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べき集合とは何かをわかりやすく~定義と具体例と性質~

集合と位相
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大学数学において,「べき集合」は詰まりやすい概念の1つでしょう。一言でいうと,べき集合とは,ある集合の部分集合全体の集合を指します。これについて,その定義を,具体例を交えてわかりやすく解説し,最後に性質も述べます。

べき集合の定義

定義(べき集合)

A を集合とする。このとき,

\color{red}2^A = \{ E \mid E\subset A\}


Aべき集合 (冪集合;巾集合;power set) という。べき集合は \color{red} 2^A の他, \color{red} \mathcal{P}(A) \color{red} \mathfrak{P}(A) などと書かれることがある。

\mathcal{P},\mathfrak{P} はそれぞれ,カリグラフィー,フラクトゥールのPです。

A の部分集合全体の集合をべき集合というのですね。

そもそも「集合を要素にもつ集合」というものを考えたことがないかもしれません。高校生のうちは, \{1,2,3\} のように,集合の要素は「数」であることが多いでしょう。
しかし,別に集合の要素が集合であっても構いません。たとえば,A,B,C を集合としたときに,\{A,B,C\} のような,集合を要素にもつ新たな集合を考えてもいい訳です。

これを踏まえて,具体例を確認していきましょう。

べき集合の具体例

まずは図で考えてみましょう。以下のような,要素を2つ持つ集合を考えます。

〇□の二つの要素を持つ集合の絵
集合 A

これの部分集合は以下の4つですよね。(空集合や,元の集合そのものも部分集合になることに注意

〇□の2つの要素を持つ集合の部分集合
集合 A の部分集合たち

よって,これらを新たな「袋」に入れた以下の1つの大きな集合が,べき集合になります。

〇□の2つの要素を持つ集合のべき集合
集合 A のべき集合

このイメージを,実際に以下の例1で,確認してみましょう。

例1

A= \{a,b\} のべき集合は

2^A = \Bigl\{ \emptyset, \{a\}, \{b\}, \{a,b\}\Bigr\}


である。

さっきのイメージ図通り, A の部分集合は \emptyset, \{a\}, \{b\}, \{a,b\} の4つですから,その4つを要素にもつ集合が,べき集合になるわけですね。

さて,次は集合の要素数を増やしてみましょう。

例2

B=\{a,b,c\} のべき集合は

\begin{aligned}2^B=&\Bigl\{\emptyset,\{a\}, \{b\}, \{c\}, \\ & \{a,b\}, \{b,c\}, \{a,c\}, \{a,b,c\}\Bigr\} \end{aligned}


である。

B の部分集合は \emptyset,\{a\}, \{b\}, \{c\}, \{a,b\}, \{b,c\}, \{a,c\}, \{a,b,c\} の8つですから,その8つを要素にもつ集合が,べき集合になります。

さて次は,空集合のべき集合について,考えてみましょう。

例3

C=\emptyset に対し,

\begin{aligned}2^C &= \{\emptyset\}, \\ 2^{(2^C)} &= \bigl\{\emptyset, \{\emptyset\}\bigr\}, \\ 2^{(2^{(2^C)})}&= \Bigl\{\emptyset, \{\emptyset\}, \bigl\{\{\emptyset\}\bigr\}, \bigl\{\emptyset, \{\emptyset\}\bigr\} \Bigr\}\end{aligned}


である。

空集合のべき集合を考えるにあたっては,空集合という集合を部分集合に持つと考えます。 \emptyset の部分集合は \emptyset のみですから,べき集合は,この空集合を「袋」に入れて \{\emptyset \} となるわけです。これは,要素数が 1 個の集合です。(空集合は要素数が 0 個の集合です。)

さらにこの集合のべき集合 2^{(2^C)} を考えるときは, \{\emptyset \} から何も取らない部分集合 \emptyset と,集合全体をとると考える部分集合 \{\emptyset \} の2つがあると考え,それを大きな「袋」に入れた \{ \emptyset, \{\emptyset \}\} がべき集合になります。以下同様です。

べき集合の性質3つ

さて,べき集合の性質を考えましょう。

定理(べき集合の性質)

  1. E \subset A \iff E \in 2^A.
  2. A の要素数を \# A = n とするとき, \#2^A = 2^n である。
  3. A の集合の濃度と, 2^A の集合の濃度は等しくない。

1. の同値ついては,定義から,べき集合の要素はもともとの集合の部分集合ですから,直ちに従いますね。

2. について, n 個の要素をもつ部分集合は,各要素を「選ぶ」か「選ばない」かの2通りの選択肢があるため, 2^n 個の要素を持ちます。

3. について,有限個のときは,2で n < 2^n なので明らかですね。無限個のときは,対角線論法を使うことで,濃度が異なることが分かります(→カントールの対角線論法とそれを用いた証明)。

おわりに

数学において,べき集合の考え方は非常に重要です。位相空間論では「開集合族」,測度論では「シグマ加法族」は,べき集合の部分集合になります。しっかりマスターしておきましょう。

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