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相対位相と部分位相空間の定義・具体例5つ・性質5つ

集合と位相
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位相空間論における相対位相とは,位相空間の部分集合に入る位相のことです。元の位相と同じ性質を引き継ぐこともあれば,全く異なる性質を持つこともあります。相対位相・部分位相空間について,その定義と具体例・性質とその証明をしていきます。

相対位相と部分位相空間の定義

定義(相対位相と部分空間)

(X,\mathcal{O})位相空間とする。 A\subset X を空でない部分集合とする。

\Large\color{red}\mathcal{O}_A =\{U\cap A\mid U\in\mathcal{O}\}


とすると, (A,\mathcal{O}_A)位相空間になる。これを A 上の相対位相 (relative topology) といい, (A,\mathcal{O}_A) X部分空間 (subspace) または部分位相空間 (topological subspace) という。

相対位相のイメージ

また, \mathcal{F} = \{ X\setminus U \mid U\in\mathcal{O}\} X の閉集合族とすると,(A,\mathcal{O}_A) の閉集合族は

\Large \color{red} \mathcal{F}_A = \{ F\cap A \mid F\in \mathcal{F}\}


となります。実際, F\cap A = (X\setminus U)\cap A = A\setminus (U\cap A) となることから証明できます。

相対位相と部分位相空間の具体例5つ

例1.

(0,1]\subset \R に, \R の相対位相を入れた空間を考える。このとき,

  1. (0,1] は開集合かつ閉集合である
  2. (a,1]\;\; (0\le a<1) は開集合である
  3. (0, b]\;\; (0<b\le 1) は閉集合である
  4. (a, b) \;\; (0\le a<b\le 1) は開集合である
  5. [a, b] \;\; (0< a<b\le 1) は閉集合である

(0, 1] \R の部分集合としては開集合でも閉集合でもありませんが,(0,1] を全体集合とした部分空間としては,開集合かつ閉集合です。

2.は, (a,1] = (a,2)\cap (0,1] とかけ, (a,2)\R における開集合のため,正しいです。もちろん, (a,1] \R における開集合ではありません。

3.は, (0,b] = [0,b] \cap (0,1] とかけ, [0,b]\R における閉集合のため,正しいです。もちろん, (0,b] \R における開集合ではありません。

このように,相対位相では,元の空間では開集合や閉集合でなかったものが,開集合や閉集合になることがあります。

例2.

整数全体の集合 \mathbb{Z}\subset \R \R の相対位相を入れると,離散位相となる。

離散位相とは,すべての部分集合が開集合になるような位相空間です。 n \in \mathbb{Z} に対し, \{n\} = (n-1/2, n+1/2)\cap \mathbb{Z} ですから,すべての1点集合は開集合です。

例3.

[0,1]\cup [2,3]\subset \R\R の相対位相を入れると,

  1. [0,1], [2,3] は開集合かつ閉集合である。特に,この部分空間は連結でない

[0,1]=(-1, 3/2)\cap ( [0,1]\cup [2,3]) ですから, [0,1] は開集合です。 [2,3] も同様です。

例4.

有理数全体の集合 \mathbb{Q}\subset \R\R の相対位相を入れると,

  1. (0,1)\cap \mathbb{Q} は開集合だが閉集合でない
  2. (0,\sqrt{2})\cap \mathbb{Q} は開集合だが閉集合でない
  3. (\sqrt{2},\sqrt{3})\cap\mathbb{Q} は開集合かつ閉集合である。特に,この部分空間は連結でない
  4. \{q\}\;\;(q\in\mathbb{Q}) は閉集合だが開集合でない。特に,この相対位相は離散位相ではない

3.については, (\sqrt{2},\sqrt{3})\cap\mathbb{Q}= [\sqrt{2},\sqrt{3}]\cap\mathbb{Q} ですから,開集合かつ閉集合ですね。

例5.

S^1=\{ (x, y)\in\R^2\mid x^2+y^2=1\} に, \R^2 の相対位相を入れた空間を考える。このとき,

  1. \{ (x, y)\in S^1 \mid y>0\} は開集合だが閉集合でない
  2. \{ (x, y)\in S^1 \mid y\ge 0\} は閉集合だが開集合でない

\R^2 においては,1.は開集合ではないです。一方で2.は \R^2 においても閉集合です。

相対位相と部分位相空間の性質5つとその証明

続いて,相対位相の性質を見ていきましょう。

1. 相対位相と誘導される位相の関係

定理1(誘導される位相)

(X, \mathcal{O})位相空間とし, A\subset X とする。さらに, i\colon A\to X包含写像とする。このとき, i から誘導される A の位相は A の相対位相と一致する。

証明

i から誘導される位相は \{ i^{-1}(U)\mid U\in \mathcal{O}\} と書けるが, i^{-1}(U)= U\cap A なので,これは相対位相の定義に一致している。

証明終

2. 相対位相と開集合・閉集合

定理2(相対位相と開集合・閉集合)

(X, \mathcal{O})位相空間とし, (A, \mathcal{O}_A) をその部分空間とする。このとき,

  1. B\subset A X における開集合(閉集合)ならば A においても開集合(閉集合)である。
  2. A が開集合であるとき, B\subset A A における開集合ならば, X においても開集合である。
  3. A が閉集合であるとき, B\subset A A における閉集合ならば, X においても閉集合である。
  4. B\subset A について, \overline{B}^A = \overline{B}^X\cap A である。ここで, \overline{B}^A, \overline{B}^X はそれぞれ, B A, X の位相における閉包を表す。

なお,上の具体例でみたように,一般には A における開集合・閉集合が X においても開集合・閉集合になるとは限りません。

以下で, X, A における閉集合系をそれぞれ \mathcal{F}, \mathcal{F}_A と書くことにします。

証明

1.について

B\in \mathcal{O} とすると, B= B\cap A\in\mathcal{O}_A なので, B A における開集合である。

また, B\in \mathcal{F} とすると, B= B\cap A\in\mathcal{F}_A なので, F A における閉集合である。

2.について

B\in \mathcal{O}_A とすると,ある U\in\mathcal{O} が存在して, B = U\cap A とできる。いま, A\in\mathcal{O} という仮定があるから, B\in \mathcal{O} である。よって, B X においても開集合である。

3.について

2.の \mathcal{O}, \mathcal{O}_A \mathcal{F},\mathcal{F}_A に置き換えれば同様である。

4.について

相対位相の定義の直後の解説により,\overline{B}^X\cap AA における閉集合である。また, B\subset \overline{B}^X\cap A であるから,

\overline{B}^A \subset \overline{B}^X\cap A


である。一方で同じく相対位相の定義の直後の解説により, \overline{B}^A = F\cap A となる X の閉集合 F が存在する。 \overline{B}^A \supset B\cap A であるから, F\supset B である。ゆえに F\supset \overline{B}^X なので,

\overline{B}^A \supset \overline{B}^X\cap A


以上から, \overline{B}^A = \overline{B}^X\cap A が示せた。

証明終

3. 相対位相の相対位相

定理3(相対位相の相対位相)

(X, \mathcal{O})位相空間とし, B\subset A\subset X,さらに (A, \mathcal{O}_A) X の部分空間とする。このとき,

B A の部分空間とみたときの相対位相と, X の部分空間とみたときの相対位相は一致する。すなわち,

\Large\color{red} (\mathcal{O}_A)_B = \mathcal{O}_B


である。

証明

(\mathcal{O}_A)_B\subset \mathcal{O}_B について

W\in (\mathcal{O}_A)_B とすると,ある V\in \mathcal{O}_A が存在して,W = V\cap B と表せる。また,ある U\in\mathcal{O} が存在して, V = U\cap A と表せるため,

W = U\cap A\cap B = U\cap B \in \mathcal{O}_B


よって (\mathcal{O}_A)_B\subset \mathcal{O}_B である。

\mathcal{O}_B\subset (\mathcal{O}_A)_B について

W\in\mathcal{O}_B とすると,ある U\in\mathcal{O} が存在して, W = U\cap B と表せる。これは,

\begin{aligned} W &= U\cap B= U\cap (A\cap B)\\&= (U\cap A)\cap B \in( \mathcal{O}_A)_B \end{aligned}


であるため, \mathcal{O}_B\subset (\mathcal{O}_A)_B である。

証明終

4. 相対位相と連続写像

定理4(相対位相と連続写像)

( X, \mathcal{O}_X), (Y, \mathcal{O}_Y)位相空間とし, A\subset X を部分空間とする。 f\colon X\to Y を連続写像とするとき,

  1. 定義域を部分空間 A\subset X に制限した写像 f|_A \colon A\to Y も連続である
  2. 終域を部分空間 f(X)\subset Y に制限した写像 f\colon X\to f(X) も連続である

証明

1.について

V\in \mathcal{O}_Y とすると, f は連続より, f^{-1}(V)\in \mathcal{O}_X である。ここで,

{f|_A}^{-1}(V)=f^{-1}(V)\cap A


であり,後者は部分空間 A における開集合であるから, f|_A は連続である。

2.について

部分空間 f(X)\subset Y における開集合は V\in\mathcal{O}_Y を用いて V\cap f(X) とかける。これは,

\begin{aligned} f^{-1} (V\cap f(X)) &= f^{-1}(V) \cap f^{-1}(f(X))\\&= f^{-1}(V)\cap X\\&= f^{-1}(V) \in\mathcal{O}_X\end{aligned}


となるため, f\colon X\to f(X) は連続である。

証明終

5. 相対位相によって保たれる性質・保たれない性質

定理5(相対位相によって保たれる性質)

(X, \mathcal{O})位相空間とし, (A, \mathcal{O}_A) をその部分空間とする。

  1. X がハウスドルフ空間のとき, A もハウスドルフ空間である
  2. X が第一可算なら, A も第一可算である
  3. X が第二可算なら, A も第二可算である
  4. A X閉集合であるとする。このとき, X がコンパクト空間なら A もコンパクト空間である
  5. A X開集合であるとする。このとき, X が可分空間なら A も可分空間である

証明

1.について

x, y\in A を異なる2点とする。 X はハウスドルフ空間だから,ある開集合 U, V\in\mathcal{O}

x\in U, \, y\in V,\, U\cap V=\emptyset


とできる。 U_A = U\cap A, \, V_A=V\cap A とすると, U_A, V_A\in \mathcal{O}_A であり,

x\in U_A, \, y\in V_A,\, U_A\cap V_A=\emptyset


であるから, A もハウスドルフ空間である。

2.について

a\in A に対して,\mathcal{N}(a) X における a\in X の基本近傍系とすると,

\mathcal{N}_A(a) =\{ N\cap A\mid N\in \mathcal{N}(a)\}


は, A における a\in A の基本近傍系であることが示せる。よってわかる。

3.について

\mathcal{B}\subset\mathcal{O} X の開基とすると,

\mathcal{B}_A =\{ B\cap A\mid B\in \mathcal{B}\}


\mathcal{B}_A\subset \mathcal{O}_A であり,A の開基であることが示せる。よってわかる。

4.について

A の開被覆を \mathcal{C}\subset \mathcal{O} とすると,A^c は開集合であるから,\mathcal{C}\cup \{ A^c\} X の開被覆になる。

X はコンパクトであるから,\mathcal{D}\subset \mathcal{C} が存在して, \mathcal{D}\cup \{ A^c\} X の有限部分被覆になる。

ここで, \mathcal{D}_A = \{ D\cap A\mid D\in\mathcal{D}\} とすると, \mathcal{D}_A\subset \mathcal{O}_A A における有限開被覆になる。よって,A はコンパクトである。

5.について

D\subset X X において稠密であるとき, D\cap A A において稠密であることを示す。

B\subset A A における開集合とする。 A X における開集合なので,定理2.2より, B X における開集合である。よって, D\cap B \ne \emptyset であり,

D\cap B = D\cap (A\cap B)=(D\cap A)\cap B


なので, (D\cap A)\cap B\ne\emptyset となる。ゆえに, D\cap AA において稠密であることが示せた。 D可算集合と思うと, D\cap A も高々可算集合なので,示せた。

証明終

定理5とは逆に,相対位相によって保たれない性質も紹介しましょう。

相対位相によって保たれない性質

(X, \mathcal{O})位相空間とし, (A, \mathcal{O}_A) をその部分空間とする。

  1. X がコンパクト空間でも, A はコンパクト空間とは限らない
  2. X が可分空間でも, A は可分空間とは限らない
  3. X が連結でも, A が連結とは限らない

定理5のとおり,1.は A が閉集合でないと成り立たないし,2.は A が開集合でないと成り立ちません。

1.については, (0,1)\subset \R に,通常の \R から定まる相対位相を入れたものが反例になります。\{ (0, 1-1/n)\} (0,1) における開被覆ですが,有限部分被覆は存在しません。

2.については,ゾルゲンフライ平面 \R^2 とその部分空間 \Delta= \{ (x,-x)\mid x\in \R\} があげられます。ゾルゲンフライ平面とは,

\{ [a,b)\times [c,d) \mid a,b,c,d\in\R\}


を開基とする位相空間 \R^2 のことです。この位相空間は可分ですが,部分空間 \Delta は離散空間となり,集合として非可算集合なので,可分ではありません。ゾルゲンフライ平面については,そのうち別の記事で詳しく紹介することにしましょう。

3.については例えば, (0,1)\cup (2,3)\subset \R に,通常の \R から定まる相対位相を入れたものが反例になります。 (0,1), (2,3) が相対位相における開集合ですので, \R は連結ですが, (0,1)\cup (2,3) は連結ではありません。

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