有理型関数とは,特異点が極しかないような関数のことです。正則関数みたいに,全域で良い性質を持っているわけではありませんが,一部の極を除けば良い性質をもっていて,応用も広いです。
有理型関数について,その定義と例と性質を述べましょう。また,有理関数とは違いますから,定義を比較しましょう。
有理型関数の定義と例

有理型関数の定義
定義1(有理型関数)
D \subset \mathbb{C} を開集合とする。 f が D 上の有理型関数 (meromorphic function) であるとは, D の離散部分集合 P \subset D が存在して,次の2つの条件を満たすことである。
有理型関数とは,特異点が全て孤立特異点で,かつそれが全て極となるような(特異点を除いて)正則な関数のことです。定義に出てくる「 P が離散集合である」という条件は, D 内に P の集積点が存在しないことを意味します。これにより, P の各点は必ず孤立特異点となります。また,孤立特異点の集合 P は高々可算集合です。なぜなら,たとえば \mathbb{C} 上の有理型関数の場合,離散性から整数 n \ge 1 に対して,P_n= P\cap \{ z\mid |z|\le n\} は有限集合であり, P=\bigcup_{n=1}^\infty P_n だからです。
注意ですが,有理型関数は有理関数の定義とは異なります。厳密には,有理関数ならば有理型関数です(後述)が,有理型関数には有理関数以外もあります。定義を比較しておきましょう。
- 有理型関数 (meromorphic function) …… 極を除いて正則な関数
- 有理関数 (rational function) …… (多項式)/(多項式)で表される関数のこと
具体例は次の例1.で述べましょう。
有理型関数の例
本サイトでは,基本的に \mathbb{C} 上の有理型関数を考えます。
例1(有理関数と有理型関数).
f_1(z)=\dfrac{z-2}{z^2+1} や f_2(z)= \dfrac{(2i+1)z+3i-4}{z^2+2z+1}
は有理関数かつ \mathbb{C} 上有理型関数である。
g_1(z)= \dfrac{1}{\sin z} や g_2(z)=\dfrac{e^z}{z}
は,有理関数ではないが, \mathbb{C} 上有理型関数である。
f_1, f_2 は(多項式)/(多項式)の形なので有理関数です。また,
\begin{aligned} f_1(z)= \frac{z-2}{(z+i)(z-i)}, \quad f_2(z)= \frac{(2i+1)z+3i-4}{(z+1)^2 }\end{aligned}
なので, f_1 は z=\pm i で1位の極をもつ, f_2 は z=-1 で2位の極をもつ \mathbb{C} 上の有理型関数です。
g_1, g_2 は(多項式)/(多項式)の形ではないので,有理関数ではありません。一方で, g_1 は z=n\pi \, \,(n\in\mathbb{Z}) で1位の極をもつ, g_2 は z=0 で1位の極をもつ \mathbb{C} 上の有理型関数です。
例2(有理関数ならば有理型関数).
全ての有理関数は \mathbb{C} 上有理型関数である。
例1.で,有理型関数と言っても有理関数とは限らないことを確認しましたが,逆に有理関数ならば必ず有理型関数です。実際, f(z)=\dfrac{P(z)}{Q(z)}( P, Q は多項式)の形で,これ以上約分できない形で表されているとしましょう。代数学の基本定理より,ある整数 l\ge 1 と異なる \alpha_1,\alpha_2,\ldots, \alpha_l\in\mathbb{C} と,整数 m_1, m_2, \ldots, m_l \ge 1 と a \in \mathbb{C}\setminus \{0\} が存在して,
Q(z)=a(z-\alpha_1)^{m_1}(z-\alpha_2)^{m_2}\cdots (z-\alpha_l)^{m_l}
と因数分解できます。このとき,複素関数の零点の定義と極との関係内で述べたとおり, f は 1\le j\le l に対し, \alpha_j で m_j 位の極をもつ関数となりますから,\mathbb{C} 上有理型関数といえます。
例3(無限和で表されるもの).
f(z)= \frac{1}{z}+\sum_{n=1}^\infty \frac{2z}{z^2-n^2}
は z=n \,\, (n\in\mathbb{Z}) で1位の極をもつ \mathbb{C} 上の有理型関数である。
これの証明の流れはよく使うので,理解しておきましょう。まず, R>0 に対し, f が |z|<R 上で有理型であることを示します。
f(z)= \underbrace{ \frac{1}{z}+ \sum_{n\le 2R} \frac{2z}{z^2-n^2}}_{\eqqcolon f_1(z)} + \underbrace{\sum_{n>2R} \frac{2z}{z^2-n^2}}_{\eqqcolon f_2(z)}
のように,和を分けましょう。 f_1(z) は有限和ですから, z=n \,\, (n\in\mathbb{Z}, |n|<R) 上で1位の極を持つ関数であることは分かります。 f_2(z) は |z|<R に注意すると,
\begin{aligned} |f_2(z)|&\le\sum_{n>2R} \left| \frac{2z}{z^2-n^2} \right| \\ &\le\sum_{n>2R} \frac{2R}{n^2-R^2} \\ &\le \sum_{n>2R} \frac{2R}{n^2-(n/2)^2} <\infty\end{aligned}
となって絶対収束するので, f_2(z) は |z|<R 上正則です。従って, f は |z|<R 上で有理型が分かりました。ここで, R>0 は任意であったので,結局これは \mathbb{C} 上で有理型であることを意味します。これで示せました。
一旦領域を原点中心,半径 R の開円板上のみで考えて,(有理型の有限和)+(正則な無限和)の形にするのがポイントでした。ちなみに, f(z)=\pi \cot \pi z=\pi \cos \pi z/\sin\pi z となることが知られています。
有理型関数の諸性質
諸性質を2つ紹介しましょう。
リーマン球面上の有理型関数は有理関数に限る
有理関数は有理型関数ですが,その逆は成立しないという話をしました。しかし,f が \mathbb{C} 上有理型でかつ \infty が除去可能特異点または極であるときは, f は有理関数に限ることが知られています。まずは,リーマン球面 \widehat{\mathbb{C}}=\mathbb{C}\cup \{\infty\} 上の有理型関数を定義しましょう。リーマン球面 \widehat{\mathbb{C}} とは,複素平面 \mathbb{C} の1点コンパクト化です。
定義2(リーマン球面上の有理型関数)
f が次の2つの条件をみたすとき, f はリーマン球面 \widehat{\mathbb{C}} = \mathbb{C} \cup \{\infty\} 上の有理型関数 (meromorphic function) という。
- \mathbb{C} 上の有理型関数である
- 無限遠点 \infty が f の除去可能特異点または極である
「無限遠点 \infty が f の除去可能特異点または極である」とは, g(z)=f(1/z) における原点が孤立特異点であり,それが除去可能特異点または極であることを言います。これは, \lim_{z\to \infty} |f(z)|\in [0,\infty] が存在することと同値です(→【複素解析】孤立特異点とその分類まとめ)。
また,無限遠点も孤立特異点でなければなりませんから,特異点は有限個でなくてはなりません。リーマン球面はコンパクトだからです。たとえば, f(z)=1/\sin z という関数においては, \infty は非孤立特異点なのでダメです。
さて,証明したい主張を述べましょう。
定理1(リーマン球面上の有理型関数)
リーマン球面 \widehat{\mathbb{C}} 上の有理型関数 f は有理関数に限る。すなわち,ある多項式 P(z), Q(z) ( Q \not\equiv 0) が存在して,
f(z) = \frac{P(z)}{Q(z)}と表せる。
証明は,ローラン展開の主要部を除去するという形で行います。ローラン展開についてはローラン展開とは~証明・具体例・留数や特異点との関係~内の定理を既知とします。丁寧に証明しましょう。
証明
f の \infty 以外の極を a_1, a_2, \ldots, a_l \in\mathbb{C} とする。 1\le k\le l に対し, a_k の周りのローラン展開を考える。 a_k は極なので,ある整数 m_k \ge 1 と \{c_{k,n}\}_{n=-m_k}^\infty\subset \mathbb{C} が存在して, a_k を除く a_k の近傍で
f(z)=\underbrace{ \sum_{n=1}^{m_k} \frac{c_{k,-n}}{(z-a_k)^n}}_{\eqqcolon p_k(z)} + \sum_{n=0}^\infty c_{k,n} (z-a_k)^n
とローラン展開できる(ここで,ローラン展開の主要部を p_k とおく)。
さらに, \infty は f の除去可能特異点または極なので, 0 は g(z)=f(1/z) の除去可能特異点または極である。よって,ある整数 m_\infty\ge 0 と \{c_{\infty,n}\}_{n=-m_\infty}^\infty\subset \mathbb{C} が存在して, 0 を除く 0 の近傍で
g(z)= \sum_{n=1}^{m_\infty} \frac{c_{\infty,-n}}{z^n}+ \sum_{n=0}^\infty c_{\infty,n} z^n
とローラン展開できる。 f(z)=g(1/z) なので, \infty の近傍で
f(z)= \underbrace{ \sum_{n=1}^{m_\infty} c_{\infty,-n} z^n}_{\eqqcolon p_\infty(z)} + \sum_{n=0}^\infty \frac{ c_{\infty,n}}{ z^n }
とかける( m_\infty=0 のときは p_\infty=0 とする)。ここで,
H= f - \sum_{k=1}^l p_k - p_\infty
と定めよう。 H は \mathbb{C} 全体で正則(整関数)である。実際, f-p_k は a_k を除去可能特異点としてもち,また -\sum_{k'\ne k} p_{k'} -p_\infty は a_k を含む a_k の近傍で正則なので, H は a_k を除去可能特異点としてもつ。
また, H は有界である。実際,
H=(f-p_\infty) -\sum_{k=1}^l p_k \xrightarrow{z\to \infty} c_{\infty, 0} -\sum_{k=1}^l 0
からわかる。有界な整関数は定数に限るというリューヴィルの定理より, H は定数である。
よって, f=\sum_{k=1}^l p_k + p_\infty +{} (定数) という形なので,有理関数である。
証明終
証明できましたね。
なお,有理型関数は,終域の方をリーマン球面 \widehat{\mathbb{C}} と思うこともできます。 a が f の極であることの必要十分条件は \lim_{z\to a} |f(z)|=\infty となることです(→【複素解析】孤立特異点とその分類まとめ)。よって,各極 a に対し, f(a)=\infty と定義することで, \mathbb{C} 上の有理型関数は f\colon \mathbb{C}\to \widehat{\mathbb{C}} と見ることもできます。 \widehat{\mathbb{C}} 上の有理型関数は f\colon \widehat{\mathbb{C}}\to \widehat{\mathbb{C}} と見ることもできます。
ミッタク・レフラーの定理~極を指定した有理型関数の構成~
ここまで有理型関数の性質を見てきましたが,逆に,極をこちらで指定した有理型関数を構成することができるでしょうか。これが可能であるというのが,ミッタク・レフラーの定理です。Mittag-Lefflerという一人の人物の定理です。紹介のみしましょう。
定理2(ミッタク・レフラーの定理; Mittag-Leffler’s theorem)
1\le N\le \infty とする。 \{a_n\}_{n=1}^N \subset \mathbb{C} を \mathbb{C} 内に集積点をもたない相異なる点列とする。 各 a_n に対して, \frac{1}{z - a_n} の多項式
p_n(z) = \sum_{k=1}^{m_n} \frac{c_{n,-k}}{(z - a_n)^k} \quad (c_{n,-m_n} \neq 0)が与えられているとする。
このとき, \mathbb{C} 上の有理型関数 f であって,次を満たすものが存在する。
1\le N<\infty のときは単に f= \sum_{n=1}^N p_n とするだけなので簡単です。問題は, N=\infty のとき,すなわち極が無限個あるときに,そんなものが存在するかどうかです。補正項が必要ですが,これが可能というのが,本定理の本質です。
証明は行いません。機会があれば別の記事で解説します。
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