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乗法群(単元群)とは~定義と具体例6つ~

群・環・体
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乗法群,あるいは単元群とは,環や体のうち,乗法逆元の存在する元たちのなす群のことを指し, R^\times のように×で表します。乗法群について,その定義と具体例を紹介しましょう。

乗法群(単元群)の定義

乗法群・単元群とは

本記事では,は単位的(乗法単位元 1 が存在)とし,零環(自明な環)でないとします。

定義(乗法群)

Rとする。 R のうち,乗法逆元の存在する集合

R^\times = \{ a\in R\mid a^{-1} が存在 \}

は,乗法に関してをなす。 R^\times乗法群 (multiplicative group) または単元群 (group of units) という。

R^\times の各元を R単元 (unit) または可逆元 (invertible element) という。

乗法に関して群になることを示しましょう。もともと群の定義は以下の通りでした。

群の定義
  1. (ab)c=a(bc) (結合法則)
  2. 乗法単位元 1 が存在して,任意の a a1=1a=a
  3. 任意の a に対してある a^{-1} が存在して aa^{-1}=a^{-1}a=1

そして,はその定義から,乗法について1,2.が成り立つのでした(モノイドという)。そして,今, R^\times の元 a\in R^\times は, aa^{-1}=a^{-1}a=1 となる a\in R^\times の存在を仮定しており,さらに, a^{-1} の逆元は a という見方もできますから, a^{-1}\in R^\times もわかります。

よって, R^\times は乗法逆元に対しても閉じていて,3.が成立することが分かりますね。したがって, R^\times は積について群の定義を満たしています。

乗法群(単元群)の例

具体例を見ていきましょう。

例1.

\begin{aligned}\mathbb{Z}^\times &= \{\pm 1\},\\ \mathbb{Q}^\times &= \mathbb{Q}\setminus\{0\},\\ \mathbb{R}^\times &= \mathbb{R}\setminus \{0\},\\ \mathbb{C}^\times &= \mathbb{C}\setminus\{0\} \end{aligned}


である。

可換環 \mathbb{Q,R,C} の乗法群は単に 0 を除くだけですが, \mathbb{Z} のうち,乗法逆元が存在するものは \pm 1 だけですから,\mathbb{Z}^\times =\{\pm 1\} ですね。

例2.

K を体とするとき, K^\times = K\setminus\{0\} である。

逆に,可換環 R R^\times =R\setminus \{0\} をみたすとき,これはである。

は「可換環かつ 0 以外のすべての元が乗法逆元を持つ」というのが定義でしたから,前半も後半も明らかですね。

例3.

\mathrm{M}_n(\mathbb{R})^\times =\mathrm{GL}_n(\mathbb{R}) である。ただし, \mathrm{M}_n(\mathbb{R}) は 実数を成分とする n正方行列のなす行列環で, \mathrm{GL}_n(\mathbb{R})=\{ A\in\mathrm{M}_n(\mathbb{R})\mid \det A\ne 0\}正則行列(可逆行列)のなす一般線形群である。

非可換環における乗法群の例ですね。

例4.

n\ge 2 を整数とする。

|(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^\times |=\phi(n) である。ただし,右辺はオイラー関数であり, 1,2,\dots, n のうち,n と互いに素なものの個数を表す。

\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}{}\bmod n の世界ですね。 {}\bmod n において,乗法逆元が存在するのは,n と互いに素な整数のときです。よって, (\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^\times とは, 1,2,\dots, n のうち,n と互いに素な整数たちが積によってなす群です。

例5.

R整域とするとき, R[x]^\times = R^\times である。

整域とは,0 以外に零因子を持たない可換環です(→整域とは~定義・具体例4つ・基本的性質4つ~)。 R[x] とは R 係数多項式環です。

整域ならば, a,b\ne 0\implies ab\ne 0 であり,これを用いると,多項式の次数について, \operatorname{deg}(f(x)g(x))=\operatorname{deg} f(x)+ \operatorname{deg} g(x) が成り立ちます。すると, f(x)g(x)=1 とすると,\operatorname{deg} f(x)=\operatorname{deg} g(x)=0 となって, f(x),g(x)\in R となりますから,例5.の等式が成立するわけです。

例6.

R,Sとし, f\colon R\to S環準同型とする。このとき, f(R^\times) \subset S^\times であり, 群準同型写像 f\colon R^\times \to S^\times を引き起こす。

いったん f(R^\times)\subset S^\times を認めれば,環準同型写像の定義を考えれば, f\colon R^\times \to S^\times が群準同型になるのはわかりますね。 よって f(R^\times)\subset S^\times のみ示しましょう。

a\in R^\times とすると,f(a)f(a^{-1})=f(aa^{-1})=f(1)=1=f(1)=f(aa^{-1})=f(a)f(a^{-1}) ですから, f(a^{-1})=f(a)^{-1} であり, f(a)\in S^\times ですね。よって f(R^\times)\subset S^\times です。

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