カントール集合とは,フラクタルと呼ばれる図形の1つで,連続体濃度を持つにもかかわらず,ルベーグ測度が 0 となる集合として有名です。
カントール集合について,その定義と性質3つとその証明を行いましょう。
カントール集合の定義
まず, [0,1] 区間を3等分し,間の区間 \left(\dfrac{1}{3}, \dfrac{2}{3}\right) をくり抜くことを考えましょう。
残った2つの閉区間 \Bigl[0,\cfrac{1}{3}\Bigr]\cup \Bigl[\cfrac{2}{3},1\Bigr] をそれぞれ3等分し,間の区間 \left(\dfrac{1}{9},\dfrac{2}{9}\right), \left(\dfrac{7}{9}, \dfrac{8}{9}\right) をくり抜きましょう。
同様の操作を再び各閉区間で繰り返し,この操作を無限回行って得られるのが,カントール集合です。(下の図は,くり抜きを4回繰り返したものです)
定義を述べましょう。
定義(カントール集合)
線分 [0,1] を三等分し,間をくり抜く作業を無限回繰り返したときに残る集合
\color{red}\mathscr{C}= [0,1]\setminus \bigcup_{n=1}^\infty \bigcup_{k=0}^{3^{n-1}-1} \left( \frac{3k+1}{3^n},\frac{3k+2}{3^n}\right)
をカントール集合 (Cantor set) という。
[0,1] から \left( \dfrac{3k+1}{3^n},\dfrac{3k+2}{3^n}\right) を除く形で定義しましたが,これは, \left(\dfrac{1}{3}, \dfrac{2}{3}\right) をくり抜き,次に \left(\dfrac{1}{9},\dfrac{2}{9}\right), \left(\dfrac{4}{9}, \dfrac{5}{9}\right), \left(\dfrac{7}{9},\dfrac{8}{9}\right) をくり抜き…という形になっており,実際は既に切り抜いているため切り抜かなくてもよい \left(\dfrac{4}{9}, \dfrac{5}{9}\right) も混ざっています。
カントール集合は,フラクタル図形と呼ばれる図形の1つで,自己相似性をもちます。「自己相似性」とは,ざっくりいうと,拡大しても同じような様相を表すことです。
また,カントール集合はカントールの三進集合ともいいます。カントール集合に属する数字を三進数
0.x_1x_2x_3\dots_{(3)}= \sum_{n=1}^\infty \frac{x_n}{3^n}で表すと, 0.1_{(3)}=0.02222\dots_{(3)} などとすることで,任意の桁に 1 が登場しないようにできます。よって,カントール集合とは,三進展開したときに,どの桁にも 1 が登場しないものの集まりである,ということができます。具体的には,
\color{red} \mathscr{C}=\left\{\sum_{n=1}^\infty\frac{2a_n}{3^n}\middle| a_n =0,1\right\}
と表せます。
カントール集合の性質3つ
ここからは,カントール集合の性質3つを紹介し,それを証明していきましょう。
定理(カントール集合の性質)
- カントール集合は閉集合である。特に,コンパクトである。
- カントール集合は連続体濃度( \mathbb{R} と同じ濃度)を持つ。
- カントール集合はルベーグ零集合,すなわちルベーグ測度 0 の集合である。
それぞれ証明しましょう。以下の証明では,
J_{n}= \bigcup_{k=0}^{3^{n-1}-1}\left( \frac{3k+1}{3^n},\frac{3k+2}{3^n}\right), \; J= \bigcup_{n=1}^\infty J_{n}
とし,カントール集合は \mathscr{C}= [0,1]\setminus J とかくことにします。
1. カントール集合は閉集合である
証明
J は開区間の和より開集合であり,カントール集合は \mathscr{C}=[0,1]\setminus J より,閉集合である。
証明終
2. カントール集合は連続体濃度を持つ
証明
[0,1] 上の二進展開と,[0,1] 上の三進展開で各桁 0,2 のみが現れるものとの間には,各桁 0\to 0, \; 1\to 2 とするような単射が定まる。ただし, 2 進展開については 0.0\dots 0111\dots のような,最後に 1 のみが続くものは考えず,これは 0.0\dots 1000\dots として処理するものとする。
これと \mathscr{C}\subset[0,1] であることから,濃度について, |[0,1]|\le |\mathscr{C}|\le |[0,1]| となるため,カントール集合は [0,1] と同じ濃度,すなわち連続体濃度である。
証明終
単射を作る際に述べた但し書きに注意してください。
二進展開については, 0.0\dots 0111\dots = 0.0\dots 1000\dots ですが,これらを各桁 0\to 0, \;1\to 2 でうつしたものは 0.0\dots 0222\dots \ne 0.0\dots 2000\dots ですから,どちらで処理するかちゃんと明示しておかないと写像が well-defined (ちゃんと正しく定義されている状態)でなくなってしまいます。
なお,これが理由で,ここで構成した写像は全単射ではありません。三進展開で 0.0\dots 2000\dots に対応する二進展開の元はあっても, 0.0\dots 0222\dots に対応する二進展開の元がないからです。なお,この構成はカントール関数 (Cantor function) の構成にも使われます(→カントール関数のさまざまな定義とその重要な性質5つ)。
3. カントール集合はルベーグ測度0の集合である
証明をざっくり説明すると,「くり抜き」ステップを重ねることで,残っている部分から集合が 1/3 ずつ削られていくため,測度が 2/3 倍ずつされていくことを用います。
証明
\mu をルベーグ測度とする。 C_n = [0,1]\setminus \bigcup_{k=1}^n J_k と定めると, C_n \supset C_{n+1} かつ \mathscr{C}=\bigcap_{n=1}^\infty C_n である。よって,
\mu(\mathscr{C})=\lim_{n\to\infty} \mu(C_n) = \lim_{m\to\infty} \left(\frac{2}{3}\right)^n=0.証明終
カントール集合は,連続体濃度であるにもかかわらず,ルベーグ測度が 0 である有名な例です。