大学数学で初めて出てくる積分である「重積分」について,その定義と,面積確定集合とは何かについて,図解付きで解説します。
2重積分の定義と面積確定集合
まずは, 2 変数の場合を考えてみましょう。
2重積分の定義
定義の仕方は,一変数のリーマン積分と類似しています。一変数のリーマン積分の定義が分からない場合は,まずはリーマン和による定積分の定義とリーマン積分可能・不可能な例を参照した方が良いかもしれません。
定義( 2 重積分)
I_1 = [a,b],\; I_2=[c,d],\; D=I_1\times I_2 とし, f\colon D\to \mathbb{R} を有界な2変数関数とする。各区間を
\begin{gathered}a=x_0<x_1<x_2<x_3 < \dots < x_m=b,\\ c=y_0<y_1<y_2 <y_3<\dots < y_n=d \end{gathered}
かつ D_{i,j} = [x_{i-1}, x_{i}]\times [y_{j-1}, y_{j}] \;(1\le i\le m,\, 1\le j\le n) とすることで, D を mn 個の長方形領域に分ける。
さらに \Delta x_i = x_i-x_{i-1}\;, \Delta y_j=y_j-y_{j-1} とし,
\!\!\!|\Delta| = \max\{ \Delta x_i, \Delta y_j\mid 1\le i\le m,\,1\le j\le n\}
と定め,各領域から t_{i,j}\in D_{i,j} を一つ選ぶ。このときのリーマン和 (Riemann sum)
について,
が \{D_{i,j}\}, \{t_{i,j}\} に依らずに同じ値に収束するとき,その収束値を
とかき,これを f の D 上の重積分 (multiple integral) という。
2 次元領域の積分なので,便宜上 \displaystyle \iint_D f(x,y)\, dxdy とかきましたが, x\in \mathbb{R}^2 と考え, \color{red} \displaystyle \int_D f(x) dx というかき方をすることもあります。
さて,1変数の定積分(リーマン積分)の定義を理解しているのであれば,同じような定義だと気づくでしょう。
1変数のときは,長方形近似により, y=f(x) と x 軸の間の面積を近似していました。2変数のときは,直方体近似により, z=f(x,y) と xy 平面の間の体積を近似しています。以下の図がそのイメージです。
なお,領域 D は閉区間2つの直積で表せるものしか考えていませんが,より一般の集合 E\subset \mathbb{R}^2 上の2重積分は
\color{red}\iint_E f(x,y)\, dxdy = \iint_D 1_E(x,y)f(x,y)\,dxdy
で定義すればよいです。ただし, 1_E (x,y)= \begin{cases} 1& (x,y)\in E,\\ 0 & (x,y)\in E^c\end{cases} を定義関数とします。
面積確定集合
続いて,面積確定集合を定義しましょう。面積確定集合は,上の2重積分をもってして定義されます。
定義(面積確定集合)
F\subset \mathbb{R}^2 が面積確定集合であるとは, F\subset D=[a,b]\times [c,d] としたときに,定義関数 1_F(x,y)=\begin{cases} 1& (x,y)\in F, \\ 0 & (x,y)\in D\setminus F\end{cases} が重積分可能であること,すなわち,
\color{red}\iint_D 1_F (x,y)\, dxdy
が定義できることを言う。また,このときの上の値を F の面積 (area) という。
どんどん長方形を細かくしていることで,黄色い部分を近似して,面積を求めています。やっていることは,まさに面積の長方形近似ですね。
例を挙げましょう。
面積確定集合の例
- A=\{ (x,y)\in\mathbb{R}^2\mid 0\le x\le y\le 1\} は面積確定集合である。
- B = \{ (x,y)\in \mathbb{R}^2\mid x,y\in\mathbb{Q}\} は面積確定集合でない。
n重積分の定義
続いて,一般の n 重積分を定義しておきましょう。
定義( n 重積分)
I_1=[a_1, b_1], \,I_2=[a_2,b_2],\, \dots, I_n=[a_n,b_n] を閉区間, D=I_1\times I_2\times \dots \times I_n とし, f\colon D\to \mathbb{R} を有界な n 変数関数とする。各区間を
\begin{gathered} a_1=x_{1,0}<x_{1,1}<x_{1,2}<\dots< x_{1,m_1}=b_1, \\ a_2=x_{2,0}<x_{2,1}<x_{2,2}<\dots< x_{2,m_2}=b_2, \\ \cdots \\ a_n=x_{n,0}<x_{n,1}<x_{n,2}<\dots< x_{n, m_n}=b_n, \\ \end{gathered}
と分割する。また,各 d 次元直方体領域を D_{i_1,i_2, \dots, i_n}= [x_{1,i_1-1}, x_{1,i_1}] \times [x_{2,i_2-1}, x_{2,i_2}] \times \dots \times [x_{n,i_n-1}, x_{n,i_n}] とし,さらに \Delta x_{k, i} = x_{k,i}-x_{k,i-1} とおき,
と定め,各領域から t_{i_1,i_2,\dots, i_n} \in D_{i_1,i_2, \dots, i_n} を選ぶ。このときのリーマン和 (Riemann sum)
について,
が \{D_{i_1,i_2,\dots, i_n}\}, \{t_{i_1,i_2,\dots, i_n}\} に依らずに同じ値に収束するとき,その収束値を
とかき,これを f の D 上の重積分 (multiple integral) という。
\displaystyle \int\dots\int とかきましたが, \displaystyle \int の個数は n 個です。
これも x\in \mathbb{R}^n として,単に \color{red} \displaystyle \int_D f(x)\, dx とかくこともあります。
これは,図形的に描くのはできませんが,イメージとしては,底面が n 次元である直方体を用いて, z=f(x_1,x_2,\dots, x_n) と x_1x_2\dots x_n 超平面の間の n 次元体積を近似していると思えます。
また,積分範囲として閉区間の直積しか考えていませんが,より一般の集合 E\subset \mathbb{R}^n については,
\color{red}\begin{aligned}&\int\dots\int_E f(x_1,\dots, x_n)\, dx_1\dots dx_n \\&= \int\dots\int_D 1_E(x_1,\dots,x_n)f(x_1,\dots,x_n)\,dx_1\dots dx_n\end{aligned}
と定義すればよいです。ただし, 1_E (x_1,\dots x_n)= \begin{cases} 1& (x_1,\dots, x_n)\in E,\\ 0 & (x_1,\dots,x_n)\in E^c\end{cases} を定義関数とします。
また,2変数の場合と同様に, n 次元体積確定集合を考えることが可能です。
多重積分の性質
重積分においても,1変数と同じような性質が成立します。簡単に述べておきましょう。
ここでは,簡単のため, x\in\mathbb{R}^n,\; D\subset\mathbb{R}^n として, n 重積分を \int_D f(x)\, dx とかく表記を用います。ここで, n\ge 1 ですから,以下は n=1 の場合(単なる1変数の積分の場合)も成立します。
定理(多重積分の性質)
- D, D_1,D_2\subset \mathbb{R}^n とし, f,g\colon \mathbb{R}^n \to \mathbb{R} を D,D_1,D_2 上可積分であるとする。このとき,
- \alpha, \beta \in \mathbb{R} に対して,
\begin{aligned}&\int_D (\alpha f(x)+\beta g(x)) \,dx\\ &= \alpha \int_D f(x)\,dx+\beta \int_D g(x)\,dx. \end{aligned} - f は D_1\cup D_2, D_1\cap D_2 上も可積分であり,
\begin{aligned} &\int_{D_1 \cup D_2} f(x)\,dx+ \int_{D_1\cap D_2} f(x)\,dx \\&= \int_{D_1} f(x)\,dx+\int_{D_2}f(x)\,dx.\end{aligned} - f(x)\le g(x)\; (x\in D) とするとき,
\int_{D} f(x)\,dx\le \int_D g(x)\, dx. - D_1\subset D とするとき,
\int_{D_1} f(x)\,dx = \int_D 1_{D_1}(x)f(x)\,dx.
- \alpha, \beta \in \mathbb{R} に対して,
- D= [a_1,b_1]\times\dots \times [a_n,b_n] とし, h \colon D\to \mathbb{R} が D 上連続関数であれば, D 上可積分である。
最初の証明は,定義に立ち返ればほぼ明らかでしょう。
最後の主張の証明は,1変数のときの証明がリーマン和による定積分の定義とリーマン積分可能・不可能な例にあり,これとほぼ同様なので,必要に応じて参照してください。