多変数関数に関して,ある1変数のみを変数とみて,残りの変数を定数と見たときの微分を偏微分と言います。
本記事では,偏微分の定義・例題・図形的意味について,まず 2 変数関数の場合を考え,それから n 変数関数の場合を解説しましょう。
2変数関数における偏微分
まずは,2変数関数 f\colon \mathbb{R}^2\to \mathbb{R} について,偏微分を導入しましょう。
終域は \mathbb{R}^2 ではなく \mathbb{R} であることに注意してください。
【2変数】偏微分への誘い
f(x,y) = x^2 + 2xy + y^2+3 という2変数関数を考えましょう。これを, y を定数とみて,x について微分することを考えます。
y を定数とみるとは,たとえば y=a とするとわかりやすいでしょう。
こうすると, f(x,a) = x^2+ 2ax + a^2+3 となって,右辺を x について微分すると, 2x+ 2a となりますね。
今,わざわざ y=a としましたが, y のままでも変数 y を定数とみることで,微分は 2x+2y になることが分かるでしょう。
このように,2変数関数に関して,その1つの変数を定数とし,もう1つの変数で微分したものを「偏微分」といいます。厳密な定義を述べましょう。
【2変数】偏微分・偏導関数の定義
定義(2変数関数の偏微分・偏導関数)
2変数関数 f(x,y) は, (a,b)\in\mathbb{R}^2 の周りで定義されているとする。このとき,
\color{red}f_x(a,b) = \lim_{h\to 0} \frac{f(a+h,b)-f(a,b)}{h}
が存在するならば,それを点 (a,b)\in\mathbb{R}^2 における x に関する偏微分 (partial derivative) という。これは, \color{red} f_x(a,b) の他に,
などと書かれる。
また,
\color{red} f_x(x,y) = \lim_{h\to 0} \frac{f(x+h,y)-f(x,y)}{h}
が任意の (x,y) で存在するとき, f_x(x,y) を2変数関数とみて,これを f(x,y) の x に関する偏導関数という。
y に関する偏微分
\color{red} f_y(x,y) = \lim_{h\to 0} \frac{f(x,y+h)-f(x,y)}{h}
も同様に定義され,\displaystyle \color{red}\partial_y f(x,y),\quad \frac{\partial f}{\partial y}(x,y),\quad \frac{\partial }{\partial y}f(x,y) も同様に書かれる。
の形が, y を定数とみて, f を x で微分した形になっているのが分かるでしょうか。
たとえば, y を定数として,g(x) = f(x,y) としましょう。すると,
\begin{aligned}&\lim_{h\to 0} \frac{f(x+h,y)-f(x,y)}{h}\\&=\lim_{h\to 0} \frac{g(x+h)-g(x)}{h} = \frac{dg}{dx}(x)\end{aligned}
ですから,そうなっていますね。
ここで注意ですが, f が (a,b) で偏微分可能であるからと言って,この点で連続であるとは限りません。あくまで x\mapsto f(x,b),\; y\mapsto f(a,y) の連続性しか言えないです。
【2変数】偏微分・偏導関数の計算例題
早速,具体的な計算を確認してみましょう。
例題1.
f(x,y) =x^3 + 4x^2 y - 5y^2-2x+3 とするとき, f_x(x,y),\; f_y(x,y),\; f_y(1,2) をそれぞれ求めよ。
片方の変数を定数とみなしてしまえば,後は1変数のときの計算と全く同じです。計算すると,
\begin{aligned}f_x(x,y) &= 3x^2+8xy-2, \\ f_y(x,y) &= 4x^2-10y \end{aligned}
ですね。また, f_y の式に (x,y)=(1,2) を代入することで,
も分かりますね。
例題2.
f(x,y)=\dfrac{1}{x^2+y^2+1} としたとき,偏導関数 f_x,f_y を求めよ。また, f_x(1,-1) を求めよ。
ですね。また,1つ目の式に代入することで, f_x(1,-1) = -2/9 もわかります。
【2変数】偏微分・偏導関数の図形的意味
偏微分の図形的意味を考えましょう。図は,例題2を使います。
y を定数とみて x で微分するとは,元のグラフ z=f(x,y) と y=a の交線を考え,その交線の接線の傾きを求める操作に相当します。 y を固定した微分ですから, z=f(x,y) で y=a としてしまった部分にのみ注目して, xz 平面での曲線についての微分のように扱えばよいわけです。
下の図は,例題2において, f_x(1,-1) が表す接線(の傾き)です。
【2変数】高階偏微分の定義
偏導関数 f_x. f_y は,それ自身も2変数関数ですから,その関数が滑らかであれば,さらなる偏微分を考えることができます。
定義(高階偏微分・高階偏導関数)
f_x をさらに x で偏微分した2階偏導関数を
\color{red} \begin{aligned} f_{xx} &= (f_x)_x, & \partial^2_x f &=\partial_{xx} f = \partial_x \partial_x f, \\ \frac{\partial^2 f}{\partial x^2} &= \frac{\partial}{\partial x}\left(\frac{\partial f}{\partial x} \right), & \frac{\partial^2}{\partial x^2}f &= \frac{\partial}{\partial x}\frac{\partial }{\partial x} f \end{aligned}
などとかく。 f_x をさらに y で偏微分した2階偏導関数を
などとかく。また,たとえば
なども同様に定義される。 f_y をさらに偏微分する場合も同じである。
【2変数】高階偏微分の計算例題
高階偏微分の計算も,例を交えて確認していきましょう。
例題3.
f(x,y) = e^{xy} について, f_{xx}, f_{xy}, f_{yx}, f_{yy} をそれぞれ求めよ。
複数回の微分は,1回ずつ微分していくしかないです。今回の場合は,1回微分すると
f_x = ye^{xy}, \quad f_y=xe^{xy}
ですから,
が成り立ちます。
ここで, f_{xy}=f_{yx} が成立していますね。これは,必ずしも一致しているとは限りませんが, f_{xy}, f_{yx} が連続であれば, f_{xy}=f_{yx} が成立することが知られています(→【fxy=fyx】シュワルツの定理とその証明~偏微分の順序交換~)。微分の順番は,多くの場合あまり気にしなくてもよい,ということですね。
多変数関数における偏微分
ここまで2変数で説明してきましたが,より一般に, f\colon \mathbb{R}^n\to \mathbb{R} でも同様に定義できます。1変数のみ変数と見,残りを定数と見た微分を偏微分といいます。
【多変数】偏微分の定義
定義(多変数関数における偏微分)
n 変数関数 f(x_1,x_2,\dots, x_n) について,
\color{red}\begin{aligned}&f_{x_j}(a_1,\dots, a_n) \\&=\lim_{h\to 0} \frac{\begin{aligned}&f(a_1,\dots, a_j + h, \dots, a_n) \\&\qquad - f(a_1,\dots, a_j, \dots, a_n)\end{aligned}}{h}\end{aligned}
( x_j 成分のみ a_j+h, a_j とする)が存在するとき,これを点 (a_1, \dots, a_n)\in\mathbb{R}^n における, x_j に関する偏微分 (partial derivative) といい, f_{x_j}(x_1,\dots, x_n) を n 変数関数と見たもの(が存在するとき,それ)を x_j に関する偏導関数という。
高階偏微分 \dfrac{\partial^{j_1+\dots +j_n} }{\partial x_1^{j_1}\dots \partial x_n^{j_n}}f も(存在すれば)同様に定義可能です。
【多変数】偏微分の計算例題
例題4.
f(x_1, x_2, \dots, x_n) = x_1+x_2^2 + \dots +x_n^n であるとき, f_{x_j} を求めよ。
f_{x_j} を求めるには, x_j のみを変数とみて,x_1, \dots, x_{j-1}, x_{j+1}, \dots, x_n を定数とみて微分すればよいです。答えは
f_{x_j}(x_1,x_2,\dots, x_n) = j x_j^{j-1}
ですね。