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【直積集合】集合の直積について詳しく~具体例10個~

集合と位相
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集合 A,B に対し,その直積 A\times B は, a\in A,\; b\in B の対(順序対) (a,b) の集合となります。

そんな直積について,2個の直積・n個の直積・無限個の直積を,具体例を添えながら,順番に解説していきましょう。

2つの集合の直積

2つの集合の直積とは

定義(2つの集合の直積)

集合 A,B に対して,その2つの要素 a\in A,\; b\in B を対にした (a,b) の集合

\color{red}A\times B = \{(a,b)\mid a\in A, \; b\in B\}


AB直積 (direct product) またはデカルト積 (Cartesian product)という。同じ集合の直積 A\times A \color{red} A^2 とも表す。

ここで, (a,b)順序対(じゅんじょつい; orderd pair)といいます。順序対は順序を考慮し,一般に (a,b)\ne (b,a) です。順序対の集合を直積というわけですね。

また,順序対は順序を考慮するわけですから,一般に A, B が空でないとき, A\ne B なら A\times B\ne B\times A も成り立ちます。

早速,具体例をみましょう。

2つの集合の直積の具体例

例1.

A=\{a,b,c\}, \; B=\{1,2\} とすると,

\small A\times B=\{ (a,1),(a,2),(b,1),(b,2),(c,1),(c,2)\} .

下のような表を考えると分かりやすいでしょう。

a b c
1 \color{red} (a,1) \color{red}(b,1) \color{red} (c,1)
2 \color{red} (a,2) \color{red} (b,2) \color{red}(c,2)

このように,集合 A,B の要素の個数(濃度)を |A|,|B| と表すことにすると, A\times B の要素の個数は |A\times B| = |A|\times |B| になります。

例2.

A=\{a,b\} とすると,

A^2 = \{ (a,a), (a,b), (b,a), (b,b) \}.

これも,下の表を考えるとよいです。

a b
a \color{red} (a,a) \color{red}(b,a)
b \color{red} (a,b) \color{red} (b,b)

例3.

実数全体の集合 \mathbb{R} に対して,

\mathbb{R}^2=\{ (x,y)\mid x\in \mathbb{R}, \; y\in \mathbb{R}\}


は,座標平面上の全ての点の集合を指す。

直積集合 R×Rのイメージ

また,他にも例えば区間の直積 [a,b] \times [c,d] は以下の黄色い部分の点の集合を指します。

直積集合 [a,b]×[c,d] のイメージ

最後に,以下の例も注意しておきましょう。

例4.

A,B のうち,少なくとも片方が空集合のときは A\times B =\emptyset である。

一つでも空集合があると,順序対が作れなくなってしまうので,直積は空集合になります。

n個の集合の直積

2つの順序対の集合を考えたのが 2 つの直積でした。これを, n 個の順序対の集合にしたものが, n 個の直積です。

n個の集合の直積とは

定義( n 個の集合の直積)

集合 A_1, A_2, \dots, A_n に対して,

\color{red}\begin{aligned} &A_1\times A_2\times \dots \times A_n \\ &=\{ (a_1,a_2,\dots,a_n)\mid a_k\in A_k\; (1\le k\le n)\}\end{aligned}


A_1,A_2,\dots, A_n直積 (direct product) またはデカルト積 (Cartesian product)という。これを, \displaystyle \color{red}\prod_{k=1}^n A_k とかくこともある。

同じ集合 A n 個の直積は \color{red} A^n とも表す。

2 個が理解できれば, n 個の直積も比較的容易に理解できるのではないでしょうか。

n個の集合の直積の具体例

例5.

A=\{1,2\},\; B=\{a,b\} , \;C=\{ \alpha, \beta\} とすると,

\begin{aligned}&A\times B\times C \\&= \{ (1,a,\alpha),(1,a,\beta), (1,b,\alpha), (1,b,\beta),\\ & \qquad (2,a,\alpha),(2,a,\beta), (2,b,\alpha), (2,b,\beta) \} .\end{aligned}

例6.

実数全体の集合 \mathbb{R} に対して,

\mathbb{R}^3=\{ (x,y,z)\mid x,y,z\in \mathbb{R}\}


は,座標空間上の全ての点の集合を指す。

一般に,集合 A の要素の個数(濃度)を |A| と表すことにすると, |A_1\times \dots \times A_n| = |A_1|\times \dots \times|A_n| になります。

A_1, \dots, A_n のうち,少なくとも一つが空集合のときは,その直積も空集合です。

直積集合と写像

ここからは少しレベルを上げて,直積集合と写像の関係について述べます。無限個の集合の直積を定義するにあたっては,この理解はほぼ必須です。逆に言えば,無限個の直積を知る必要がないのであれば,ここで引き返しても構いません。

さて,

(a_1, a_2, \dots, a_n)\in A_1\times A_2\times \dots \times A_n


とはどういう意味でしょうか。これは,各 1\le k\le n に対して, a_k\in A_k ですから,これは,各集合 A_k から一つずつ要素を選び,順番に並べたものと言えますね。

これをさらに言い換えると,これは,各集合の添え字 1\le k\le n に対して, a_k \in A_k を対応させているといえます。この対応は「写像」といえますね。

写像と順序対の対応

すなわち, (a_1, a_2, \dots, a_n) は, f(k) = a_k となる写像 f に対応しているわけです。直積集合は,そのような写像全体の集合と考えることができるため,以下のように書くことができます。

A_1\times\dots \times A_n = \{ f\mid f(k) \in A_k \; (1\le k\le n) \}.


ここで, f \color{red} f\colon \{1,2,\dots, n\} \to \bigcup_{k=1}^n A_k と考えるとよいです。このような定義域・終域を持つ写像のうち, f(k)\in A_k をみたすもの全体が,直積集合に対応しているわけです。
改めてちゃんと書くと,以下のようになります。

命題(直積集合と写像

A_k \; (1\le k \le n) を集合とする。このとき,

\color{red} \prod_{k=1}^n\! A_k\! = \!\left\{\! f\colon \! \{1,\dots, n\} \to \bigcup_{k=1}^n\! A_k \middle|\begin{aligned} &f(k) \in A_k \\ &{\small (1\le k\le n)}\end{aligned} \!\right\}


である。

「命題」としましたが,むしろ「順序対」なしで直積集合を定義しようと思うと,これを定義にした方が良いかもしれません。この発想を用いて,無限個の直積集合を定義しましょう。

無限個の集合の直積

無限個の直積集合は,ラフに言うと無限個の順序対 (a_1,a_2,\dots) と思うかもしれません。無限個の直積を考える機会が少ないのであれば,取り敢えずその理解でも良いでしょう。

ただし,実際はそれではいけません。無限と言っても非可算無限のこともあるので, (a_1,a_2,\dots) と思うのは少し無理があります。先ほどの写像の議論を用いて,厳密に定義しましょう。

既に確認したとおり,以下の定義は有限個の場合でも通用します。

無限個の集合の直積とは

定義(無限個の直積)

集合 \Lambda を添え字とする集合族 \{ A_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda} に対し,

\color{red} \prod_{\lambda\in\Lambda}\! A_{\lambda}\! = \!\Bigl\{\! f\colon \! \Lambda \to \bigcup_{\lambda\in\Lambda} \! A_\lambda \Bigm|f(\lambda) \in A_\lambda \;(\lambda\in\Lambda) \!\Bigr\}


\{ A_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}直積 (direct product)またはデカルト積 (Cartesian product)という。同じ集合の直積 \prod_{\lambda\in\Lambda} A \color{red} A^{\Lambda} とも表す。

先ほどの n 個の直積でやった写像の議論を,無限も許す場合に拡張していますね。ここでいう無限は,可算無限とは限らず,非可算無限でも構いません。

例を挙げておきましょう。

無限個の集合の直積の具体例

例7.

\prod_{x\in \mathbb{R}} \{x\} の元は, f(x)=x となる f\colon \mathbb{R}\to \mathbb{R} のみである。

例8.

\mathbb{N}=\{1,2,3,\dots \} とする。

\prod_{n\in\mathbb{N}} [n, n+1] の元は, n\le f(n)\le n+1 となる f\colon \mathbb{N}\to [1,\infty) である。特にこれは, n\le a_n\le n+1 となる数列 \{a_n\}_{n=1}^\infty と思える。すなわち,

\begin{aligned}&\prod_{n\in\mathbb{N}} [n, n+1]\\ &= \{ \{a_n\}\mid n\le a_n\le n+1\; (n\ge 1) \}\end{aligned}


である。

このように,添え字集合が \mathbb{N} であれば,無限個の順序対 (a_1,a_2, \dots ) と捉えることが可能である「数列」と思えますね。

例9.

定義より,

A^{\Lambda} = \{f\colon \Lambda\to A\}


である。すなわち, A^{\Lambda} は写像 f\colon \Lambda \to A 全体の集合である。

べき集合 2^A とかきますが,これは,べき集合は写像 f\colon A\to \{0,1\} の集合と思えるからです。

例10.

\{A_\lambda\}_{\lambda\in\Lambda} のうち,少なくとも一つが空集合であるとき, \prod_{\lambda\in \Lambda} A_{\lambda}=\emptyset である。

なお,一般に例10の逆「 A_\lambda \ne \emptyset \;(\lambda\in\Lambda)\implies \prod_{\lambda\in \Lambda} A_{\lambda} \ne \emptyset かどうかは自明ではありません。例7,8,9のような場合は空でないことが言えていますが,一般には空かどうかは確認不能であることが知られています。

そこで,これが空でないというのを認めるのが選択公理 (axiom of choice) です。これについては,以下で解説しています。