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位相空間論におけるオススメの本・参考書9選

集合と位相本・サイトの紹介
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大学数学における位相空間論を勉強するにあたって,おすすめの書籍や参考書を紹介します。

【数学科向け】本格的な位相空間論の書籍

まずは数学科向けの,これを知っておけば間違いない,メジャーで本格的な書籍を紹介します。

1. 内田伏一「集合と位相」裳華房

本格的な位相空間論の本の筆頭としてまず挙げられるのは,本書か,次の2.の本でしょう。大学の授業の参考書として挙げられることも多いです。次の2.より本書の方がコンパクトに必要事項がまとまっている一方,2.より少し行間は広めです。

ロングセラーな書籍であり,誤植が全然ないのもよいところです。増補新装版として,組版は現代調に改められており,読みやすいです。

ただし,具体例は少なめです。ずっと抽象論が展開されるため,抽象的な議論に慣れていない人には,洗礼を受けるかもしれません。

本格的な書籍ですので,ある程度数学力に自信のある人におすすめです。時間があるならばじっくり読むのもよし,時間がなければ辞書的に使ってもよいでしょう。仲間同士でゼミをするのもおすすめです。

2. 松坂和夫「集合・位相入門」岩波書店

これも1.と同様,本格的な位相空間論の本の筆頭です。1.との違いは,本書の方が日本語の説明が丁寧で,行間が少なめです(ただ本格的な書籍なのは同じで,難しいことに変わりはないです)。また,1.にない順序数の話が載っています(ただし順序数の話は初学者にとって無くてもよいです)。その分,1.よりページ数は多く,位相空間の定義まで到達するのが遠いです(1.は256ページ,本書は340ページ)。

こちらも1.と同様,ロングセラーな書籍であり,誤植が全然ありません。また,新装版として,組版は現代調に改められており,読みやすいです。また,具体例は少なめです。

ただ,本書は少しだけ言葉遣いがマイナーなことがあります。たとえば,選択公理は「選出公理」と呼んでいます。また,節末の問題の解答は必ずしも後ろに載っていないです

本格的な書籍ですので,ある程度数学力に自信のある人におすすめです。個人的には,コンパクトにまとまっている1.の方が好きですが,本書の方が行間は少なく,独学はしやすいかもしれません。

3. 斎藤毅「集合と位相」東京大学出版会

この本は上の2冊に比べてかなり難しいです。初学者向けというより,一度位相空間論を学んだことがある人におすすめです。

この本は,単に位相空間論を展開するだけでなく,圏論やより進んだ代数学・幾何学のトピックを絡めながら話を展開しています。「よりみち」と称して,かなり多くの概念を紹介していますが,位相にあまり慣れていない人にとっては,逆に「よりみち」が本文を圧迫しているとも言えます。非常に抽象的な議論が多く,具体例は小さく問題に追いやられている印象です。一応各節末に「まとめ」があり,何を学んだかが分かりやすいようにはなっています。

応用的なトピックであるルベーグ数のほか,射影直線のコンパクト性を用いた代数学の基本定理の証明まで載っています。一方で,開集合系以外による位相空間の生成(基本近傍系による位相空間の生成など)のような,発展性の低い位相空間論そのもののトピックは載っていないことがあります。

また本書は,通常は位相空間の定義より前にある,集合の濃度可算集合・非可算集合ツォルンの補題のような話が後ろにあります。

発展的なトピックに触れることで,無機質な位相空間に色を付けたい人におすすめです。

より入門的な位相空間論の書籍

より入門的な位相空間論の書籍も紹介しましょう。

4. 志賀浩二「位相への30講」朝倉書店

初めて位相空間論を学ぼうとする人の,とっかかりの一冊としてオススメです。ただし,数学科の人にとっては,この本では十分ではありません。より本格的な本への橋渡しとして活用するのが良いでしょう。ただし,定義や証明が「お気持ち」先行であいまいなところがあるため,厳密な議論しか受け付けない人にとっては逆に読みにくいかもしれません。イメージはしやすい構成になっています。

まず,ユークリッド空間 \R^n距離空間について,コンパクト性や連結性の話までした後に位相空間の定義をしているため,かなりイメージを持ちやすい構成である反面,位相空間の定義自体はかなり後半しか出てきません。

また,入門的書籍ではありますが,本書を読みこなすには,前提知識としてイプシロンデルタ論法による極限の議論や,可算集合・非可算集合の話を知っておいた方が良いです

5. 藤岡敦「手を動かして学ぶ集合と位相」裳華房

入門向けのカテゴリーに入っていますが,平易かと言われると微妙で,すでに紹介した本格的な書籍よりは簡単ですが,そこそこ難しいです。ツォルンの補題整列可能定理の証明,基本近傍系による位相の生成など,挫折しやすいがそこまで重要でない定理は証明を省略しています。一方で,押さえておくべき概念は一通りきちんと紹介してあります。

レイアウトについて,本書は文字が大きめで,さらに定理などに枠囲みがあり,かなり読みやすくなっています。

「手を動かして学ぶ」とありますが,例題が多く配置されており,例題を解きながら進められるようになっています。ただ,実際は例題の直後に解答があり,手を動かさなくても普通に読む人が多いのではないかと感じます。普通の参考書が単に例として紹介しているものを,例題という形で配置しているような感じです。

あと本書は,直和位相やパラコンパクト空間について扱っている部分があり,面白いです。

6. 太田春外「はじめての集合と位相」日本評論社

本のタイトルや,表紙のデザインの感じから非常に簡単な本に思うかもしれませんが,中身はそこそこ本格的で,基本的な内容は十分押さえられます。数学科の学生が,参考書ではなく,大学の講義で「集合と位相」を学ぼうとする場合,このくらいの難易度なのではないかというくらいのレベル感です。要は割と本格的で良い書籍です。上の藤岡敦「手を動かして学ぶ集合と位相」より難しいです。

ただ個人的には,タイトル故に,この本で勉強してしまうと「まだ位相空間は十分でない」と感じてしまうのではないかと思います。そうであるならば,普通に最初に紹介した本格的な書籍を持っておくのが良いと思います。本書が十分に読みこなせる人は,松坂和夫「集合・位相入門」でもほとんど読めると思います。

その他

他に,関連する本をいくつか紹介します。

7. Steen, Seebach「Counterexamples in Topology」Springer

この本は,位相空間論を知っている人向けに,〇〇は成り立つが●●は成り立たないような位相空間論の例が143個も挙げられている本です。位相空間の具体的な例にたくさん触れることができるので,位相空間論の理解を深めるのにオススメです。

ただし,位相空間論について解説している本ではないです。あくまで知っている人向けに具体例を羅列している本です。

8. Pedersen「Analysis Now」Springer

この本は位相空間論の本ではなく,関数解析の本です。ただ,最初の40ページほどで位相空間論の話がコンパクトにまとまっていて,一度位相空間論を学習したことのある人にとっては,これがとても簡潔で分かりやすいです。証明込みでこんなにコンパクトにまとめられるのかと読んだときは感動しました。また,ネット(有向点族)による位相空間論が載っているのが良いです。他にも,σコンパクト性やパラコンパクト性まで載っており,解析系の人にはぜひおすすめしたい本です。

9. 藤田博司「集合と位相をなぜ学ぶのか―数学の基礎として根づくまでの歴史」技術評論社

位相空間論そのものの参考書ではなく,歴史的経緯やその周辺話題について扱っている読み物です。読み物といっても,文字ばっかりで埋め尽くされているのではなく,数式はかなり多いです。フーリエ級数とかも出てきます。目次を調べてみてください。

息抜きに読むのが良いでしょう。

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