べき級数 n=0∑∞anxn,n=0∑∞an(z−a)n における収束半径とは何か定義し,さらにその求め方と具体例について解説します。
収束半径とは
定義(収束半径)
べき級数 n=0∑∞anxn が
- ∣x∣<r のとき絶対収束し,
- ∣x∣>r のとき発散するとき,
この r を収束半径 (radius of convergence) という。
ただし,すべての x=0 で発散するとき,収束半径は r=0 と定め,すべての x で収束するときは収束半径は r=∞ と規定する。
最初に注意ですが,∣x∣=r のときの収束・発散は述べていないことに注意しましょう。∣x∣=r では,絶対収束・条件収束・発散のどれもあり得ます。具体例は後ほど述べましょう。
ここで x は実数でなく,複素数でも良いです。加えて 0 を中心としたべき級数ではなく,a∈C を中心としてもよいです。これを踏まえて,上の定義を一般化しましょう。
定義(収束半径)
べき級数 n=0∑∞an(z−a)n が
- ∣z−a∣<r のとき絶対収束し,
- ∣z−a∣>r のとき発散するとき,
この r を収束半径 (radius of convergence) という。
ただし,すべての z=a で発散するとき,収束半径は r=0 と定め,すべての z で収束するときは収束半径は r=∞ と規定する。
a=0,x∈R とすると,最初の定義に一致しますね。
以降は,こちらの一般的な定義の方で進めていきます。
収束半径の求め方
さて,収束判定法の求め方として,
- ダランベールの公式による判定
- コーシーアダマールの公式による判定
の2つを紹介します。
ダランベールの公式による判定
定理(ダランベールの公式)
べき級数 n=0∑∞an(z−a)n に対して,
r=n→∞lim∣∣an+1an∣∣∈[0,∞]
が存在するとき,r は収束半径である。
これは,級数におけるダランベールの収束判定法と関連しています。実際,∣z−a∣<r としたとき,
n→∞lim∣∣an(z−a)nan+1(z−a)n+1∣∣=n→∞lim∣∣anan+1∣∣∣z−a∣<r1⋅r=1
が成立するため,ダランベールの収束判定法により収束します。
ダランベールの収束判定法については,以下の記事を参照してください。
コーシーアダマールの公式による判定
定理(コーシーアダマールの公式)
べき級数 n=0∑∞an(z−a)n に対して,
r=n→∞limsupn∣an∣1
とすると,r は収束半径である。ただし,1/∞=0,1/0=∞ と解釈する。
コーシーアダマールの公式は,ダランベールの公式より求めるのが難しいです。しかし limsup は必ず存在するため,これを用いれば収束半径を必ず求めることができます。
本定理は,級数におけるコーシーの収束判定法と関連しています。実際,∣z−a∣<r としたとき
n→∞limsupn∣an(z−a)n∣=n→∞limsupn∣an∣∣z−a∣<r1⋅r=1
が成立するため,コーシーの収束判定法により収束します。
コーシーの収束判定法については,以下の記事を参照してください。
なお本定理から,どんなべき級数でも必ず収束半径が存在することもわかります。すなわち,
- ∣z−a∣<r をみたす任意の z に対して,べき級数は絶対収束する
- ∣z−a∣>r をみたす任意の z に対して,べき級数は発散する
の両方を同時に満たす 0≤r≤∞ は必ず存在することがわかります。
収束半径の具体例
収束半径を求める具体例を挙げましょう。またそれと同時に,∣x∣=r のときにどうなるかも考えてみましょう。
例1.
n=0∑∞2n1xn の収束半径は r=2 である。
これは,ダランベールの判定法を用いて,
∣∣1/2n+11/2n∣∣=2
であることから従います。
このことより,∣x∣<2 では絶対収束し,∣x∣>2 のとき発散することが分かりました。ところで,∣x∣=2 のときはどうなるのでしょうか? 結論,今回の場合は ∣x∣=2 のときは発散します。
実際,∣x∣=2 とすると,各項について ∣2n1xn∣=1 となって 0 に収束しないため,収束することはありません。
例2.
n=1∑∞n1xn の収束半径は r=1 である。
これは,ダランベールの判定法を用いて,
∣∣1/(n+1)1/n∣∣=∣∣nn+1∣∣n→∞1
であることから従います。
このことより,∣x∣<1 では絶対収束し,∣x∣>1 のとき発散することが分かりました。では,∣x∣=1 のときはどうなるのでしょうか? 結論,今回の場合は x=1 のときは発散し,x=eiθ(θ∈/{2mπ∣m∈Z}) のとき(すなわち ∣x∣=1 かつ x=1 のとき)は条件収束します。
これについては,以下の記事で解説していますから,参照してください。
例3.
sinx=x−3!x3+5!x5−⋯
の収束半径は r=∞ である。
sin のマクローリン展開ですね。テイラー展開・マクローリン展開においては,収束半径の議論は避けては通れないでしょう。
収束半径については,コーシーアダマールの公式を用いて,
n→∞limsupnn!1≤(n−12)2n−1⋅n1≤4n−12n→∞0
であることから,逆数を取ることでわかります。(実際の頭の中では n!(n+1)!=n+1 を考えて,ダランベールの公式を当てはめているんですけどね。)
sin のマクローリン展開ついては,以下で解説しています。
テイラー展開・マクローリン展開そのものに関しては,以下で解説しています。