数学でよく出てくる「定義・公理・定理・命題・補題・系」について,何を表しているか,それらの違いを解説します。
これらを正しく理解しておくことは,数学を学ぶ上で必須ですので,完全理解を目指しましょう。
なお,これは一般的な専門数学における用語解説であり,他の文脈では意味が変わることがあります。
定義とは
定義とは,辞書を作るのようなものです。辞書は,ある「もの」や「こと」に対して,名前が定められています。定義とはそういう「言葉」の意味を定めるものです。
具体例を挙げてみましょう。
「定義」の例
- 2で割れる整数を偶数,割れない整数を奇数という。
- 2辺の長さが等しい三角形を二等辺三角形という。
- ある点に対して,その点から等距離にある点の集まりを円という。
ある「ことがら」に対して,それに名前を付けていますね。
なお,本サイトで定義を記すときは,一貫して緑のboxを用いています。
公理とは
公理とは,性質の決まりごとです。これは,「なぜそうなるの」とか「証明して」と聞くのは NG で,「そういうもの」として定めたものです。
具体例を挙げましょう。
「公理」の例
- 異なる2点を通る直線はただ一つ存在する。
- 並行でない2直線はただ1点のみで交わる。
- 集合 A ,B が全く同じ要素を持てば,同じ集合である。
最初の2つは「ユークリッド幾何学」によるもので,最後は「公理的集合論」によるものです。多くの数学では,これらを無意識に仮定しているでしょう。
公理は正しいかどうか証明されませんから,別の”前提”を公理とすることもできます。
公理(すなわち前提)を変えると,全く別の世界が広がっていることだってあります。非ユークリッド幾何学がその一例です。
定理・命題・補題・系とは
命題とは
命題とは,真偽が論理的に明確にわかるものです。ここでいう「論理的」とは,公理という「前提」の上で成り立つものです。
そういう点で,公理は真と認めているわけですから,公理も命題の一つと言えます。公理は「証明する必要のない命題」です。
また,「命題」は,他の命題を用いて示しても構いません。他の命題も,結局論理的な証明によって言えたものであるからです。
「命題」の例
- いま東京に住んでいる人は,いま日本に住んでいる。
- 偶数と偶数の和は偶数である。
- 二等辺三角形の2つの底角の大きさは等しい。
どれも真ですね。基本的に,教科書や論文などで単に「命題」といったときには,それは”真”である主張を意味します。もちろん,偽であるものを「命題」ということもあります。
定理・補題・系とは
定理・補題・系は全て「命題」の一種で,重要度が違うだけです。「重要度」とは実社会や数学にインパクトを与えるもの,他の定理に応用が利くもの,証明が難しいもの等を指します。
重要度をまとめてみると,
定理 > 命題 > 補題 > 系
となります。
※ 「系」は定理・命題に付随するため,付随する定理・命題によっては非常に重要なものである場合があります。
※ ここでいう「命題」とは,定理・補題・系と呼ばれない「残りもの」を意味します。
実際のところ,重要度とは非常に主観的なものです。ある論文では主結果であるため「定理」であっても,他の論文であれば「補題」になってしまうことだってあります。
数学ではさまざまな「命題」を扱うので,重要度が分かった方が都合が良いです。そのため,このようになっているんですね。
有名な例を少しだけ挙げておきます。
「定理」の例は高校数学ではお馴染みのものでしょう。
「補題」については,大学数学におけるツォルン (Zorn) の補題が有名ですが,有名であるとはすなわち「重要である」ということであり,あくまで伝統的に「補題」と呼んでいるだけです。
なお,本サイトで命題・定理・補題・系を記すときは,一貫して青のboxを用いています。
まとめ
最後に要旨をまとめておきましょう。
数学を学ぶ上でこれら,特に定義・公理・定理の区別は必ず明確にせねばなりません。何が何だか分からないまま数学を学習しても,理解したとは言えないでしょう。
この記事が多くの方の参考になれば幸いです。