィルターの知識はあるものとします。
\impliedby のフィルターによる証明
\mathscr{F} を X 上の超フィルターとする。超フィルターの像は超フィルターなので, p_\alpha(\mathscr{F}) は X_\alpha 上の超フィルターである。
X_\alpha はコンパクトであり,コンパクト空間上の超フィルターは収束するので, p_\alpha(\mathscr{F})\to x_\alpha となる x_\alpha\in X_\alpha が存在する。
このとき, x=(x_\alpha)\in X とおくと,直積位相とフィルターの収束の関係より, \mathscr{F}\to x である。 X 上の任意の超フィルターが収束するので, X はコンパクトである。
証明終
その他の証明
ネット(有向点族)やフィルターを使わない証明もあり,それはたとえば内田伏一「集合と位相」や松坂和夫「集合・位相入門」には載っていますが,証明は長いです。正直,ネット(有向点族)やフィルターを使わない証明を理解するのに労力を使うくらいなら,ネット(有向点族)あるいはフィルターを学ぶ労力に回した方が良いと考えます。もちろん,ネット(有向点族)やフィルターを使わない証明を大した労力なく理解できる人もいるので,それを否定するわけではありません。
なお,有限個の直積の場合であれば,選択公理なしで証明できます。コンパクト空間とコンパクト集合について詳しく内で証明しています。