複素解析において零点 (zero)とは,関数の値が0になる点のことです。これは,極 (pole)と並んで最も基本的な重要概念です。
本記事では,複素関数における零点およびその位数の定義,そしてテイラー展開を用いた微分による位数の判定法と同値性について,分かりやすく解説します。
複素関数の零点
まずは,零点の定義と,零点の位数について定義し,具体例や性質を掘り下げていきましょう。
零点の定義と微分との同値性
定義1(零点)
D\subset \mathbb{C} を開集合とし, f\colon D\to \mathbb{C} を正則関数とする。 a\in D が \large \color{red} f(a)=0 を満たすとき, a を f の零点 (zero) という。
さらに,ある整数 m\ge 1 と正則関数 g\colon D\to \mathbb{C} が存在して,
\large\color{red} f(z)=(z-a)^m g(z), \quad g(a)\neq 0と表せるとき, a を f の m 位の零点 (zero of order m) という( m を位数 (order) という)。
位数を因数分解の形で定義しましたが, m 階微分において初めて 0 でなくなることが, m 位の零点であることの同値な条件であり,それにより位数を定義することも多いです。
定理1( m 位の零点の定義の同値性)
D\subset \mathbb{C} を開集合, f\colon D\to \mathbb{C} を正則関数とする。また, a\in D とする。このとき,以下は同値である。
- f(z)=(z-a)^m g(z),\, g(a)\neq 0 となる正則関数 g\colon D\to\mathbb{C} が存在する
- f(a)=f'(a)=f''(a)=\cdots=f^{(m-1)}(a)=0 かつ f^{(m)}(a)\neq 0 が成立する
1.が本記事での m 位の零点の定義です。軽く証明しておきましょう。
1.\implies 2.は, (z-a)^m g(z) を積の微分法則(ライプニッツ法則)に基づいて微分していけば証明できます。2.\implies 1.の証明は,正則関数は各点の近傍でテイラー展開可能であることを考えれば明らかです。実際, a のある近傍 U\subset D 上で, f は
f(z)= \sum_{n=0}^\infty \frac{f^{(n)}(a)}{n!} (z-a)^n ,\quad z\in U
とテイラー展開できますから,2.を仮定すれば U 上で1.が従います。 D\setminus U 上では,g= f/(z-a)^m は明らかに正則ですから, D 上で1.のように書けるわけです。
零点の孤立性(非集積性)
零点は定義域内では常に孤立しています。
定理2(零点の孤立性(非集積性))
D\subset \mathbb{C} を領域(連結開集合), f\colon D\to \mathbb{C} を正則関数とする。 f が定数関数でないとき, f の各零点は孤立している。
すなわち, a\in D が f の零点であるとき,ある a の開近傍 U\subset D が存在して
f(z)\ne 0,\quad z\in U\setminus \{a\}
となる。
定理2より,その対偶「『ある零点が零点たちの集合の集積点である,すなわち零点の集合 \{a_n\} が存在して, a_n \to a かつ a も f の零点である』\implies f(z)=0\, (\forall z\in D)」が成り立ちます。これは一致の定理 (identity theorem) そのものです。以下で証明しています。これ自体が,定理2の証明になっています。

注意ですが,定義域ではない点に零点が集積することはあります。たとえば, \sin (1/z) の各零点は孤立点ですが, 0 に集積します。 0 はこの正則関数の定義域に入っていません。
零点の具体例
簡単な具体例を紹介しておきましょう。
- (z-1)^2(z-3i) は 1 が2位の零点, 3i が1位の零点である
- \sin z は z=n\pi \, (n\in\mathbb{Z}) に1位の零点をもつ
- e^z は零点をもたない
複素関数の極との関係
零点と極との関係を述べるために,まずは極を定義しましょう。
複素関数の極
定義2(極)
D\subset \mathbb{C} を開集合とし, a\in D とする。また, f\colon D\setminus \{a\} \to \mathbb{C} を正則関数とする。
ある整数 m\ge 1 と正則関数 h\colon D\to \mathbb{C} が存在して,
\large \color{red} f(z)=\dfrac{h(z)}{(z-a)^m},\quad h(a)\ne 0
と表せるとき, a は f の m 位の極 (pole of order m) という。
極は孤立特異点の分類の一つです。
零点と極の関係

さて,零点と極の関係を述べましょう。本記事のメインの定理です。
定理3(極と零点の関係)
D\subset \mathbb{C} を開集合とし,正則関数 f\colon D\to \mathbb{C} は D 内に a のみで零点をもつとする。このとき,整数 m\ge 1 に対し,次の2条件は同値である。
- a は f の m 位の零点である
- a は 1/f\colon D\setminus \{a\}\to \mathbb{C} の m 位の極である
零点と,その逆数が極であることが対応しているんですね。
証明
1. \implies 2. について
a は f の m 位の零点であると仮定する。 このとき,零点の定義より, g(a)\neq 0 を満たす正則関数 g\colon D\to\mathbb{C} が存在して,
f(z)=(z-a)^m g(z)と表せる。 仮定より, f は a 以外で零点をもたないので, g は D 上で零点をもたない。そこで, h=1/g とおくと, h\colon D\to \mathbb{C} は正則であり,
h(a)=\frac{1}{g(a)}\neq 0を満たす。このとき, D\setminus \{a\} 上で
\frac{1}{f(z)} = \frac{1}{(z-a)^m g(z)} = \frac{h(z)}{(z-a)^m}と表すことができるため, a は 1/f の m 位の極である。
2. \implies 1. について
a は 1/f の m 位の極であると仮定する。 極の定義より,正則関数 h\colon D\to\mathbb{C} が存在して, D\setminus \{a\} 上で h(a)\neq 0 かつ
\frac{1}{f(z)}=\frac{h(z)}{(z-a)^m}と表せる。 D\setminus \{a\} 上では h(z)=(z-a)^m/f(z)\ne 0 なので,両辺の逆数をとると,
f(z)=\frac{(z-a)^m}{h(z)}となる。 既に述べた通り h は零点をもたないので, g=1/h とおくと, g\colon D\to\mathbb{C} は正則である。 さらに,
g(a)=\frac{1}{h(a)}\neq 0であり,
f(z)=(z-a)^m g(z)と表せる。したがって, a は f の m 位の零点である。
証明終
多項式関数の零点
定数でない多項式関数には,必ず零点が存在することが知られています。これが,代数学の基本定理 (fundamental theorem of algebra) です。
定理4(代数学の基本定理)
定数でない多項式関数は必ず零点が存在する。特に, n 次関数のときは,位数を込めて n 個の零点が存在する。
「位数を込めて」とは,たとえば a が2位の零点なら,2個と数えるということです。
この証明は,いずれ別の記事で紹介しましょう。
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