行列単位とは, (i,j) 成分のみが 1 で,それ以外の成分が 0 となる行列を指します。これについて,その定義と積に関する性質を紹介します。
行列単位の定義
定義(行列単位)
(i,j) 成分のみが 1 でそれ以外の成分が 0 である m\times n 行列 \color{red} E_{ij} を行列単位 (matrix unit)という。
注意ですが,単位行列 (identity matrix) とは定義が違います。比較のために,単位行列の定義を述べておきましょう。
(i,i), \,\, 1\le i\le n 成分すなわち対角成分が 1 であり,それ以外が 0 である行列が単位行列,単に (i,j ) 成分1つのみが 1 である行列を行列単位というんですね。
行列単位の性質
行列単位と積の性質を述べましょう。
命題(行列単位と積)
1. E_{ij} を m \times n 行列の行列単位, A=(a_{ij}) を n \times l 行列とするとき,
第 i 行となっているのは,第 j 行の誤植ではありませんので注意してください。
2. A=(a_{ij}) を m \times n 行列, E_{ij} を n \times l 行列の行列単位とするとき,
3. E_{ij} を m\times n 行列の行列単位, E_{kl} を n \times p 行列の行列単位とするとき,
E_{ij} E_{kl} = \delta_{jk} E_{il}.
ただし, \delta_{jk} はクロネッカーのデルタであり, \delta_{jk} =\begin{cases} 1 & \text{if }j=k \\ 0 & \text{if } j\ne k\end{cases} と定義される。
行列の積が分かれば,証明は明らかなので省略しましょう。