恒等写像・包含写像とは,ともに f(x)=x となるような写像で,恒等写像は定義域と終域が同じもの,包含写像は終域が定義域よりも大きいものを指します。これについて,詳しく解説します。
恒等写像・包含写像の定義
恒等写像の定義
定義(恒等写像)
f\colon X \to X が, f(x) = x をみたすとき,これを恒等写像 (identity map, identity function) という。
恒等写像を \textcolor{red}{\mathrm{id}} や,集合を明示して \textcolor{red}{\mathrm{id}_X} などとかく。
定義域と終域が同じであり,かつ各要素を自分自身にうつす写像を恒等写像というんですね。
包含写像の定義
定義(包含写像)
X \subset Y とし, \iota \colon X \to Y が \iota(x) = x をみたすとき,これを包含写像 (inclusion map, inclusion function) という。
包含写像は特に慣例的な書き方はないが,ギリシャ文字の「イオタ」である \textcolor{red}{\iota} やアルファベットの「アイ」である \textcolor{red}{i} はしばしば使われる。
恒等写像は定義域と終域が同じであったのに対し,包含写像では終域が定義域より広いということですね。
恒等写像・包含写像の性質
明らかに,以下のような性質が成立します。
なお,ここからは全射・単射・全単射,合成写像,逆写像については既知とします。
恒等写像の性質
命題(恒等写像の性質)
- \mathrm{id} は全単射でありかつ \mathrm{id}^{-1} = \mathrm{id} である。
- f\colon X \to Y とするとき,f \circ \mathrm{id}_X = \mathrm{id}_Y \circ f = f である。
包含写像の性質
命題(包含写像の性質)
- 包含写像は単射である。
- f\colon X \to Y に対し,定義域を A \subset X に制限した写像は,包含写像 \iota\colon A \to X を用いて f \circ \iota \colon A \to Y とかける。
ここで,包含写像は単射であるため, \iota \colon X \hookrightarrow Y とかけます。 「 X \subset Y の包含関係」と「写像であること」をうまく一つで表したような矢印ですね。
また, X \subset Y でなくても, \iota\colon X \to Y が単射であり,数学的に X が Y の部分集合とみなせる(たとえば演算規則が保存されるなどの)場合は, \iota を包含写像とみなすことで, X \subset Y とみなす場合があります。