リースの表現定理とは,ヒルベルト空間上の有界線形汎関数は,内積の形で書けるということを主張する定理です。
リースの表現定理について,その主張と証明を紹介し,さらにその帰結として,ヒルベルト空間とその双対空間はある意味「同一視」できることを証明します。
リースの表現定理とその証明
本記事では,x,y の内積を ⟨x,y⟩ と表記します。
リースの表現定理 (Riesz’s representation theorem)
H をヒルベルト空間とし,H∗ をその双対空間(有界線形汎関数全体のなす空間)とする。このとき,任意の f∈H∗ に対し,ある y∈H が一意的に存在して,
f(x)=⟨x,y⟩,x∈H
とできる。
ヒルベルト空間上の有界線形汎関数は,常に内積の形で書けるということですね。証明しましょう。
証明
f=0 なら,y=0 とすればよい。f∈H∗∖{0} のとき
N=Kerf と定める(→Kernel)と,N⊊H であり,f の連続性から N は閉部分空間である。射影定理より,H=N⊕N⊥ である。y′∈H⊥ を f(y′)=1 となるようにとる。このとき,x∈H に対し,x−f(x)y′∈N なので,x−f(x)y′⊥y′ に注意して,
⟨x,y′⟩=⟨x−f(x)y′+f(x)y′,y⟩=⟨f(x)y′,y′⟩=f(x)∥y′∥H2.
ゆえに,y=y′/∥y′∥H2 と定めると,⟨x,y⟩=f(x) となる。
y の一意性を示す。一意でないとして,y1,y2∈H が f=⟨⋅,y1⟩=⟨⋅,y2⟩ をみたすなら,⟨⋅,y1−y2⟩ は零写像であるが,⟨y1−y2,y1−y2⟩=∥y1−y2∥2=0 に矛盾する。
証明終
なお,証明中の N⊥ は一次元空間になります。これは,C が一次元空間であることが密接に関係しています。
リースの表現定理からの帰結
定理(H≃H∗)
H を C 上のヒルベルト空間とする。Φ:H→H∗ を Φ(y)=⟨⋅,y⟩ と定めると,これは以下の意味で H から H∗ への等長反同型(等長共役同型)となる。
- Φ(ax+by)=aΦ(x)+bΦ(y),x,y∈H,a,b∈C
- Φ は全単射
- ∥Φ(y)∥H∗=∥y∥H
ヒルベルト空間は双対空間と内積が「同じようなもの」ということです。非常に良い性質を持っていることが分かると思います。
なお,定理は C 上のヒルベルト空間としていますが,R 上のときは,H と H∗ は等長同型といえます。
証明
1.は確認すればわかる。2.について,全射性はリースの表現定理よりよい。単射性は3.と線形写像が単射になる必要十分条件は核(Ker)が0になる証明よりよい。
3.を示す。 x∈H に対し,コーシーシュワルツの不等式より,
∥Φ(y)(x)∥=∣⟨x,y⟩∣≤∥x∥∥y∥.
両端辺 sup∥x∥=1 をとると ∥Φ(y)∥≤∥y∥ となる。一方で,
∥Φ(y)(y)∥=∣⟨y,y⟩∣=∥y∥2
も成り立つから,∥Φ(y)∥=∥y∥ となる。
証明終
この定理より,特に H=H∗∗ も分かりますから,ヒルベルト空間は回帰的(反射的)といえます。
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