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無限積の定義と性質・無限和の収束との関係

解析学(大学)その他
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無限積あるいは無限乗積とは,無限個の積 \prod_{n=1}^\infty a_n = \lim_{N\to\infty} \prod_{n=1}^N a_n のことをいいます。無限積の定義と,その収束性について,無限和との関連性や絶対収束を含めて述べましょう。

無限積の収束の定義

和を \sum (シグマ)記号で表すのと同様に,積は \prod (パイ)記号を用いて,

\color{red}a_1\times a_2\times \dots \times a_n =\prod_{k=1}^n a_k

と表すのが普通です。これにおいて, n\to\infty を考えます。

定義1(無限積・無限乗積)

\prod_{k=1}^n a_k n\to\infty のときに 0 でない値に収束するとき,無限積(無限乗積)は収束する (converge) といい, \color{red} \prod_{n=1}^\infty a_n と表す。

\{a_n\} は複素数列で良いです。

収束値は 0 でないとしています。これは, 0 を許すと, a_n=0 となるものが1つでもあると他の項の値に関係なく収束してしまうので,面白くないし,逆に厄介だからです。

また, a_n=0 となるものがなければ OK かというとそうでもありません。たとえば定数列 a_n=1/2 を無限個かけると 0 になりますが,これを「無限積が収束する」というと,以下の定理1が成り立ちません。

無限積の基本的な性質

定理1(無限積の各項の収束)

\prod_{n=1}^\infty a_n が収束する必要十分条件は,

\begin{equation}\color{red}\lim_{m,n\to\infty} \prod_{k=m}^n a_k =1\end{equation}


となることである。また (1) 式より特に,無限積が収束するならば \color{red} \lim_{n\to\infty} a_n =1 である。

コーシー列に近い話ですね。ちなみに,無限積の収束の定義に 0 を許すと,この定理は成立しません。\lim_{m,n\to\infty} \prod_{k=m}^n a_k =1 とは,任意の \varepsilon >0 に対して,ある N\ge 1 が存在して,

n\ge m\ge N \implies \left| \prod_{k=m}^n a_k -1\right| <\varepsilon

の意味です。特に,上で n\to\infty とすると, \left| \prod_{k=m}^\infty a_k -1\right| \le \varepsilon ですから,定理の \impliedby 方向( (1) ならば収束方向)はほぼ明らかです。

定理1の \implies の証明

P_n=\prod_{k=1}^n a_k と定めると, \lim_{m,n\to\infty} \prod_{k=m}^n a_k =P_n/P_m である。無限積の収束先を P(\ne 0) とすると,

\lim_{m,n\to\infty} \frac{P_n}{P_m} =\frac{P}{P}=1


である。特に, a_n = P_n/P_{n-1} \xrightarrow{n\to\infty}1 である。

証明終

このことから,無限積の収束は, a_n 1+a_n に置き換えて,

\large\color{red}\prod_{n=1}^\infty (1+a_n)


の形で考えることが多いです。こうすれば, \lim_{n\to\infty}a_n =0 となります。以降は,この形で考えることにしましょう。

無限和との関係と無限積の絶対収束

数列の各項は a_n >-1 をみたすとしましょう。\prod_{k=1}^n (1+a_k) で対数を取ると,

\log \prod_{k=1}^n (1+a_k) =\sum_{k=1}^n \log (1+a_k)


となります。無限積が収束するとき, n\to\infty とすると, \sum_{k=1}^\infty \log (1+a_k) は収束し,逆に \sum_{k=1}^\infty \log (1+a_k) が収束するとき,

\prod_{k=1}^n (1+a_k) =\exp\left(\sum_{k=1}^n \log (1+a_k)\right)


ですから,無限積も収束することが分かります。したがって,以下の定理が成立します。

定理2(無限積と無限和の収束)

a_n>-1 とする。

\prod_{n=1}^\infty (1+a_n) が収束する必要十分条件は \sum_{n=1}^\infty \log (1+a_n) が収束することである。

a_n>-1 としましたが,対数の枝をはっきり定めておけば, \{a_n\} を複素数にしても同じです。

定理2の和の形を応用して,無限積に対しても絶対収束を定義します。

定義2(無限積の絶対収束)

a_n>-1 とする。

\sum_{n=1}^\infty \log(1+a_n)


絶対収束するとき,無限積 \prod_{n=1}^\infty (1+a_n)絶対収束 (absolutely converge) するという。

定理2と上の定義より,明らかに無限積が絶対収束すれば収束します。

無限積の絶対収束については,以下の性質が成り立つことが知られています。

定理3(絶対収束と無限和の同値条件)

a_n>-1 とするとき,以下の3つは同値である。

  1. \color{red}\displaystyle \prod_{n=1}^\infty (1+|a_n|) <\infty
  2. \color{red}\displaystyle \sum_{n=1}^\infty |\log(1+a_n)|<\infty
  3. \color{red}\displaystyle \sum_{n=1}^\infty |a_n|<\infty

a_n>-1 としましたが,対数の枝をはっきり定めておけば, \{a_n\} を複素数にしても同じです。

1. は \prod_{n=1}^\infty (1+|a_n|) が収束すると言っています。 1+|a_n| \ge 1 ですから,単に「 <\infty」というだけで収束すると言えるわけですね。2. は \prod_{n=1}^\infty (1+a_n) が絶対収束することの定義ですが,同値性により,1.から3.のどれを絶対収束の定義にしても構いません。書籍によって定義が異なることがあります。

この定理により, \prod_{n=1}^\infty (1+a_n) が絶対収束することの判定には,単に \sum_{n=1}^\infty |a_n|<\infty を見ればよいということが分かりますね。

定理3の証明

2. \iff 3.について

2, 3のどちらか一方を仮定すると, a_n \xrightarrow{n\to\infty} 0 である。ここで, \lim_{x\to 0} \log (1+x)/x = 1 であるから,特に \lim_{x\to 0} |\log (1+x)/x| = 1 である。したがって,任意の \varepsilon >0 に対して,十分大きな n

(1-\varepsilon) |a_n| \le |\log(1+a_n)|\le (1+\varepsilon )|a_n|


が成り立つ。これにより示せた。

1. \iff 2.について

2. \iff 3.より,\sum_{n=1}^\infty |\log(1+a_n)|<\infty\iff \sum_{n=1}^\infty |a_n|<\infty\iff \sum_{n=1}^\infty \log(1+|a_n|)<\infty である。定理2.より,最後は \prod_{n=1}^\infty (1+|a_n|) が収束することと同値である。従って示せた。

証明終

注意ですが,以上は絶対収束の話であり, \sum_{n=1}^\infty a_n の収束は, \prod_{n=1}^\infty (1+a_n) の収束のための必要条件でも十分条件でもないです。以下に例を挙げておきます。

無限和の条件収束と無限積の条件収束が一致しない例

  1. \color{red}a_1=0,\, a_{2n}=\frac{1}{\sqrt{n}}, \, a_{2n+1} = -\frac{1}{\sqrt{n}+1} のとき, \prod_{n=1}^\infty (1+a_n) は収束するが, \sum_{n=1}^\infty a_n は収束しない。
  2. \color{red} a_{n}=\frac{(-1)^{n+1}}{\sqrt{n}} のとき, \prod_{n=1}^\infty (1+a_n) は収束しないが, \sum_{n=1}^\infty a_n は収束する。

例の証明

1.について

(1+\frac{1}{\sqrt{n}})(1-\frac{1}{\sqrt{n}+1})=1 なので,無限積は 1 に収束する。一方で, a_{2n}+a_{2n+1}=\frac{1}{\sqrt{n}(\sqrt{n}+1)}\ge \frac{1}{2n} より,無限和は収束しない。

2.について

無限和の収束は交代級数の収束性の証明とその具体例より良い。

\lim_{n\to\infty} \frac{a_n-\log(1+a_n)}{a_n^2}=\frac{1}{2}


であるから,十分大きい n に対して,

a_n -\log(1+a_n)> \frac{1}{4} a_n^2


とできる。この両辺無限和を取ることを考える。 \sum_{n=1}^\infty a_n が収束することと, \sum_{n=1}^\infty a_n^2=\sum_{n=1}^\infty 1/n =\infty であることから, \sum_{n=1}^\infty \log(1+a_n) =-\infty にならねばならない。定理2より, \sum_{n=1}^\infty a_n は発散する( 0 に発散する)。

無限積の定義の一般化

\prod_{n=1}^\infty a_n の収束を考える際,すべての a_n a_n\ne 0 を仮定するのは,少々仮定が強すぎて不便なことがあります。関数の無限乗積展開を考える際に,零点を含む関数も扱いたいからです。

したがって,以下のようにちょっと一般化して無限積の収束を定義することが多いです。

定義3(無限積・無限乗積のより一般的な定義)

数列 \{ a_n \} について, a_n=0 となる項が有限個であり,かつその有限個を除いた無限積

\prod_{n\ge 1,\, a_n \ne 0} a_n


0 でない値に収束するとき,無限積 \prod_{n=1}^\infty a_n収束する (converge) という。

この状況で,一つでも a_n=0 となる項がある場合は, 0 に収束するという。