モニック多項式とは,最高次係数が 1 である一変数多項式のことを言います。モニック多項式について,簡単に定義・例・性質を紹介しましょう。
モニック多項式とは
定義(モニック多項式)
最高次係数が 1 である一変数多項式をモニック多項式 (monic polynomial) という。すなわち,
\color{red}p(x)=x^n+c_{n-1}x^{n-1}+c_{n-2}x^{n-2}+\dots +c_0
のような多項式のことをモニック多項式という。
より一般に,可換環 R 上の一変数多項式環
R[x]=\left\{ \sum_{k=0}^n r_k x^k\middle|n\ge 0,\, r_0,\dots, r_n \in R\right\}
について,最高次係数が 1\in R (乗法単位元)になる多項式もモニック多項式 (monic polynomial) といいます。
普通に「最高次係数が 1 の多項式って言えばいいじゃん」って思うかもしれませんが,名前を付けるくらい,代数学では考える価値のある多項式です。
一応例を挙げておきましょう。
モニック多項式の例
- x^2-2x+7
- x^3-\frac{1}{2}x-1
- x^5-\sqrt{2}x
- 1
モニック多項式でない例
- 2x^3-x+2
- 3x
モニック多項式の性質
モニック多項式の簡単な性質を紹介しましょう。
定理1(モニック多項式の積もモニック)
f, g がモニック多項式なら,その積 fg もモニック多項式である。特に,モニック多項式全体の集合は乗法に関してモノイド(単位元を持つ半群)になる。
単に,最高次係数が 1 の多項式をかけ算してもやはり最高次係数が 1 になる,と言っているに過ぎません。
定理2(多項式の割り算)
R を可換環, R[x] を R 係数の多項式環とする。g\in R[x] をモニックとするとき,任意の f\in R[x] は
\color{red}\begin{gathered}f=gq+r , \quad q, r\in R[x]\\ \deg r< \deg g \end{gathered}
とかける。ただし, \deg f は f の次数を表す。これを多項式の割り算という。
体上の多項式環であれば, g はモニックでなくても「多項式の割り算」ができますが,環上の多項式環について「多項式の割り算」を定義するには,モニック多項式で割らねばなりません。
難しく聞こえるかもしれませんが,要するに「整数係数の多項式を最高次係数が 1 の整数係数多項式で割り算すると,商も余りも整数係数になるが,最高次係数が 1 でない多項式で割り算すると,商・余りが整数係数になるとは限らない」というのを難しく言っていると考えても大丈夫です。
関連する概念
関連する概念を少し紹介しておきましょう。
- R を可換環とし, S\subset R を部分環とする。 \alpha \in R があるモニック多項式 f(x)\in S[x] の根になっている,すなわちある n\ge 1 と a_{n-1},\dots, a_0\in S が存在して,
\alpha^n+ a_{n-1}\alpha^{n-1}+\dots + a_0=0
とできるなら, \alpha は S 上整 (integral) であるという。 - \mathbb{Z} 上整な複素数を代数的整数 (algebraic integer) という。すなわち,整数係数モニック多項式の根になり得る複素数を代数的整数 (algebraic integer) という。
整数係数多項式の根になり得る複素数を代数的数 (algebraic number) といいますが,代数的整数はこれとは異なる概念であることに注意してください。たとえば,全ての有理数は代数的数ですが,有理数が代数的整数ならば,それは整数に限られます。