線形代数学,特にベクトル空間とその部分空間における「基底の延長定理」を紹介し,証明します。
ベクトル空間における基底の延長定理
定理(基底の延長)
V を有限次元ベクトル空間とし, W \subsetneq V をその部分空間とする。このとき, W の基底を \{ \boldsymbol{w_1}, \boldsymbol{w_2}, \dots , \boldsymbol{w_d} \} とすると,それを延長して, \{ \boldsymbol{w_1}, \boldsymbol{w_2}, \dots , \boldsymbol{w_d} , \boldsymbol{v_1}, \boldsymbol{v_2}, \dots, \boldsymbol{v_r}\} が V の基底になるようにできる。
ただし, d = \dim W, \, d+r = \dim V である(ベクトル空間の次元)。
部分空間の基底がどんなのであっても,それに「付け加える」形で全体空間の基底が取れるということですね。
なお,ここでいう「基底」とは特に特別なもの(正規直交基底など)ではなく,特殊な条件を課さないものとしています。加えて,今は有限次元ベクトル空間としています。無限だと,以下の証明に支障が出るため,今回はそうします。
さて,証明しましょう。
基底の延長定理の証明
証明
W \subsetneq V より, \{ \boldsymbol{w_1}, \dots , \boldsymbol{w_d} \} の一次結合で表せないある \boldsymbol{v_1} \in V が存在する。 このとき, \{\boldsymbol{w_1}, \dots , \boldsymbol{w_d} , \boldsymbol{v_1}\} は一次独立である。実際,
l_1 \boldsymbol{w_1} + \dots + l_d \boldsymbol{w_d} + k_1 \boldsymbol{v_1} = \boldsymbol{0}
とすると, \boldsymbol{v_1} は W の基底で表せないため k_1 = 0 であり,これより l_1 = \dots = l_d = 0 も従うからである。
さて,次は \{ \boldsymbol{w_1}, \dots , \boldsymbol{w_d}, \boldsymbol{v_1} \} の一次結合で表せないある \boldsymbol{v_2} を取る。すると,上と同様の議論により, \{\boldsymbol{w_1}, \dots , \boldsymbol{w_d}, \boldsymbol{v_1}, \boldsymbol{v_2} \} は一次独立となる。
以下同様の操作を, \{ \boldsymbol{w_1}, \boldsymbol{w_2}, \dots , \boldsymbol{w_d} , \boldsymbol{v_1}, \boldsymbol{v_2}, \dots, \boldsymbol{v_r}\} の一次結合で表せない V の元がなくなるまで繰り返せばよい。(繰り返す回数は r= \dim V - \dim W 回となる)
証明終
帰納的な「繰り返し」により証明できました。
無限次元ベクトル空間の基底の存在定理
本記事では,有限次元ベクトル空間のみ扱いました。無限次元ベクトル空間において,基底の存在をいうには,選択公理が必要です。以下で証明しています。