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有向集合の定義と具体例6つ

集合と位相
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有向集合とは,任意の2元に上界があるような前順序集合のことをいいます。位相空間におけるネット(有向点族)を定義する際の添え字としても用いられます。有向集合について,詳しく見ていきましょう。

有向集合の定義

有向集合の定義

定義(有向集合)

空でない集合 X 上の二項関係 \le について,

  1. 任意の x\in X について, x\le x (反射律)
  2. x,y,z\in X に対して, x\le y,\; y\le z ならば x\le z (推移律)
  3. 任意の x,y\in X に対して,ある z\in X が存在して, x\le z かつ y\le z が成立する (任意の2元の上界の存在)

が成り立つとき, (X, \le )有向集合 (directed set) という。

1,2.をみたす集合は前順序集合 (preorderd set) です。任意の2元に上界が存在する前順序集合が有向集合です。

ちなみに,1,2.に加えて, x\le y,\, y\le x\implies x=y (反対称律) を課した集合は半順序集合 (partially ordered set; poset) といいます。 上界が存在する半順序集合を有向集合と定義することもあります。

具体例をみましょう。

有向集合の具体例

例1(全順序集合).

\mathbb{Z},\mathbb{Q},\R は全て有向集合である。より一般に,任意の全順序集合は有向集合である。

全順序集合とは,半順序集合かつ任意の x,y に対して, x\le y y\le x のいずれかが成立するような集合です。

例2(集合の包含).

X を集合とし, 2^Xべき集合とする。

このとき, A,B\in 2^X における包含順序を

A\le B\iff A\subset B


と定め,逆包含順序を

A\le' B\iff A\supset B


と定めると, (2^X, \le), (2^X, \le') はどちらも半順序かつ有向集合である。

また,集合 X 上の位相(開集合族) \mathcal{O}σ加法族 \mathcal{F} も同じく,包含順序・逆包含順序のどちらで考えても半順序かつ有向集合である。

同じような例ですが,以下は位相空間論で大切です。

例3(近傍系).

(X,\mathcal{O})位相空間とする。

x\in X における近傍系(近傍全体の集合)\mathcal{N}_x とすると, \mathcal{N}_x は逆包含順序 U\le V\iff U\supset V によって半順序かつ有向集合である。

U,Vx近傍であるとき, U\cap V x近傍なので,これが上界の一つになりますね。

また, U\cup V x近傍なので,\mathcal{N}_x は通常の包含順序によっても半順序かつ有向集合です。しかし,位相空間論においては逆包含順序のほうがよく使います。なぜなら,「 x に収束する」みたいなことを考えたいからです。 たとえば, \R における通常の位相における x\in \R近傍系 \mathcal{N}_x には,逆包含順序における最大元がありません。すると, x に収束する極限みたいなものを考えることができるのです。

この辺の概念はネット(有向点族)の話になるので,別の機会に解説しましょう。

例4(距離空間).

(X, d)距離空間とし, a\in X とする。このとき, a からの近さによって,

x\le y \iff d(a, x)\ge d(a, y)


とすると, X\setminus \{a\} は一般に全順序集合・半順序集合ではないが,有向集合である。

x\le y, \,y\le x\implies x=y (反対称律)が一般に成立しないので,半順序集合全順序集合ではありません。たとえば, d(a,x)=d(a,y) なら,x,y\in X の上界は x もそうだし, y もそうです。しかもこれらは最小上界です。このように,最小上界が複数あることもあり得ます。

不正確な表現ですが,この有向集合は, x\to\infty とすればするほど, a に近づくようなイメージです。

例5.

関数 f\colon \R\to \R の集合 F(\R,\R) において,

f\le g\iff \forall x\in \R,\, f(x)\le g(x)


と定めると, F(\R, \R)半順序かつ有向集合である。

逆に有向集合でない簡単な例も挙げておきましょう。

例6.

集合 A=\bigl\{ \{a\}, \{b\}\bigr\} に,包含順序を入れた (A,\le)半順序集合だが有向集合でない。

\{a\} \{b\} に共通する上界がないので,有向集合ではないです。

有向集合の利用

位相空間論において,有向集合はネット(有向点族)の添え字として使われます。

普通の点列 (x_n) の添え字 n は正の整数の集合 \mathbb{N}=\{1,2,3,\ldots\} ですが,ネット(有向点族)の (x_\lambda) 添え字 \lambda は有向集合 \Lambda と考えます。この意味で,ネット(有向点族)は点列の一般化になっています。

n\to\infty とするのと同じように \lambda\to\infty みたいなことを考えて,ネット(有向点族)の収束を考えることで,一般の位相空間においても,直感に反しない収束の概念を獲得することができます。詳しくは,いずれまた別の記事で解説しましょう。

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