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コンパクト空間とコンパクト集合について詳しく

集合と位相
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位相空間におけるコンパクト集合とは,任意の開被覆に対し,その有限部分被覆が存在することを言います。

コンパクト性はある意味「コンパクト」にまとまった空間で,大雑把には,日常会話で使う「コンパクト」のイメージをそのまま持って構いません。性質が良く,たとえばコンパクト集合上の実連続関数は,最大値と最小値をもちます。紹介していきましょう。

コンパクト集合・コンパクト空間の定義

まず準備として,開被覆や有限部分被覆の定義をしてから,コンパクトの定義をしましょう。

開被覆・有限部分被覆

\mathcal{C}C の字の使い分けに注意してください。

定義1(開被覆)

(X,\mathcal{O})位相空間とし, A\subset X とする。また, \mathcal{C}\subset 2^X を部分集合族とする(2^Xべき集合)。

\Large\color{red} A\subset \bigcup_{C\in \mathcal{C}} C


が成り立つとき, \mathcal{C} A被覆するといい, \mathcal{C} A被覆 (covering) であるという。

\mathcal{C}\subset\mathcal{O} すなわち, \mathcal{C} の元が開集合であるとき, \mathcal{C}A開被覆 (open covering) であるという。

さらに,\mathcal{C}_0\subset \mathcal{C} A を被覆する,すなわち A\subset \bigcup_{C\in \mathcal{C}_0} C が成り立つとき, \mathcal{C}_0\mathcal{C}部分被覆 (subcovering) であるという。\mathcal{C}_0 が有限集合である( \mathcal{C}_0 に属する集合が有限個である)とき,\mathcal{C}_0有限部分被覆 (finite subcovering) であるという。

A を被覆するとは,和集合が A を覆っているということですね。これをもとにコンパクトの定義をしましょう。

コンパクト集合・コンパクト空間の定義

定義2(コンパクト空間とコンパクト集合)

(X,\mathcal{O})位相空間とし, A\subset X とする。また, \mathcal{C}\subset 2^X を部分集合族とする(2^Xべき集合)。

A の任意の開被覆 \mathcal{C} に対し,有限部分被覆 \mathcal{C}_0\subset \mathcal{C} が存在するとき, Aコンパクト集合 (compact set) であるという。

さらに, X 自体がコンパクト集合であるとき, (X,\mathcal{O})コンパクト空間 (compact space) であるという。

コンパクトの定義のイメージ

簡単に言うと, Aどんな開被覆を取ってきても,実はそのうちの有限個の集合で覆えているよということです。「どんな開被覆でも」というのがポイントで,たとえば, \{X\} は,任意の集合 A\subset X の開被覆になっていますが,だから任意の集合はコンパクトということにはなりません。開被覆の取り方を変えると,有限個で覆えていないかもしれないからです。一つでも有限個で覆えない A の開被覆が取ってこれれば,A はコンパクトではありません。

ここで,部分集合のコンパクト性を考えるにあたって,全体空間でコンパクトを考えているか,部分空間の相対位相でコンパクトを考えているかは,どっちで考えても変わりありません。

定理1(コンパクト集合と相対位相としてのコンパクト空間の一貫性)

(X,\mathcal{O})位相空間とし, A\subset X とする。次の2つは同値。

  1. A (X,\mathcal{O}) におけるコンパクト集合
  2. (A, \mathcal{O}_A) はコンパクト空間。ただし, (A, \mathcal{O}_A) (X,\mathcal{O})部分位相空間とする

O\in \mathcal{O} O\cap A\in\mathcal{O}_A を対応付けることで,簡単に証明できます。

証明

1.\implies 2.について

\mathcal{C}_A\subset \mathcal{O}_A A (A, \mathcal{O}_A) における開被覆とする。このとき,各 C_A\in\mathcal{C}_A に対し, C_A= C\cap A となる C\in \mathcal{O} が存在する。

\mathcal{C}=\{C\in\mathcal{O}\mid C\cap A\in\mathcal{C}_A\}


とすると,\mathcal{C} A (X, \mathcal{O}) における開被覆である。

A (X, \mathcal{O}) におけるコンパクト集合なので,有限部分被覆 \mathcal{C}'\subset \mathcal{C} が存在する。このとき,\mathcal{C}'_{A}= \{ C\cap A\mid C\in \mathcal{C}'\}\subset \mathcal{C}_A は, A \mathcal{C}_A についての有限部分被覆になっているため,示された。

2.\implies 1.について

\mathcal{C}\subset \mathcal{O}A (X, \mathcal{O}) における開被覆とする。\mathcal{C}_A= \{ C\cap A\mid C\in\mathcal{C}\} とすると,これは A (A, \mathcal{O}_A) における開被覆である。

(A, \mathcal{O}_A) はコンパクト空間なので,有限部分被覆 \mathcal{C}'_A\subset \mathcal{C}_A が存在する。\mathcal{C}_A の定義により, C_1, \ldots, C_n\in\mathcal{C} を用いて,

\mathcal{C}'_A=\{ C_1\cap A,\ldots, C_n\cap A\}


とかける。\mathcal{C}'=\{C_1,\ldots, C_n\}A\mathcal{C} についての有限部分被覆となっているから,示せた。

証明終

なお文献によっては,コンパクト性の定義に,ハウスドルフ性を加えることもあります。

コンパクト集合・コンパクト空間の具体例

例1( \R).

\R は通常の位相について,コンパクト空間ではない。また, a<b に対し,開区間 (a,b) はコンパクト集合でないが,閉区間 [a,b] はコンパクト集合である。

たとえば,

\R = \bigcup_{n=-\infty}^\infty (n, n+2)


なので, \{ (n, n+2)\}_n は開被覆ですが,ここから有限個を持ってきても,和集合が \R 全体になることはないので, \R はコンパクトではありません。また, (a,b) もコンパクトではありません。なぜなら,

(a,b)= \bigcup_{n=1}^\infty \left(a, b-\frac{1}{n}\right)


なので, \{ (a, b-1/n)\}_n は開被覆ですが,ここから有限個を持ってきても, (a,b) は覆えないからです。一方で, [a,b] はコンパクトになります。これはハイネ–ボレルの被覆定理といいます。ハイネ–ボレルの被覆定理とその証明~有界閉区間のコンパクト性~で証明しています。

一般に, \R^n の部分集合がコンパクトになる必要十分条件は,それが有界閉集合になることです。これは, M>0 に対し,後の定理2.6から, [-M, M]^n がコンパクトになることと,後の定理2.2より分かります。たとえば,円周 S^1=\{ (x,y)\in\R^2\mid x^2+y^2=1\} はコンパクトです。

例2(密着空間・離散空間).

密着空間 (X, \{ \emptyset, X\}) は,任意の部分集合がコンパクトである。特に密着空間はコンパクト空間である。

離散空間 (X, 2^X) の部分集合 A\subset X がコンパクトになる必要十分条件は, A が有限集合であることである。

密着空間における被覆は \{X\} しかないので,任意の開被覆が有限被覆です。よって,コンパクトです。

離散空間は,全ての1点集合が開集合です。よって, \mathcal{C}=\bigl\{\{a\} \mid a\in A\bigr\} とおくと,\mathcal{C} は開被覆になり,A=\bigcup_{C\in\mathcal{C}}C です。さらに, \mathcal{C} の中の元が一つでも欠けると, A を被覆しないので, \mathcal{C} そのものが有限集合であるかどうかで, A がコンパクトかが決まります。

より一般に, \mathcal{O}_1\subset \mathcal{O}_2 X 上の位相としたときに, (X,\mathcal{O}_2) における部分集合 A\subset X がコンパクトならば, A (X,\mathcal{O}_1) においてもコンパクトになります。なぜなら, (X,\mathcal{O}_1) における開被覆は, (X,\mathcal{O}_2) における開被覆でもあるため, (X,\mathcal{O}_2) のコンパクト性から,有限部分被覆が取ってこれるからです。

コンパクト性とは,位相空間が小さい(粗い・弱い)ほど,成り立ちやすい性質です。

例3(有限部分集合).

(X, \mathcal{O})位相空間とする。このとき,任意の有限部分集合はコンパクトである。

例2.で,離散位相上で有限部分集合がコンパクトであることと,例2.で述べたように, \mathcal{O}_1\subset \mathcal{O}_2 X 上の位相としたときに, (X,\mathcal{O}_2) における部分集合 A\subset X がコンパクトならば, A (X,\mathcal{O}_1) においてもコンパクトになることから,直ちに従います。

もう少し非自明で,かつ確認が簡単な例を考えましょう。

例4(補有限位相).

X を空でない集合とし,

\mathcal{O} =\{ O\subset X\mid X\setminus O\text{ is finite}\}


を,補集合が有限集合となる部分集合族とすると, (X,\mathcal{O})位相空間となる。この空間はコンパクト空間である。

\mathcal{C} を開被覆とし, C\in\mathcal{C} を一つ取ります。このとき, X\setminus C は有限集合なので, X\setminus C=\{x_1, \ldots, x_n\} とかけます。 x_1\in C_1, \ldots, x_n \in C_n となる C_1, \ldots, C_n \in\mathcal{C} を取ると,\mathcal{C}_0 =\{C, C_1, \ldots, C_n\} は有限部分被覆となっており,コンパクト性が示せました。

例5(除外点位相).

X を空でない集合とし, x\in X とする。

\mathcal{O}=\{ O\subset X\mid x\notin O\}\cup \{X\}


を, x を含まない部分集合族(と \{X\} の和集合)とすると, (X,\mathcal{O})位相空間となる。この空間はコンパクト空間である。

x\in X を含む開集合は, X しかないので, X の開被覆 \mathcal{C} \{X\}\subset \mathcal{C} となります。有限部分被覆が取れたので, X はコンパクトです。

なお, X\setminus\{x\} は離散空間になりますから, X が無限集合のときは, X\setminus\{x\} はコンパクトにはなりません。これは,コンパクト空間でも,その部分集合はコンパクトとは限らないことを示しています(これ自体は,たとえば, (0,1)\subset[0,1] などでも示せます)。ちなみに,コンパクト空間の部分集合はコンパクトになります。後の定理2.2で紹介します。

例6(特定点位相).

X を無限集合とし, x\in X とする。

\mathcal{O}=\{ O\subset X\mid x\in O\}\cup \{\emptyset\}


を, x を含む部分集合族(と \{\emptyset\} の和集合)とすると, (X,\mathcal{O})位相空間となる。

このとき,\{x\} は1点集合なのでコンパクトであるが,その閉包 \overline{\{x\}}=X はコンパクトでない。

これは,部分集合 A がコンパクトでも,その閉包 \overline{A} はコンパクトとは限らないことを示しています。

例7(距離空間).

距離空間 (X, d) の部分集合 A\subset X に関して,以下は同値

  1. A はコンパクト
  2. A は点列コンパクト
  3. A全有界かつ完備

点列コンパクト (sequentially compact) とは,任意の点列 \{ a_n\}\subset A が, A 内の元に収束する部分列を含むことを言います。

これについては,いずれ別の記事で証明しましょう。

コンパクト集合・コンパクト空間の性質

以下は,コンパクトにおける重要かつ基本的な性質たちです。

定理2(コンパクト空間の性質)

  1. コンパクト集合の有限個の和集合はコンパクト
  2. コンパクト空間の閉部分集合はコンパクトである
  3. ハウスドルフ空間のコンパクト集合は閉集合である
  4. コンパクト集合の連続写像もコンパクトである
  5. (最大値・最小値定理)コンパクト空間上の実連続関数は最大値と最小値をもつ
  6. (チコノフの定理)コンパクト空間の直積空間はコンパクトである

順番に証明していきましょう。

2.1 コンパクト集合の有限個の和集合はコンパクトであること

(X,\mathcal{O})位相空間とし, A_1, A_2,\ldots, A_n\subset X をコンパクトとするとき, B=A_1\cup A_2\cup\cdots \cup A_n もコンパクトであることを示しましょう。

証明

\mathcal{C} B の開被覆とする。 A_1\subset B なので, \mathcal{C} A_1 の開被覆でもある。 A_1 はコンパクトより,有限部分被覆 \mathcal{A}_1\subset \mathcal{C} が存在する。

同様に, A_2,\ldots, A_n の有限部分被覆 \mathcal{A}_2,\ldots, \mathcal{A}_n も存在し,\mathcal{B}=\bigcup_{k=1}^n \mathcal{A}_k とすると,これは,B の被覆になっている。\mathcal{B} \mathcal{C} の有限部分被覆となるから, B はコンパクトである。

証明終

2.2 コンパクト空間の閉部分集合がコンパクトであること

(X,\mathcal{O}) をコンパクト空間とし, A\subset X を閉部分集合とするとき, A がコンパクトであることを示しましょう。

証明

\mathcal{C} A の開被覆とする。このとき, A^c は開集合だから, \mathcal{C}\cup \{A^c\} X の開被覆となる。 X はコンパクトなので,有限部分被覆 \mathcal{C}_0 が存在する。 \mathcal{C}_0\setminus \{A^c\}\subset \mathcal{C} A の有限部分被覆になっていなければおかしいので,題意は示された。

証明終

\mathcal{C}\cup \{A^c\} X の開被覆となっていることがポイントです。

2.3 ハウスドルフ空間のコンパクト集合は閉集合であること

(X,\mathcal{O}) をハウスドルフ空間とし, A\subset X をコンパクトとしたとき, A が閉集合になることを示しましょう。

証明

x\in X\setminus A とする。このとき, \mathcal{C}=\{ O\in \mathcal{O}\mid x\notin \overline{O}\} A の開被覆になる。なぜなら, X はハウスドルフ空間より,各点 a\in A に対し, a\in O かつ x\notin \overline{O} となる O\in\mathcal{O} が存在するからである。

A はコンパクトなので,有限個の集合 C_1, C_2,\ldots, C_n \in \mathcal{C} が存在して,

A\subset C_1\cup C_2\cup \cdots \cup C_n


とできる。両辺閉包を取ると,【位相空間】閉包とは~定義と例と性質~で解説した通り,

\overline{A}\subset \overline{C_1}\cup \overline{C_2}\cup \cdots \cup \overline{C_n}


となる。右辺は x を含まないので, x\notin \overline{A} となる。任意の x\in X\setminus A でそうなるから,A は閉集合である。

証明終

2.4 コンパクト集合の連続写像の像もコンパクトであること

(X,\mathcal{O}_X),(Y, \mathcal{O}_Y)位相空間とし, f\colon X\to Y連続とする。 A\subset X をコンパクトとするとき,その f(A)\subset Y もコンパクトである

これを証明しましょう。

証明

\mathcal{C}\subset \mathcal{O}_Y f(A) の開被覆とすると, f 連続より, \{ f^{-1}(C)\mid C\in\mathcal{C}\} A の開被覆となる。A はコンパクトより,有限部分被覆 \{f^{-1}(C_1), \ldots, f^{-1}(C_n)\} が存在する。すなわち,

A\subset f^{-1}(C_1)\cup \cdots \cup f^{-1}(C_n)


となるが,両辺 f で送ると,写像の像・逆像と集合との演算証明より,

\begin{aligned} f(A)&\subset f\circ f^{-1}(C_1)\cup \cdots \cup f\circ f^{-1}(C_n) \\ &\subset C_1\cup \cdots\cup C_n \end{aligned}


となる。したがって, f(A) もコンパクトである。

証明終

2.5 コンパクト空間上の実連続関数は最大値と最小値をもつこと

(X,\mathcal{O}_X) をコンパクト空間とし, f\colon X\to \R連続としたときに,最大値と最小値を持つことを示しましょう。

証明

定理2.4より, f(X)\subset \R はコンパクトである。例1.で述べたように, f(X) は有界閉集合であるから,最大値と最小値をもつ。

証明終

2.6 コンパクト空間の直積空間はコンパクトであること

\{(X_\lambda, \mathcal{O}_\lambda)\}_{\lambda\in\Lambda} をコンパクト空間の族とすると,その直積空間 \prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda もコンパクトである

これはチコノフの定理 (Tychonoff’s theorem) と呼ばれ,証明には選択公理が必要です。有限個の直積の場合は,選択公理は不要ですので,ここでは有限個に限って証明することにしましょう。2個の直積について言えれば,帰納的に n 個の直積についても言えるので,2個の場合を示します。具体的には,以下を示しましょう。

(X,\mathcal{O}_X),(Y, \mathcal{O}_Y) をコンパクト空間とするとき,その直積空間 X\times Y もコンパクトである。

証明には,射影 p\colon X\times Y \ni (x,y)\mapsto x\in Xq\colon X\times Y \ni (x,y)\mapsto y\in Y を用います。

有限個の場合の証明

\mathcal{C} X\times Y の被覆とする。 x\in X とし,

\mathcal{C}_x = \{ C\in\mathcal{C}\mid x\in p(C)\}


とする。\mathcal{C} X\times Y の開被覆より,q(\mathcal{C}_x) = \{ q(C_x)\mid C_x\in\mathcal{C}_x\} Y の開被覆である(射影は開写像であることに注意)。

Y はコンパクトより,有限部分被覆 \{ q(C_{x,1}),\ldots, q(C_{ x, n_x})\}\subset q(\mathcal{C}_x) があって,

Y = q(C_{x,1})\cup\cdots \cup q(C_{ x, n_x})


とできる。 O_x= p(C_{x,1})\cap\cdots\cap p(C_{x, n_x}) とすると,射影は開写像なのと,開集合の有限個の共通部分は開集合なので, O_x は開集合であり, x\in O_x かつ C_{x, 1},\ldots, C_{x, n_x} O_x\times Y を被覆する。

\mathcal{X}=\left\{ O\in\mathcal{O}_X\middle| \begin{gathered}\exists l\ge 1, \exists\{C_k\}_{k=1}^l \subset \mathcal{C}, \\ O\times Y\subset \bigcup_{k=1}^l C_k\end{gathered}\right\}


すなわち,\mathcal{X} O\times Y\mathcal{C} に属する有限個の集合で覆えるような O\in\mathcal{O} 全体の集合と定めると, \{O_x\}_{x\in X}\subset \mathcal{X} より,\mathcal{X} X の開被覆であるが, X はコンパクトより,有限部分被覆 \{X_k\}_{k=1}^m \subset\mathcal{X} があって, X = X_1\cup \cdots \cup X_m とできる。

X\times Y = \bigcup_{k=1}^m (X_k\times Y)


であり,各 X_k\times Y\mathcal{C} に属するの有限個の集合で被覆できるので, X\times Y\mathcal{C} に属するの有限個の集合で被覆できる。よって, X\times Y もコンパクトである。

証明終

3. コンパクト性 ⇔ 有限交叉性

ド・モルガンの法則によって補集合に着目することで,コンパクトと同値な条件が作れます。

位相空間 (X, \mathcal{O}) がコンパクト空間であるとは,任意の \mathcal{C}\subset \mathcal{O} に対し,

\bigcup_{C\in \mathcal{C}}C=X ならば,ある有限部分集合 \mathcal{C}_0\subset \mathcal{C} が存在して, \bigcup_{C\in \mathcal{C}_0} C=X

ということができます。ここで, \mathcal{F} を閉集合族としましょう。すると,上の条件は,任意の \mathcal{D}\subset \mathcal{F} に対し,

\bigcup_{D\in \mathcal{D}}D^c=X ならば,ある有限部分集合 \mathcal{D}_0\subset \mathcal{D} が存在して, \bigcup_{D\in \mathcal{D}_0} D^c=X

と換言できます。さらに,ド・モルガンの法則を用いると,任意の \mathcal{D}\subset \mathcal{F} に対し,

\bigcap_{D\in \mathcal{D}}D=\emptyset ならば,ある有限部分集合 \mathcal{D}_0\subset \mathcal{D} が存在して, \bigcap_{D\in \mathcal{D}_0} D=\emptyset

といえます。さらに対偶を取ると,任意の \mathcal{D}\subset \mathcal{F} に対し,

任意の有限部分集合 \mathcal{D}_0\subset \mathcal{D} に対して, \bigcap_{D\in \mathcal{D}_0} D\ne \emptyset ならば, \bigcap_{D\in \mathcal{D}}D\ne \emptyset

と言い換えることができます。赤字の部分が成り立つとき, \mathcal{D}有限交叉性 (finite intersection property) をもつといいます。これにより,以下の定理が成り立ちます。

定理3(コンパクト性 ⇔ 有限交叉性)

(X, \mathcal{O})位相空間とし,\mathcal{F} を閉集合族とする。このとき,以下は同値

  1. X はコンパクト空間
  2. 閉集合族 \mathcal{D}\subset \mathcal{F} が有限交叉性をもつならば, \bigcap_{D\in \mathcal{D}}D\ne \emptyset である。

2.とはすなわち,任意の有限個の共通部分が空でなければ,全体の共通部分も空でないと言っています。

4. ネット(有向点族)によるコンパクト性の特徴付け

例7.で,距離空間上の部分集合 A がコンパクトであることは,任意の点列 \{ a_n\}\subset A が, A 内の元に収束する部分列を含むこと(すなわち点列コンパクト)と同値だと述べました。

一般の位相空間では,点列ではダメですが,それを一般化したネット(有向点族)で,類似のことが言えます。

定理4(コンパクト ⇔ 収束部分ネットの存在)

(X,\mathcal{O})位相空間とする。このとき,以下は同値

  1. X はコンパクト
  2. X 上の任意のネット(有向点族)が収束する部分ネットをもつ

ネット(有向点族)の知識がないと読めませんが,一応証明をかいておきます。

証明

1.\implies 2.について

(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}\subset X をネットとする。

F_\lambda =\overline{\{x_\mu \mid \mu\ge \lambda\}}


とおくと, \{ F_\lambda\}_{\lambda\in\Lambda} は有限交叉性をもつ。実際, \lambda_1,\ldots, \lambda_n\in \Lambda とすると, \Lambda は有向集合より, \mu\ge \lambda_1,\ldots,\mu\ge \lambda_n となる \mu \in\Lambda がとれ, x_\mu \in \bigcap_{k=1}^n F_{\lambda_k} となるからである。ゆえに,定理3より,x\in \bigcap_{\lambda\in\Lambda} F_\lambda が存在する。

よって, x の任意の近傍 N_x について, (x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda} is frequently in N_x なので, x (x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda} の集積点である。よって,収束する部分ネットをもつ。

2.\implies1.について

\mathcal{C} X の開被覆とする。

\Lambda = \{\lambda \subset \mathcal{C}\mid \lambda \text{ is finite}\}


を有限部分集合の族とすると,\Lambda は包含関係によって有向集合である。 X がコンパクトでないとすると,任意の \lambda\in \Lambda に対し,

x_\lambda \in X\setminus \bigcup_{C\in\lambda} C=\bigcap_{C\in\lambda} (X\setminus C)


が取れる。ネット (x_\lambda) は2.の仮定より集積点 x\in X をもつ。 \mathcal{C} は開被覆より,\bigcap_{C\in\mathcal{C}} (X\setminus C)=\emptyset であるが,これは矛盾している。

実際, C_x\in \mathcal{C} x近傍とすると, (x_\lambda) is frequently in C_x なので,ある \{C_x\}\le \lambda (すなわち \{C_x\}\subset \lambda )が存在して, x_\lambda \in C_x とならねばならないが, x_\lambda はその取り方から C_x には入らないので,矛盾している。

証明終

ネット(有向点族)で扱うと,一般のコンパクト性も明快です。

コンパクトに関連する概念

最後に,コンパクトに関係する概念を紹介しましょう。用語は[4]にならっています。

名称定義
コンパクト (compact)任意の開被覆が有限部分被覆をもつ
局所コンパクト (locally compact)任意の点がコンパクトな近傍をもつ
強局所コンパクト (strong locally compact)任意の点がコンパクトな閉近傍をもつ
相対コンパクト (relatively compact)閉包がコンパクトな部分集合
可算コンパクト (countably compact)任意の可算開被覆が有限部分被覆をもつ
リンデレーフ (Lindelöf)任意の開被覆が可算部分被覆をもつ
点列コンパクト (sequentially compact)任意の点列が収束部分列をもつ
擬コンパクト (pseudocompact)この上の任意の実連続関数有界
σコンパクト (σ-compact)コンパクト集合の可算和でかける空間
メタコンパクト (metacompact)任意の開被覆が点有限な(すなわち,各点ごとに有限個の集合でしか覆われていない)部分被覆をもつ
パラコンパクト (paracompact)任意の開被覆が局所有限な(すなわち,各点ごとに有限個の集合でしか覆われていない近傍をもつような)部分被覆をもつ

関連する記事

参考

  1. 内田伏一「集合と位相」(裳華房 数学シリーズ, 増補新装版, 2020)
  2. 松坂和夫「集合・位相入門」 (岩波書店 数学入門シリーズ,新装版,2018)
  3. Gert K. Pedersen, Analysis Now. Springer, 1989.
  4. L. A. Steen, J. A. Seebach, Counterexamples in Topology, 2nd edition. Springer, 1978.