一致の定理とその証明を簡潔に分かりやすく

複素関数論
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複素関数論における最も重要で驚異的な定理の一つが一致の定理(identity theorem)です。
この定理は,「正則関数の局所的な情報(一部の点での値)が,領域全体の大域的な情報を完全に決定してしまう」という定理で,正則関数の凄さを表しています。

一致の定理について,その証明を簡潔に分かりやすく紹介します。

一致の定理

まずは基本的なバージョンの一致の定理 (identity theorem) を述べましょう。

定理1(一致の定理)

D\subset \mathbb{C} を領域(連結開集合)とし, f\colon D \to \mathbb{C} 正則関数とする。

このとき,もし零点集合 Z_f =\{ z\in D\mid f(z)=0\} D 内に集積点をもつならば,

\large f(z) = 0 \quad (\forall z \in D)

である。対偶を考えると,領域 D 上の正則関数 f\colon D\to \mathbb{C} が定数関数でなければ, f の零点が存在すれば孤立点であることもわかる。

Z_f D 内に集積点 \alpha をもつ」とは,ある \{ z_n\}\subset D が存在して, f(z_n)=0 かつ z_n \xrightarrow{n\to\infty} \alpha\in D とできるということです。 \alpha\in D となることがポイントです。たとえば, f(z)=\sin (1/z) の零点集合 Z_f = \{ 1/n\pi\mid n=\pm1,\pm2,\ldots\} 0集積点にもちますが, 0f定義域に入らないので,上の定理は使えません。

ちなみに \alpha\in D とかきましたが,このとき f の連続性より,f(\alpha)=0 も言えるので, \alpha\in Z_f になります。

定理1は,以下のように一般化できます。

定理1の系(2つの正則関数の一致)

D\subset \mathbb{C} を領域(連結開集合)とし, f,g\colon D \to \mathbb{C} 正則関数とする。もし,集合 \{ z \in D \mid f(z) = g(z) \} D 内に集積点をもつならば,

\large f(z) = g(z) \quad (\forall z \in D)

である。

これの証明は h = f - g に対して定理1を使えばよいです。

一致の定理のすごいところは,局所的に一致しているだけで,大域的に全ての値が等しいと言える点です。正則関数は,局所的な値が全ての値を決めてしまうんですね。これは実関数ではあり得ないことで,たとえば C^\infty 級関数 f(x) = \begin{cases} e^{-1/x} & x> 0, \\ 0 & x \le 0 \end{cases} は,零点集合が集積点をもちますが,全体として 0 に一致しているわけではありません。

一致の定理(定理1)の証明

一致の定理の証明は,大きく分けて次の2つのステップで行われます。

  1. 局所的な議論テイラー展開を用いて,集積点 \alpha の近くで f が恒等的に 0 であることを示す。
  2. 大域的な議論:領域 D 連結性を用いて,局所的な 0 を領域全体に広げる。

順に証明していきましょう。

証明

零点集合 Z_f\subset D集積点 \alpha\in D としよう。

1.集積点周りのある開円板上で f=0 であることを示そう

f 正則D開集合であるから, \alpha を中心とするある開円板 D_r(\alpha) = \{ z \in \mathbb{C} \mid |z - \alpha| < r \} \subset D 上でテイラー展開が可能で,

f(z) = \sum_{n=0}^{\infty} c_n (z - \alpha)^n

と表せる。全ての n c_n=0 なら第一段階の証明は終わるので, c_n \neq 0 となる最小の整数を m とすると,

\begin{aligned} f(z)&= (z - \alpha)^m \sum_{k=0}^{\infty} c_{m+k} (z - \alpha)^k \\ &= (z-\alpha)^m \left\{ c_m+(z-\alpha) g(z)\right\} \end{aligned}

となる正則関数 g(z) がとれる。関数の連続性から, \alpha の十分小さな開円板 D_\delta(\alpha) \;( 0 < \delta \le r) をとれば,任意の z\in D_\delta(\alpha)\setminus\{\alpha\} f(z) \neq 0 とできる。これは, \alpha集積点であることに矛盾する。

よって,すべての n \ge 0 に対して c_n = 0 でなければならず,開円板 D_r(\alpha) において f = 0 が示せた。

2.f D 内で常に 0 となることを示そう

A=\operatorname{Int}(Z_f),すなわち Z_f内部(開核)とする。定義より明らかに A開集合であり,上の議論から \alpha\in A なので, A は空でない。

A閉集合であることを示そう。 z\in\overline{A} とすると,ある \{ z_n\}\subset A\subset Z_f が存在して, z_n \to z とできる。f(z_n)=0 なので, z Z_f の集積点である。ゆえに前半の議論により, z\in A であるから, A閉集合である。

A\subset Z_f\subset D は空でない開かつ閉集合なので, D の連結性より, A=D となる。よって, Z_f=D なので, f(z) = 0 \quad (\forall z \in D) を得る。

証明終

一致の定理の応用

定理1の系で述べたように,局所的に一致しているだけで,大域的に全ての値が等しいと言える点で,この一致の定理は強力です。ある開集合 U 上で定義された正則関数が,もし正則性を保ったまま \mathbb{C} 全体(あるいはその部分集合 U\subset \widetilde{U})上に拡張できるなら,その拡張は一意的であるということが言えます。実際, U 上で一致していたら定理1の系より, \mathbb{C} 全体(あるいはその部分集合 U\subset \widetilde{U})上で一致していると言えるからです。

たとえば,実関数 x\mapsto e^x の一つの拡張は複素関数 z\mapsto e^z ですが,本定理より,拡張はこの一つしかないと言えます。この一意の拡張のことを解析接続 (analytic continuation) と言います。

解析接続については,また別の記事で詳しく解説しましょう。

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