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σ加法族と可測空間の定義・基本的な性質をわかりやすく

2021.12.10
測度論
用語・記号の定義大学専門
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解析学，特に測度論やルベーグ積分と呼ばれる分野における最も基本的な概念である，「σ-加法族」「可測空間」の定義とその基本的な性質について，丁寧に紹介していきましょう。

σ加法族・可測空間の定義とその意義

σ加法族・可測空間の定義

σはギリシャ文字の「シグマ」です。

定義（σ-加法族・可測空間・可測集合）

X X を空でない集合とし，X X の部分集合族 F⊂2X \mathcal{F}\subset 2^X (べき集合の部分集合)が

  1. ∅∈F, \color{red}\emptyset \in \mathcal{F},
  2. A∈F  ⟹  Ac(=X∖A)∈F, \color{red}A\in\mathcal{F} \implies A^c (=X\setminus A)\in\mathcal{F},
  3. {An}⊂F  ⟹  ⋃n=1∞An∈F\color{red} \{A_n\}\subset \mathcal{F} \implies \bigcup_{n=1}^\infty A_n \in \mathcal{F}

をみたすとき，F \mathcal{F} を X X 上のσ-加法族（完全加法族，σ-代数，σ-field，σ-algebra）という。このとき，(X,F) (X, \mathcal{F}) を可測空間 (measurable space) といい，F \mathcal{F} の各元を可測集合 (measurable set) という。

σ-加法族の定義

F \mathcal{F} の性質2.を補集合について閉じている，性質3.を可算個の和について閉じているといいます。ここで大事なのは「可算個」であるということです。有限個では不足ですし，逆に非可算個の和について閉じていることは課しません。「σ」とは可算を意味します。

可算個の意味は以下で解説しています。これが分からないと，本質を理解しているといえないでしょう。

可算集合と非可算集合(可算無限・非可算無限)
専門数学を理解するにあたって重要な概念の一つの「無限の大小」について，すなわち可算集合（countable set, 可算無限）と非可算集合（非可算無限）について，その定義と性質を紹介しましょう。非可算集合については，連続体濃度を扱います。
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なお，Ak=Ak+1=… A_k=A_{k+1}=\dots として性質3.を適用することで，A1,A2,…,Ak∈F  ⟹  A1∪A2∪⋯∪Ak∈F A_1, A_2,\dots ,A_k \in \mathcal{F} \implies A_1 \cup A_2\cup \dots \cup A_k \in\mathcal{F} も言えます。すなわち，有限個の和について閉じていることも言えます。

定義の3.の代わりに，A1,A2,…,Ak∈F  ⟹  A1∪A2∪⋯∪Ak∈F A_1 ,A_2,\dots, A_k \in\mathcal{F} \implies A_1\cup A_2 \cup \dots \cup A_k \in\mathcal{F} を仮定したものを有限加法族といいます。F \mathcal{F} がσ-加法族ならば有限加法族です。

σ加法族・可測空間の意義

σ-加法族なんて考えて何の意味があるの？ って思ったかもしれません。「σ-加法族」とは，あとで「測度」という概念を導入することで，大きさの測れる集合たちになります。「大きさ」とは「長さ」とか「面積」とか「体積」のことです。

測度とは，σ-加法族を定義域とし，非負の実数値を返す「いい感じの性質を持つ」写像です。これを導入することで，σ-加法族の元の「大きさ」が測れるようになります。要するに「長さ」とかの概念の一般化です。

σ-加法族の元を「可測集合」といいますが，「大きさを測ることが可能」という意味です。

σ-加法族そのものが重要というよりは，その上に「大きさ」が定まるということが大事です。そして，「いい感じの大きさ」を定めるためには，どうしても定義にある3つの性質が必要なのです。

σ加法族の具体例

σ-加法族の具体例を挙げましょう。

例1.

X={a,b,c} X=\{ a,b,c\} とする。このとき，

F={∅,{a},{b,c},X} \mathcal{F} =\bigl\{ \emptyset, \{ a\}, \{b,c\} , X \bigr\}


はσ-加法族である。

定義をみたしているかは演習問題としましょう。

例2.

X={a,b,c,d} X=\{ a,b,c,d\} とする。このとき，

F={∅,{a},{b},{a,b},{c,d},{a,c,d},{b,c,d},X} \begin{aligned}\mathcal{F} = \bigl\{ &\emptyset, \{ a\}, \{b\},\{a,b\}, \\ &\{c,d\}, \{a,c,d\} ,\{b,c,d\} , X \bigr\}\end{aligned}


はσ-加法族である。

有限集合であれば，σ-加法族であることと，有限加法族であることは一致します。

例3.

X X を空でない集合とする。このとき，F={∅,X} \mathcal{F} = \{ \emptyset, X \} はσ-加法族である。また，F′=2X \mathcal{F}' = 2^X (べき集合)もσ-加法族である。

F={∅,X} \mathcal{F}=\{\emptyset, X\} もσ-加法族ですが，この上に「大きさ」を定めてもあんまり意味がない感じがしますね。

逆に，F=2X \mathcal{F} = 2^X も当然σ-加法族の定義をみたします。もちろん，このうえに「いい感じの大きさ」を定めることができれば非常にありがたいですが，そもそもそんなことが可能かという問題があります。

F \mathcal{F} にたくさんの集合が含まれていれば，それだけその上に「いい感じの大きさ」を定めるのは難しくなります。（もちろん，全ての「大きさ」が 0 0 になるようなものなら定めることは可能ですが。）

σ加法族の性質

以下は覚えておくべき性質です。

定理1（σ-加法族の性質1）

F\mathcal{F} を集合 X X 上のσ-加法族とするとき，

  1. X∈F. X\in\mathcal{F}.
  2. {An}∈F  ⟹  ⋂n=1∞An∈F. \{A_n \}\in\mathcal{F} \implies \bigcap_{n=1}^\infty A_n \in\mathcal{F}.
  3. A,B∈F  ⟹  A∖B∈F. A, B\in\mathcal{F} \implies A\setminus B \in \mathcal{F}.
σ-加法族の性質

可算個の和について閉じているだけでなく，可算個の共通部分に関しても閉じていることが言えます。これは非常に大事です。

なお，2.を Ak=Ak+1=… A_k =A_{k+1} = \dots として適用することで，A1,A2,…,Ak∈F  ⟹  A1∩A2∩⋯∩Ak∈F A_1, A_2,\dots, A_k \in\mathcal{F} \implies A_1 \cap A_2 \cap\dots \cap A_k \in\mathcal{F} も分かります。すなわち，有限個の共通部分についても閉じています。

証明

1. X∈F X\in\mathcal{F} について

∅∈F  ⟹  X=∅c∈F \emptyset \in \mathcal{F} \implies X = \emptyset^c \in \mathcal{F} より。

2. {An}∈F  ⟹  ⋂n=1∞An∈F \{A_n\}\in\mathcal{F}\implies \bigcap_{n=1}^\infty A_n \in\mathcal{F} について

{An}⊂F \{A_n \}\subset\mathcal{F} とすると，{Anc}⊂F \{A_n^c\}\subset\mathcal{F} である。よって，

(⋂n=1∞An)c=⋃n=1∞Anc∈F \left(\bigcap_{n=1}^\infty A_n\right)^c = \bigcup_{n=1}^\infty A_n^c \in\mathcal{F}


であるため，補集合を考えて ⋂n=1∞An∈F \bigcap_{n=1}^\infty A_n \in \mathcal{F} である。

3. A,B∈F  ⟹  A∖B∈F A,B\in\mathcal{F}\implies A\setminus B\in\mathcal{F} について

B∈F B\in\mathcal{F} より Bc∈F B^c\in\mathcal{F} であり，A∖B=A∩Bc∈F A\setminus B = A\cap B^c \in\mathcal{F} である。

証明終

もう一つ定理を紹介しましょう。

定理2（σ-加法族の性質2）

{Fλ}λ∈Λ \{\mathcal{F}_\lambda\}_{\lambda\in\Lambda} を集合 X X 上のσ-加法族の族とする。このとき，F=⋂λ∈ΛFλ \color{red}\mathcal{F}=\bigcap_{\lambda\in\Lambda} \mathcal{F}_\lambda も X X 上のσ-加法族である。

⋂λ∈ΛFλ={A⊂X∣∀λ∈Λ,A∈Fλ} \bigcap_{\lambda\in\Lambda} \mathcal{F}_\lambda = \{ A\subset X\mid \forall \lambda\in\Lambda , A\in\mathcal{F}_\lambda\}


です。

証明

全ての λ∈Λ \lambda\in\Lambda について ∅∈Fλ \emptyset \in \mathcal{F}_\lambda より，∅∈⋂λ∈ΛFλ \emptyset \in \bigcap_{\lambda\in\Lambda} \mathcal{F}_\lambda である。

A∈⋂λ∈ΛFλ A\in\bigcap_{\lambda\in\Lambda} \mathcal{F}_\lambda とすると，任意の λ∈Λ \lambda\in\Lambda に対して A∈Fλ A\in \mathcal{F}_\lambda なので，Ac∈Fλ A^c\in\mathcal{F}_\lambda である。よって，Ac∈⋂λ∈ΛFλ A^c\in \bigcap_{\lambda\in\Lambda} \mathcal{F}_\lambda である。

{An}⊂⋂λ∈ΛFλ  ⟹  ⋃n=1∞An∈⋂λ∈ΛFλ \{A_n\} \subset \bigcap_{\lambda\in\Lambda} \mathcal{F}_\lambda \implies \bigcup_{n=1}^\infty A_n \in \bigcap_{\lambda\in\Lambda} \mathcal{F}_\lambda も同様。

証明終

なお，逆に ⋃λ∈ΛFλ \bigcup_{\lambda\in\Lambda} \mathcal{F}_\lambda はσ-加法族とは言えません。たとえば，X={a,b,c,d,e} X=\{a,b,c,d,e\} に対して，

F1={∅,{a},{b,c,d,e},X},F2={∅,{e},{a,b,c,d},X} \begin{aligned}\mathcal{F}_1 &=\bigl\{ \emptyset , \{a\}, \{b,c,d,e\}, X\bigr\},\\ \mathcal{F}_2 &=\bigl\{\emptyset, \{e\}, \{a,b,c,d\}, X\bigr\} \end{aligned}


とすると，F1∪F2={∅,{a},{e},{a,b,c,d},{b,c,d,e},X} \mathcal{F}_1 \cup \mathcal{F}_2=\bigl\{\emptyset,\{a\}, \{e\}, \{a,b,c,d\}, \{b,c,d,e\}, X \bigr\} はσ-加法族ではありません。

σ加法族の生成

定義（σ-加法族の生成）

X X を空でない集合，F⊂2X F\subset 2^X をその部分集合族とする。このとき，F F の元をすべて含む最小のσ-加法族が存在する。これを σ(F)\color{red} \sigma(F) とかき，F F によって生成されるσ-加法族という。

F F 自体はただの集合族で，σ-加法族でなくて構いません。

「最小のσ-加法族の存在」は次のようにして分かります。まず，

F={F⊃F∣F is σ-field} \mathscr{F} = \{ \mathcal{F}\supset F \mid \mathcal{F} \text{ is } \sigma \text{-field}\}


を F F を含むσ-加法族の集合としましょう。2X∈F 2^X\in \mathscr{F} ですから，これは空ではありません。このとき，

F0=⋂F∈FF \mathcal{F}_0 = \bigcap_{\mathcal{F}\in \mathscr{F}} \mathcal{F}


も定理2よりσ-加法族です。特に，F F を含む最小のσ-加法族です。よって，σ(F)=F0 \sigma (F) = \mathcal{F}_0 としてあげればよいですね。

σ({a}) \sigma(\{a\}) のときは省略して σ(a) \sigma(a) とかきます。具体例を挙げましょう。

例4.

X={a,b,c,d} X=\{a,b,c,d\} に対し，

σ(a)={∅,{a},{b,c,d},X},σ({a,b})={∅,{a,b},{c,d},X}. \begin{aligned}\sigma(a) &= \{ \emptyset, \{a\}, \{b,c,d\} , X\},\\ \sigma(\{a,b\}) &= \{ \emptyset , \{a,b\}, \{c,d\}, X\} .\end{aligned}

「生成される」とは，簡単に言うと「高々可算個の集合の共通部分・和集合・補集合・差集合を取る操作」を高々可算回，を高々可算回，を高々可算回……行うことです(厳密な説明ではありません)。

なお，位相空間において，開集合から生成されるσ-加法族をボレル加法族（ボレル集合族）といいます。これについては，以下で掘り下げています。

ボレル集合とは～定義と性質～
ボレル集合 (Borel set) とは，開集合から生成されるσ-加法族の元のことを言います。「生成される」とは，簡単に言うと「高々可算個の集合の共通部分・和集合・補集合・差集合を取る操作」を高々可算回行うことです。まずボレル集合の定義を述べ，それから実数上のボレル集合族は区間で生成されることを証明しましょう。
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