PR

巡回行列式の計算

線形代数学
記事内に広告が含まれています。

特殊で有用な行列式の計算の一つに,巡回行列における行列式の計算が挙げられるでしょう。これについて紹介します。

巡回行列とは

まずは巡回行列を定義します。

定義(巡回行列)

\color{red} \begin{pmatrix} x_0 & x_1 & x_2 &\dots & x_{n-1} \\ x_{n-1} & x_0 & x_1 & \dots & x_{n-2} \\ x_{n-2} & x_{n-1} & x_0 & \dots & x_{n-3} \\ \vdots & \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ x_1 & x_2 & x_3 & \dots & x_0 \end{pmatrix}


の形の n 正方行列巡回行列 (circulant matrix) という。

各成分がくるくる回って「巡回」していますね。

巡回行列式の計算

上のような巡回行列の行列式は,以下のようになることが知られています。

巡回行列式に関する定理

定理(巡回行列式)

\color{red} \begin{aligned} &\begin{vmatrix} x_0 & x_1 & x_2 &\dots & x_{n-1} \\ x_{n-1} & x_0 & x_1 & \dots & x_{n-2} \\ x_{n-2} & x_{n-1} & x_0 & \dots & x_{n-3} \\ \vdots & \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ x_1 & x_2 & x_3 & \dots & x_0 \end{vmatrix} \\ &= \prod_{\zeta} (x_0 + \zeta x_1 + \zeta^2 x_2 + \dots \zeta^{n-1} x_{n-1} ) \end{aligned}


である。ただし, \zeta 1 n 乗根全体にわたる。

早速証明しましょう。

証明

証明には,行列の基本変形とそのときの行列式の変化の法則を用います。これについて詳しくは行列式(det)の定義と現実的な求め方~計算の手順~も参照してください。

証明

\zeta 1 n 乗根の一つとする。行列式の第 i ( i=2,3\dots,n ) \zeta^{i-1} を掛けたものを第 1 列に加えることで,

\begin{aligned} &\begin{vmatrix} x_0 & x_1 &\dots & x_{n-1} \\ x_{n-1} & x_0 & \dots & x_{n-2} \\ x_{n-2} & x_{n-1} & \dots & x_{n-3} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ x_1 & x_2 & \dots & x_0 \end{vmatrix} \\ &= \begin{vmatrix} \sum_{k=0}^{n-1} \zeta^k x_k& x_1 &\dots & x_{n-1} \\ \zeta \sum_{k=0}^{n-1} \zeta^k x_k & x_0 & \dots & x_{n-2} \\ \zeta^2 \sum_{k=0}^{n-1} \zeta^k x_k & x_{n-1} & \dots & x_{n-3} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ \zeta^{n-1} \sum_{k=0}^{n-1} \zeta^k x_k & x_2 & \dots & x_0 \end{vmatrix} \end{aligned}


がわかる。よって,求める行列式は

\sum_{k=0}^{n-1} \zeta^k x_k = x_0 + \zeta x_1 + \zeta^2 x_2 + \dots \zeta^{n-1} x_{n-1}


で割り切れる。 1 の全ての n 乗根についてこのことが分かるから,因数定理により求める行列式は

\prod_{\zeta} (x_0 + \zeta x_1 + \zeta^2 x_2 + \dots \zeta^{n-1} x_{n-1} )


で割り切れる。これは n 次式であるから,求める行列式はこれ以上因数を持たない。求める行列式は上の定数倍であり,求める行列式の x_0^n の係数は 1 であるから,結局上の式そのものが求める行列式である。

証明終

その他の特殊で有用な行列式

その他の特殊で有用な行列式には,以下のようなものがあります。

一般の行列式の性質については,以下の記事を参照してください。