一般二項展開とそれを用いたマクローリン展開の例

複素関数論
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高校数学で学ぶ二項定理による多項式の展開公式は,指数部分が正の整数の場合に限られていました。この指数を一般の複素数にまで拡張したものが一般二項展開です。

この展開は, (1+z)^\alpha におけるマクローリン展開の表現にもなっています。一般二項展開の定義と,その具体例・証明について分かりやすく解説していきましょう。

一般二項係数と一般二項展開

まず,一般二項展開のために,一般二項係数を紹介しましょう。高校でやった二項係数を拡張する形で定義します。その上で,一般二項展開を述べます。

一般二項係数の定義

高校では,二項係数は場合の数で現れ, m\ge n\ge 0 をみたす整数 m,n に対し,

\begin{aligned}\binom{m}{n}&={}_m\mathrm{C}_n \\ &= \frac{m(m-1)(m-2)\cdots (m-n+1)}{n!} \\ &= \frac{m!}{n!(m-n)!}\end{aligned}

と書けたんでした。この m を,複素数の範囲に拡張します。

定義(一般二項係数)

\alpha \in\mathbb{C} とし, n=0,1,2,\ldots を非負整数とする。このとき,\displaystyle \binom{\alpha}{n} の値を

1. n\ge 1 のとき

\color{red} \binom{\alpha}{n} = \frac{\alpha(\alpha-1)(\alpha-2)\cdots(\alpha-n+1)}{n!}

2. n= 0 のとき

\color{red} \binom{\alpha}{0} = 1

と定め,これを一般二項係数 (generalized binomial coefficient) という。

通常の二項係数を拡張した形になっていますね。いくつか具体例を挙げましょう。 i=\sqrt{-1} は虚数単位とします。

  1. \displaystyle \binom{-2}{3}=\frac{(-2)(-3)(-4)}{3!}=-4
  2. \displaystyle \binom{-2}{n} = \frac{(-2)(-3)\cdots(-2-n+1)}{n!} = \frac{(-1)^n (n+1)!}{n!} = (-1)^n (n+1)
  3. \displaystyle \binom{\frac{1}{2}}{3}=\frac{\frac{1}{2}(-\frac{1}{2})(-\frac{3}{2})}{3!}=\frac{1}{16}
  4. \displaystyle \binom{i}{2}=\frac{i(i-1)}{2!}=\frac{-1-i}{2}
  5. 整数 m,n 0<m< n をみたすとき, \displaystyle \binom{m}{n}=0

最後の式は,\displaystyle \binom{m}{n} = \frac{m(m-1)(m-2)\cdots(m-n+1)}{n!} の分子に 0 が現れることから分かります。逆に言えば,分子に 0 が現れない場合,すなわち \alpha\in\mathbb{C}\setminus\mathbb{\{0,1,2,\ldots\}} の場合は,任意の n\ge 1 \binom{\alpha}{n}\ne 0 となります。

一般二項展開

一般二項係数を使って,一般二項展開を述べましょう。

複素数の累乗は (1+z)^\alpha = e^{\alpha\operatorname{Log}(1+z)} です。ただし, \operatorname{Log}(1+z) = \log|1+z|+i\arg (1+z),\, -\pi <\arg(1+z)\le \pi です。

定理(一般二項展開; generalized binomial expansion)

z\in \mathbb{C},\, |z|<1,\, \alpha\in\mathbb{C} に対し,

\color{red} \begin{aligned} (1+z)^\alpha &= \sum_{n=0}^{\infty} \binom{\alpha}{n} z^n \\ &= 1 + \alpha z + \frac{\alpha(\alpha-1)}{2!} z^2 + \dots \end{aligned}

が成り立つ。ただし,和は絶対収束である。

高校のときに習う二項展開(二項定理)は有限和でした。前の5.の例により,この定理の式も,通常の二項展開に一致します。このときは, |z|<1 でなくても構いません。

一方で,先程述べた通り,\alpha\in\mathbb{C}\setminus\mathbb{\{0,1,2,\ldots\}} の場合は,任意の n\ge 1 \binom{\alpha}{n}\ne 0 ですから,上の式は無限和になります。この無限和は,マクローリン展開の形をしていますね。収束半径は 1 です。 1+z 0 にならない範囲になっています。

一般二項展開によるマクローリン展開の計算例

証明する前に,まずは一般二項展開の代表的な具体例をみてみましょう。

例1( 1/(1+z)).

|z|<1 に対し,

\begin{aligned} \frac{1}{1+z}&= (1+z)^{-1} =\sum_{n=0}^{\infty}\binom{-1}{n} z^n \\ &= \sum_{n=0}^{\infty} (-z)^n = 1 - z + z^2 - z^3 + \cdots \end{aligned}

\binom{-1}{n}=(-1)^n を使いました。 これは,初項 1,公比 -z の無限等比級数の和の公式そのものですね。

例2( \sqrt{1+z}).

|z|<1 に対し,

\begin{aligned}\sqrt{1+z} &=(1+z)^{1/2} =\sum_{n=0}^\infty\binom{\frac{1}{2}}{n}z^n \\ &= 1 + \frac{1}{2}z - \frac{1}{8}z^2 + \frac{1}{16}z^3 - \cdots \end{aligned}

\sqrt{1+z}マクローリン展開が得られましたね。これにより, \sqrt{1+z}\fallingdotseq 1+z/2 の近似式も作れます。

一般二項展開の証明

一般二項展開の式

一般二項展開の証明について,

  1. 収束半径 1 である証明
  2. 等式の証明

の2つに分けて行いましょう。

1. 収束半径が1である証明

ダランベールの公式による判定法を用います。

証明

c_n=\binom{\alpha}{n} とおくと,

\begin{aligned} \left| \frac{c_{n+1}}{c_n} \right| &= \left| \frac{\frac{\alpha(\alpha-1)\cdots(\alpha-n)}{(n+1)!}}{\frac{\alpha(\alpha-1)\cdots(\alpha-n+1)}{n!}} \right| \\ &= \left| \frac{\alpha - n}{n + 1} \right| \xrightarrow{n\to\infty} 1 \end{aligned}

となるから,ダランベールの公式による判定法により,収束半径 1 である。

証明終

2. 一般二項展開の等式の証明

簡単に証明できる方法を採用しましょう。

証明

以下で, |z|<1 とする。(1+z)^\alpha = \sum_{n=0}^{\infty} \binom{\alpha}{n} z^n の左辺を f(z),右辺を g(z) とおく。 f(z)=g(z) を示そう。

f'(z)=\alpha (1+z)^{\alpha-1} であるから,

(1+z)f'(z)=\alpha f(z)

である。また項別微分により,|z|<1 に対し,

\begin{aligned}&(1+z)g'(z) \\&=\sum_{n=1}^{\infty} \binom{\alpha}{n} n z^{n-1} +\sum_{n=0}^{\infty} \binom{\alpha}{n} z^n \\ &= \sum_{n=0}^\infty \left\{\binom{\alpha}{n+1}(n+1)+\binom{\alpha}{n}\right\}z^n \\ &=\sum_{n=0}^\infty \alpha \binom{\alpha}{n} z^n = \alpha g(z) \end{aligned}

である。ただし,最後から2つ目の等式は二項係数の定義に従って計算すればスグわかる。

ゆえに, f(z)g'(z)-f'(z)g(z)=0 である。|z|<1 に対し, f(z)\ne 0 であるから,

\left(\frac{g(z)}{f(z)}\right)'= \frac{f(z)g'(z)-f'(z)g(z)}{f(z)^2}=0

したがって, g(z)/f(z) は定数であり, g(0)/f(0)=1/1=1 なので, f(z)=g(z) を得る。

証明終

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参考

  1. 吉田伸生「複素関数論の基礎」(共立出版,2022)
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