位相空間の部分集合が,稠密(ちゅうみつ)であるとは,閉包が全体集合に一致することを言い,可分であるとは,高々可算な稠密部分集合を持つ位相空間のことを言います。
稠密の定義と可分の定義を,それぞれたくさんの具体例を添えて確認していきましょう。
稠密性(ちゅうみつせい)の定義と具体例3個
まずは稠密性の定義と具体例を述べましょう。
稠密性の定義
定義(稠密)
(X,\mathcal{O}) を位相空間とし, A\subset X とする。
A が X において稠密 (ちゅうみつ, dense) であるとは,
\Large \color{red}\overline{A}=X
が成り立つことを言う。ただし, \overline{A} は A の閉包を表す。
稠密の「稠」の漢字に注意してください。
定義より, A\subset B\subset X で A が X において稠密なら, B も X において稠密です。また, X は明らかに X において稠密です。
稠密性の具体例
稠密の例1(\R).
ユークリッド空間 \R において,有理数全体の集合 \mathbb{Q}\subset \R は稠密である。
\overline{\mathbb{Q}}=\R ですから稠密です。有理数の稠密性には,以下の記事でも解説しています。
上の記事では,稠密性の定義を,「任意の開区間が有理数を含む」としていますが。これはすなわち「無理数の部分集合である開集合は空集合以外存在しない」ということなので, \operatorname{Int}(\R\setminus\mathbb{Q})=\emptyset です。ただし, \operatorname{Int} は集合の内部(開核)を指します。これはすなわち, \overline{\mathbb{Q}}=\R ということです。
\overline{A}=X ですから,空集合でない全ての部分集合は稠密になりますね。
A\subset X に対し,\overline{A}=A ですからね。
可分性の定義と具体例8個
稠密性の定義を理解していれば,可分性の定義も理解できるはずです。
可分性の定義
定義(可分)
(X, \mathcal{O}) を位相空間とする。この位相空間が高々可算な稠密部分集合を持つとき,この位相空間は可分 (separable) や可分空間 (separable space) という。
要するに,可算部分集合 A\subset X が存在して, \overline{A}=X が成り立つとき,可分空間というんですね。可算については,可算集合と非可算集合(可算無限・非可算無限)で解説しています。
可分性の具体例
ここからは,可分空間の具体例を見ていきましょう。
可分の例1(\R).
ユークリッド空間 \R は通常の位相で可分である。
\overline{\mathbb{Q}}=\R であり,有理数全体の集合 \mathbb{Q} は可算集合なので,可分だとすぐ分かりますね。
可分の例2.
X が高々可算集合であるような位相空間 (X,\mathcal{O}) は可分である。
\overline{X}=X であり, X 自体が高々可算なので,可分ですね。
可分の例3(密着位相).
(X, \{\emptyset, X\}) を密着空間とすると,この空間は可分である。
X の空でない任意の部分集合が稠密になりますから,可分になります。
可分の例4(離散位相).
離散位相空間 (X, 2^X) が可分である必要十分条件は, X が高々可算集合であることである。
稠密の例3でも述べた通り,離散空間では \overline{A}=A なので, X 自身以外に稠密な部分集合はありません。
可分の例5(第二可算公理をみたす空間).
位相空間 (X,\mathcal{O}) は第二可算公理をみたすとする。このとき,この空間は可分である。
第二可算ならば可分は成立しますが,逆は成立しないことが知られています。ただし, (X,\mathcal{O}) が距離化可能ならば,逆も成立することが知られています。
ここから先は,関数解析でよく使う可分空間の例を挙げます。
可分の例6(連続写像の空間).
C[0,1]=\{ f\colon [0,1]\to\R\mid f\text{ is continuous}\} を,連続写像 f\colon [0,1]\to\R 全体の集合とする。この空間は,
\| f-g\|= \sup_{0\le x\le 1} |f(x)-g(x)|\mathbb{Q}[x] を有理数係数多項式全体の集合とすると,これは可算集合であり,C[0.1] の部分集合と見たときに,C[0,1] の位相について \overline{\mathbb{Q}[x]}=C[0,1] となります。これはワイエルシュトラスの多項式近似定理からわかります。よって,可分です。
可分の例7( L^p 空間).
関数空間 L^p(\R^n) は 1\le p<\infty のとき可分だが, p=\infty のときは可分でない。
1\le p<\infty のとき可分であることは,台(サポート)がコンパクトな連続関数の空間 C_c(\R^n) が L^p(\R^n) において稠密であることと,上の例6から従います。
可分の例8( l^p 空間).
数列空間 l^p は 1\le p<\infty のとき可分だが, p=\infty のときは可分でない。
1\le p<\infty のとき可分であることは,
l_{c,\mathbb{Q}}=\{ (a_1, \ldots, a_n, 0,\ldots)\mid a_i\in \mathbb{Q}, n\ge 1\}
が可算集合であることと,これが l^p で稠密であることから分かります。