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群の定義・可換群(アーベル群)の定義と具体例6つをていねいに

群・環・体
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群・可換群(アーベル群・加法群)とは,一般の集合の上に,いい感じの二項演算を定めた集合です。抽象代数学の入り口と言っていいでしょう。

これについて,その定義と具体例を,ていねいに述べましょう。最後には群の基本的な性質も述べます。

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群の定義・可換群(アーベル群)の定義

群を考える最大のメリットは,「定義が抽象的なため,さまざまな演算を統一的に扱える」ことです。定義を確認しましょう。

定義(群・可換群(アーベル群))

集合 G 上に二項演算 G\times G \ni (a,b)\mapsto ab \in G が定義されていて,

  1. (ab)c = a(bc) (結合法則)
  2. 「任意の a\in G に対し, ae = ea = a」となる元 e\in G が存在する(これを単位元・単元 (unit) という)
  3. 任意の a\in G に対し,「 aa^{-1}=a^{-1}a=e となる元 a^{-1}\in G が存在」する(これを a逆元 (inverse)という)

のうち,1.をみたすとき半群 (semigroup),1,2.をみたすときモノイド (monoid),1,2,3.の全てをみたすとき (group) という。また,上に加えて,

4. 任意の a,b \in G に対して, ab=ba

が成立するとき,可換群 (commutative group) またはアーベル群 (Abelian group),加法群 (additive group) という。

半群・モノイド・群・可換群の定義のイラスト

二項演算とは,集合 G 上に定まっている写像 G\times G\ni (a,b)\mapsto \phi(a,b)\in G を指します。今回は,この写像を便宜上 \phi(a,b)=ab と書いているわけですね。

群における二項演算は (product) と呼ばれることが多いです。 ab の代わりに, a\cdot b とかくこともあります。また (ab)c=a(bc) ですから,この両者を区別する必要がなく,単に abc とかくのが普通です。

単位元は e と書きましたが, 1 と書くこともあります。

可換群(アーベル群・加法群)における二項演算は,積の代わりに (sum) と呼び, a+b のように書くことも多いです。

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群・可換群(アーベル群)の具体例6つ

難しい概念は具体例を通して理解するのが一番です。早速,具体例を挙げましょう。

  • 群である例
  • 群でない例

の両方を述べます。

群・可換群(アーベル群)である例

例1( 0 でない実数の積).

G= \mathbb{R}\setminus \{0\} は通常の積の演算(かけ算)に関して群をなす。実際,

  1. a,b,c\in G \implies (ab)c=a(bc)
  2. 1 は任意の a\in G に対して a1=1a = a が成立する単位元である。
  3. a\in G に対し, 1/a\in G a (1/a)= (1/a)a=1 をみたす逆元である。

また, ab=ba も成り立つので,可換群(アーベル群・加法群)である。

G=\mathbb{R}\setminus \{0\} は二項演算を「かけ算」と思うことで群ですね。 \mathbb{R} から 0 を除いているのは, 0 にはかけ算して 1 になる逆元がないからです。

なお,\mathbb{Q}\setminus \{0\} や,\mathbb{C}\setminus\{0\} も,通常の積に関して群になります。その証明は,例1.と全く同じです。

例2(実数の和).

\mathbb{R} は通常の和の演算(足し算)に関して群をなす。実際,

  1. a,b,c\in \mathbb{R} \implies (a+b)+c = a+(b+c)
  2. 0 は任意の a\in \mathbb{R} に対して a+0 = 0+a=a が成立する単位元である。
  3. a\in \mathbb{R} に対し, -a\in \mathbb{R} a+(-a)=(-a)+a=0 をみたす逆元である。

また, a+b=b+a も成り立つので,可換群(アーベル群・加法群)である。

「和」という二項演算 \mathbb{R}\times \mathbb{R}\ni (a,b) \mapsto a+b\in \mathbb{R} を考えても,これは群をなしますね。

例1.のように,積について群と思ったときの単位元・逆元はそれぞれ 1, 1/a でしたが,今回にように,和について群と思ったときの単位元・逆元はそれぞれ 0, -a になります。

なお, \mathbb{Z},\mathbb{Q},\mathbb{C} も,和に関して群になります。

もう少しレベルを上げましょう。

例3(行列群).

n正則行列(可逆行列)全体の集合

\!\!\! \mathrm{GL}_n(\mathbb{R})\! = \! \{ A\!=\!(a_{ij})_{1\le i,j\le n} \mid a_{ij}\in\mathbb{R}, \det A \!\ne\! 0\}


は行列の積に関して群をなす。実際,

  1. A,B,C\in \mathrm{GL}_n(\mathbb{R}) \implies (AB)C=A(BC)
  2. 単位行列 I\in \mathrm{GL}_n(\mathbb{R}) は,任意の A\in \mathrm{GL}_n(\mathbb{R}) に対して, AI=IA=A が成立する単位元である。
  3. 逆行列 A^{-1}\in \mathrm{GL}_n(\mathbb{R}) は, AA^{-1}=A^{-1}A= I が成立する逆元である。

一般に, AB\ne BA なので,可換群(アーベル群・加法群)ではない。この群を一般線形群ということもある。

可逆行列の演算は,群であるが可換群(アーベル群)でない典型的な例ですね。

例4(対称群).

全単射 \sigma \colon \{ 1,2,\dots, n\} \to \{1,2,\dots, n\}置換という。置換全体の集合 S_n写像合成に関して群をなす。実際,

  1. \sigma, \tau, \eta \in S_n \implies (\eta\circ \tau)\circ \sigma = \eta\circ (\tau\circ \sigma)
  2. 恒等写像 \operatorname{id} \sigma \circ \operatorname{id}=\operatorname{id}\circ \sigma =\sigma をみたす単位元である。
  3. \sigma \in S_n に対し, \sigma^{-1}\in S_n \sigma\circ \sigma^{-1}=\sigma^{-1}\circ \sigma =\operatorname{id} をみたす逆元である。

この群を対称群 (symmetric group) という。一般に \tau \circ \sigma\ne \sigma \circ \tau なので,これは可換群(アーベル群・加法群)でない。

このように,定義域・終域が同じ全単射の集合も「合成」という演算 \tau\circ \sigma \in S_n によって,群をなします。

記法については,いちいち写像の合成の記号 \circ をかいて \tau \circ \sigma とするのは面倒なので,単に \tau \sigma のように書くことが多いです。

対称群については,以下で詳しく解説しています。

このように,さまざまな演算を統一的に扱えるのが「群」なわけです。数学で群を考えるメリットはここにあります。

群でない例

群でない例も理解しておきましょう。

例5.

A= \mathbb{Z}\setminus \{0\} は,通常の積に関するモノイドであるが群でない。実際,

  1. a,b,c\in A \implies (ab)c=a(bc)
  2. 1 は単位元

であるが,逆元がない。

A= \mathbb{Z}\setminus \{0\} にはかけ算して 1 になるような逆元がありません。たとえば, 2 \in A には 1/2 が逆元になり得ますが,これは A 内の集合でありませんね。

例6.

自然数の集合 \mathbb{N}=\{1,2,3,\dots\} は,通常の和に関する半群であるが,モノイドや群でない。実際,

  1. a,b,c \in\mathbb{N} について (a+b)+c=a+(b+c)

が成立するが, \mathbb{N} 内に単位元 0 はないし,逆元 -a もない。

群の基本的な性質~群の単位元・逆元の一意性と計算~

群の定義の根幹にかかわる,基本的な性質を紹介し,証明しておきましょう。

定理(群の単位元・逆元の一意性と計算)

G を群とする。このとき,

  1. 単位元 e は一意である。
  2. a\in G に対して,その逆元 a^{-1} は一意である。
  3. a,b\in G に対して, (ab)^{-1} = b^{-1}a^{-1}.
  4. a\in G に対して, (a^{-1})^{-1} = a.
  5. a,b\in G に対して,
    1. ab = e\implies b=a^{-1}.
    2. ba= e\implies b=a^{-1}.

5.は, ab=ba=e ではなく, ab=e のように1等式しか言えていなくても,逆元であることが分かってしまうと言っています。

順番に証明していきましょう。

証明

1. の単位元の一意性について

e, e' \in G を共に単位元とすると,単位元の定義より,

e=ee' = e'.


2. の逆元の一意性について

b,b' を共に a の逆元とすると,逆元の定義より,

b = b(ab') =(ba)b' = b' .


3. (ab)^{-1} = b^{-1}a^{-1} について

\begin{gathered} ab( b^{-1}a^{-1}) = a(bb^{-1})a^{-1} = aa^{-1} = e, \\ ( b^{-1}a^{-1}) ab= b^{-1}(a^{-1})ab = b^{-1}b = e \end{gathered}


より,逆元の定義から, (ab)^{-1} = b^{-1}a^{-1}.

4. (a^{-1})^{-1} =a について

逆元の定義式, aa^{-1} = a^{-1}a = e は, a^{-1} の逆元が a であることも示している。よって, (a^{-1})^{-1}=a である。

5. ab = e\implies b=a^{-1},\, ba=e\implies b=a^{-1} について

ab=e の両辺左から a^{-1} をかけて b=a^{-1} がわかり, ba=e の両辺右から a^{-1} をかけて b=a^{-1} がわかる。

証明終

1.の証明は単位元の定義しか使っていませんし,2.の証明は逆元の定義しか使っていません。よって,群でなくても,「単位元が存在すれば一意」や「逆元が存在すれば一意」であることは言えます。

たとえば,モノイドにおいても,単位元は一意です。

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