複素関数論におけるコーシーの積分定理は,正則関数の威力を示す入り口の定理です。微分の連続性を仮定すればグリーンの定理から簡単に証明可能ですが,ここではそれを仮定せず,三角形分割によるグルサの補題を経由して,単連結領域上のコーシーの積分定理を厳密に証明しましょう。
コーシーの積分定理
本サイトでは,単連結領域上で正則な複素関数に対し,その単連結領域内の任意の区分的 C^1 級閉曲線上の複素線積分を考えます。まず, \mathbb{C} 上における単連結の定義を軽く述べておきましょう。閉曲線 (closed curve) とは,始点と終点が一致している曲線です。
準備~単連結の定義~
複素平面の領域(連結開集合) D \subset \mathbb{C} が単連結 (simply connected) であるとは, D 内の任意の連続な閉曲線 z\colon [0,1]\to D が, D 内の連続変形によって,1点に縮められること,
すなわち,ある1点 z_0 \in D と,次の3つの条件をすべて満たす連続関数 H \colon [0, 1] \times [0, 1] \to D が存在することである。
- H(0, t) = z(t)\quad (0\le t \le 1)
- H(1, t) = z_0\quad (0\le t \le 1)
- H(s,0) = H(s,1)\quad (0\le s \le 1),すなわち H(s,\cdot) は閉曲線

「 D 内の連続変形によって,1点に縮められる」とは, \mathbb{C} 内においては単に D は穴が開いていない領域と考えて大丈夫です。実際,穴が開いている場合は,連続変形と「中間値の定理」的な議論により,穴を通る連続変形を経由しないことには,1点に縮められません(厳密にはジョルダンの曲線定理とかも関係しています)。

単連結領域内の閉曲線におけるコーシーの積分定理
さて,準備が整いましたので,単連結領域内の任意の閉曲線におけるコーシーの積分定理を述べましょう。
定理1(単連結領域内の閉曲線におけるコーシーの積分定理)
D \subset \mathbb{C} を単連結領域(開集合)とし,f\colon D\to \mathbb{C} を正則関数とする。
このとき,D 内の任意の区分的 C^1 級閉曲線 C に対し,
\Large \color{red}\oint_C f(z) \, dz = 0が成り立つ。

正則関数というのは複素微分可能という性質なのに,その逆の積分の値に影響を与えるというのが,なんか不思議な感じがしますね。
コーシーの積分定理の証明を一気に
早速証明しましょう。コーシーの積分定理の証明は,
- f' の連続性を予め仮定して,グリーンの定理とコーシーリーマンの関係式を用いる方法
- f' の連続性は仮定せず,グルサによる三角形経路を用いて厳密にやる方法
が有名です。1つ目は非常に簡単で,数行で証明が終わりますが,ここでは2つ目について厳密に証明しましょう。できるでけ簡便に示します。以下のステップからなります。
- 三角形経路によるコーシーの積分定理(グルサの補題)
- 長方形経路によるコーシーの積分定理
- 単連結領域における原始関数の存在
- 単連結領域内の閉曲線におけるコーシーの積分定理(定理1.)
順番に解説していきましょう。
1. 三角形経路によるコーシーの積分定理(グルサの補題)
まずは積分経路 C が三角形経路の場合に限って,コーシーの積分定理を示します。
補題1(グルサの補題; Goursat’s lemma)
D \subset \mathbb{C} を領域(連結開集合)とし,f\colon D\to \mathbb{C} を正則関数とする。
このとき,任意の閉三角形領域 \Delta\subset D に対し,その境界となる閉曲線を \partial \Delta と表すと,
\large \oint_{\partial \Delta} f(z) \, dz = 0が成り立つ。
\partial \Delta の向きは反時計回りとします。どっちでも結局積分値は 0 ですが。大事なのは,単に \partial \Delta\subset D ではなく, \Delta \subset D が成り立つことです。すなわち,三角形の内部も D に入ってないといけません。
証明は三角形をひたすら分割するという,面白い方法を用います。この補題の証明が一番の山場です。
証明
\Delta=\Delta_0 とし, I=\oint_{\partial \Delta_0} f(z)\, dz とおく。I = 0 を示せばよい。
三角形 \Delta_0 の各辺の中点を結ぶことで,図のように \Delta_0 を4つの互いに合同な小三角形 \Delta^{(1)}, \Delta^{(2)}, \Delta^{(3)}, \Delta^{(4)} に分割する。 内側に新しくできた辺の積分は隣り合う三角形同士で逆向きになって互いにキャンセルするため,

が成り立つ。三角不等式より,これら4つの小三角形のうち少なくとも1つ(それを \Delta_1 と呼ぶことにする)は,
|I|\le 4 \left| \oint_{\partial \Delta_1} f(z) \, dz \right|をみたす。\Delta_1 をさらに4分割して,
|I|\le 4\left| \oint_{\partial \Delta_1} f(z) \, dz \right|\le 4^2 \left| \oint_{\partial \Delta_2} f(z) \, dz \right|を満たす小三角形 \Delta_2 を選ぶ。 これを帰納的に繰り返すことで,閉三角形領域の無限列 \{\Delta_n\}_{n=0}^\infty で,
\Delta_0 \supset \Delta_1 \supset \Delta_2 \supset \cdots \supset \Delta_n \supset \cdots |I| \le 4^n \left| \oint_{\partial \Delta_n} f(z) \, dz \right|をみたすものが取れる。ここで, n=0,1,2,\ldots に対し,\Delta_n の周の長さを L_n,直径(最長の2点間距離)を d_n とすると,
\begin{aligned}L_n = 2^{-n} L_0,\quad d_n =2^{-n} d_0 \end{aligned}となる。縮小法の原理により,
\bigcap_{n=0}^\infty \Delta_n = {z_0}となる z_0\in D が存在する。f(z) は点 z_0 で正則(微分可能)なので,
f(z) = f(z_0) + f'(z_0)(z - z_0) + \varepsilon(z)(z - z_0)
とかける。ただし,誤差項 \varepsilon(z) は \varepsilon(z) \xrightarrow{z\to z_0} 0 を満たす。これを踏まえると,
ただし,経路 \partial\Delta_n の始点・終点を \alpha_n \in \partial\Delta_n とした。ゆえに,
\begin{aligned}|I|&\le 4^n \left|\oint_{\partial \Delta_n} f(z) \, dz\right| \\ &= 4^n \left| \oint_{\partial \Delta_n } \varepsilon(z) (z-z_0) \, dz \right| \\ &\le 4^n \oint_{\partial \Delta_n }|\varepsilon(z)| |z-z_0|\, |dz| \\ &\le 4^n \oint_{\partial \Delta_n }\max_{z\in \partial \Delta_n} |\varepsilon (z)| \, d_n\, |dz| \\ &= 4^n d_n L_n \max_{z\in \partial \Delta_n} |\varepsilon (z)| \\ &= d_0 L_0 \max_{z\in \partial \Delta_n} |\varepsilon (z)|\xrightarrow{n\to\infty} 0 \end{aligned}となるから, I=0 を得る。
証明終
積分の証明に,正則性(微分可能性)が効いているのが分かるでしょうか。積分の領域をどんどん小さくすることで, f の局所的な性質に帰着させているんですね。
2. 長方形経路によるコーシーの積分定理
次に,三角形経路でコーシーの積分定理が成り立つならば,長方形経路でコーシーの積分定理が成り立つことを述べます。
補題2(長方形経路によるコーシーの積分定理)
D \subset \mathbb{C} を領域(連結開集合)とし,連続関数 f\colon D\to \mathbb{C} は任意の閉三角形領域 \Delta\subset D に対し, \oint_{\partial \Delta} f(z)\, dz=0 をみたすとする。
このとき,任意の閉長方形領域 \square\subset D に対し,その境界となる閉曲線を \partial \square と表すと,
\large \oint_{\partial \square} f(z)\, dz=0が成り立つ。特に, f\colon D\to \mathbb{C} が正則なら補題1と組み合わせることで上の等式が成り立つ。
これは, 三角形経路によるコーシーの積分定理(グルサの補題)と以下の図で一発で分かるでしょう。長方形経路は,2つの三角形経路による線積分の足し合わせとみることができます。

なお,1.で,三角形経路でやってから長方形経路にしましたが,実際には直接1.で長方形経路を考えても構いません。ただ,三角形経路の話が有名なので,本サイトでも三角形経路でやりました。
3. 単連結領域における原始関数の存在
次に,長方形経路でコーシーの積分定理が成り立つなら,単連結領域において原始関数が存在することを示します。実際は,「軸平行な」長方形経路におけるコーシーの積分定理のみから示すことができます。ただし,軸平行な長方形とは,横・縦がそれぞれ実軸・虚軸に平行な長方形のことを指します。
補題3(単連結領域における原始関数の存在)
D \subset \mathbb{C} を単連結領域(開集合)とし,連続関数 f\colon D\to \mathbb{C} は,任意の軸平行な閉長方形領域 \square\subset D に対し, \oint_{\partial \square} f(z)\, dz=0 をみたすとする。
このとき,正則関数 F\colon D\to \mathbb{C} で, F'=f となるもの( f の原始関数 (primitive) という)が存在する。
特に, f\colon D\to \mathbb{C} が正則なら補題2と組み合わせることで上のことが成り立つ。
証明において,以下のことは認めます。
- 単連結領域とは,穴の開いていない領域のこと(定理1の前の準備で解説済み)
- 単純閉曲線は,領域を有界な内部と非有界な外部に分けること(ジョルダンの曲線定理)
証明
z_0\in D を一つ固定する。 任意の z\in D に対して、z_0 から z への,有限回のみ折れ曲がる軸平行な折れ線経路 \gamma をとり,
F(z) = \int_{\gamma} f(\zeta) \, d\zetaと定めると,これが補題の結論をみたす。このことを次の3つに分けて示そう。
- z_0 から z への,有限回のみ折れ曲がる軸平行な折れ線経路が取れること
- 積分値は1.の折れ線経路の取り方によらず, F はwell-definedであること
- F'=f となること

1. z_0 から z への,有限回のみ折れ曲がる軸平行な折れ線経路が取れること
D は単連結なため,特に弧状連結であるから, z_0 から z への連続経路 \gamma \colon [0,1]\to \mathbb{C} をとることができる。連続経路のコンパクト性( [0,1] のコンパクト性と,連続像がコンパクトであること)より, D に含まれる有限個の開円板でこの経路を覆うことができる。各開円板内で折れ線を上手く取ると,折れ線経路を作ることが可能である。

2.積分値は1.の折れ線経路の取り方によらず, F はwell-definedであること
z_0 から z への異なる2つの,有限回のみ折れ曲がる軸平行な折れ線経路 \gamma_1, \gamma_2\subset D を任意にとる。 \gamma_1, \gamma_2 が交点をもつときは,始点から交点までとそれ以降で分けて考えればよいので,交点をもたないとしてよい。このとき,
\int_{\gamma_1} f(\zeta) \, d\zeta = \int_{\gamma_2} f(\zeta) \, d\zetaを示せばよい。これはすなわち \int_{\gamma_1} f(\zeta) \, d\zeta - \int_{\gamma_2} f(\zeta) \, d\zeta=0 と同じことであり,\Gamma = \gamma_1 - \gamma_2 (\gamma_1 を進み、\gamma_2 を逆走して戻る経路)を考えると,\Gamma は,有限回のみ折れ曲がる軸平行な折れ線からなる単純閉曲線であり,積分の式はさらに
\oint_{\Gamma} f(\zeta) \, d\zeta = 0と同値である。これを示そう。単連結性の仮定より, \Gamma の内部に穴はない。また,単純閉曲線は有界な「内部」を考えることができる(ジョルダンの曲線定理)ので,たとえば図のように, \Gamma とその内部を有限個の軸平行な閉長方形領域 \square_1, \square_2, \ldots, \square_n に分割することができる。

各長方形の周回積分を考えると,内側で隣り合う長方形の辺同士の積分は向きが逆になってキャンセルされるため,\Gamma に沿った積分だけが残ることと,定理の仮定より,
\oint_{\Gamma} f(\zeta) \, d\zeta = \sum_{k=1}^n \oint_{\partial \square_k} f(\zeta) \, d\zeta=0よって示せた。
3. F'=f となること
点 z\in D を固定し,さらに z 中心の十分小さい, D に含まれる開円板内の点 z+h \in D をとる。 z_0 から z+h への軸平行な折れ線経路を, z_0 から z までの軸平行な折れ線経路 \gamma と, z から z+h までの軸平行な折れ線経路 \eta_h の足し合わせとする。折れ線経路を蛇行せずにとると,今 D に含まれる開円板内で考えているので, \eta_h の長さは \sqrt{2}|h| 以下にできることに注意する。
\begin{aligned}&F(z+h) - F(z) \\&= \int_{\gamma +\eta_h} f(\zeta) \, d\zeta - \int_{\gamma} f(\zeta) \, d\zeta \\&= \int_{\eta_h} f(\zeta) \, d\zeta \end{aligned}ここで, f の連続性より, f(\zeta)=f(z)+\psi(\zeta) とおくと \psi(\zeta)\xrightarrow{\zeta\to z} 0 であり,
\begin{aligned}F(z+h) - F(z)&= \int_{\eta_h} f(\zeta) \, d\zeta \\ &= \int_{\eta_h}\{f(z)+\psi(\zeta)\} \, d\zeta \\ &= f(z) \int_{\eta_h} d\zeta +\int_{\eta_h} \psi(\zeta) \, d\zeta \\ &= f(z)h+ \int_{\eta_h} \psi(\zeta) \, d\zeta\end{aligned}と表せるので,
\begin{aligned}&\left|\frac{F(z+h) - F(z)}{h}-f(z)\right| \\ &= \left|\int_{\eta_h} \psi(\zeta) \, d\zeta\right| \\ &\le \frac{1}{|h|}\max_{\zeta\in \eta_h} |\psi(\zeta)| \int_{\eta_h} |d\zeta| \\ &\le \sqrt{2}\max_{\zeta\in \eta_h} |\psi(\zeta)|\xrightarrow{h\to 0} 0 \end{aligned}となるから, F'=f が示せた。
証明終
4. 単連結領域内の閉曲線におけるコーシーの積分定理(定理1.)
さて,最後に定理1が言えるのは,以下の補題があるからです。
補題4(微分積分学の基本定理)
D \subset \mathbb{C} を単連結領域(開集合)とし,f\colon D\to \mathbb{C} は D 上で原始関数 F をもつとする。
このとき,D 内の任意の区分的 C^1 級閉曲線 C に対し,
\large \oint_C f(z) \, dz = 0が成り立つ。特に, f\colon D\to \mathbb{C} が正則なら補題3と組み合わせることで上式が成り立つ。
この補題の証明は簡単です。【複素積分】複素線積分とは~定義と例を詳しく~の記事でも解説しています。
これにより,最初の定理1が証明できました。定理1を再掲しておきましょう。 C は三角形経路などに限らず,どんな経路でもよかったことに注意してください。
定理1再掲(単連結領域内の閉曲線におけるコーシーの積分定理)
D \subset \mathbb{C} を単連結領域(開集合)とし,f\colon D\to \mathbb{C} を正則関数とする。
このとき,D 内の任意の区分的 C^1 級閉曲線 C に対し,
\Large \color{red}\oint_C f(z) \, dz = 0が成り立つ。

証明の手順をもう一度まとめると,
- 三角形経路によるコーシーの積分定理(グルサの補題)
- 長方形経路によるコーシーの積分定理
- 単連結領域における原始関数の存在
- 単連結領域内の閉曲線におけるコーシーの積分定理(定理1.)
の順に証明しました。長かったですが,よく頑張りました。
コーシーの積分定理の一般化
コーシーの積分定理をもう少し一般化しておきましょう。たとえば, 0<r_1<r_2 に対し,円環領域 D = \{ z\in\mathbb{C}\mid r_1<|z|<r_2\} 上で正則な関数 f \colon D\to \mathbb{C} を考えましょう。以下のような経路 C_1, C_2 で積分するとします( C_1, C_2 は向きが違うことに注意)。このとき,

が成り立ちます。これは以下の図において,赤い経路と青い経路の和とみることができます(重なっている部分の積分は逆向きなのでキャンセルします)。赤い単連結領域 D_1 上の赤い閉曲線の積分とみると,コーシーの積分定理より赤い経路における積分値は 0 だし,青い方も同様です。

このように,単連結領域内の区分的 C^1 級曲線に分割して考えられるときは,コーシーの積分定理が使えるわけです。主張を述べておきましょう。
定理2(コーシーの積分定理の一般化)
D\subset \mathbb{C} を開集合とし, f\colon D\to \mathbb{C} を正則とする。区分的 C^1 級曲線 C_1, C_2, \ldots, C_n \subset D が, D 内の単連結領域上の閉曲線の和に分解できるとき,
\Large\color{red} \sum_{k=1}^n \int_{C_k} f(z)\, dz=0
が成り立つ。
なお,以下の図で \oint_{C_1}f(z)\, dz+ \oint_{C_2} f(z)\, dz = 0 と述べましたが,左辺の第2項を右辺に移項し,さらに -C_2 で反時計回りの積分に書き換えることで,

も言えます。
コーシーの積分定理の使用例と使えない例
最後に,コーシーの積分定理を利用している積分の計算例を掲載しておきます。


逆に,コーシーの積分定理が使えない例として,最も基本的なものは f(z)=1/z の,単位円周 C 上の線積分です。 C を z=e^{it}\, (0\le t\le 2\pi) とパラメータ表示し,反時計回りに積分すると,
\oint_C \frac{dz}{z} = \int_0^{2\pi} \frac{ie^{it}}{e^{it}}\, dt = 2\pi iですから,\oint_C f(z)\, dz\ne 0 ですね。 f(z)=1/z は原点で微分可能ではなく,単位円周上の内部で正則と言えないので,コーシーの積分定理の仮定を満たしていないのです。
ただし, f(z)=1/z であっても,以下のような経路の積分であれば,前述の「コーシーの積分定理の一般化」により,

は成り立ちます。
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