直積集合上に定まる箱型積位相とは,位相空間の族に関して,その各開集合の直積を開基とする位相のことを言います。通常考える「直積位相」よりも大きい(細かい・強い)位相で,直積位相よりも使用頻度は下がりますが,重要な位相です。
箱型積位相について,直積位相とも比較しながら解説しましょう。
箱型積位相の定義

定義(箱型積位相)
\{(X_\lambda, \mathcal{O}_\lambda)\}_{\lambda\in\Lambda} を空でない位相空間の族とする。このとき,
\left\{ \prod_{\lambda\in\Lambda}U_{\lambda}\middle|U_\lambda\in\mathcal{O}_\lambda \right\}
を開基とする,直積集合 \prod_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda} に定まる位相を箱型積位相 (箱位相; box topology) という。箱型積位相が入った位相空間は,しばしば \color{red} \square_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda とかかれる。
箱型積位相は,直積集合に定まる位相として自然に思えるかもしれませんが,実際は大きすぎて(細かすぎて・強すぎて)使う頻度は落ちます。
直積集合 \prod_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda} に定まる位相は通常,有限個の \lambda\in\Lambda を除いて U_\lambda=X_\lambda となるような \prod_{\lambda\in\Lambda}U_{\lambda} を開基とする位相を考えることが多いです。これを直積位相 (product topology) といいます。有限個の直積のときは,直積位相と箱型積位相は一致しますが,無限個の直積のときは,箱型積位相の方が大きい(細かい・強い)位相です。
直積位相については,以下で詳しく解説しています。
本ページでは,直積位相と比較しながら,箱型積位相の性質を考えていきましょう。
箱型積位相の例~直積位相と比較しながら~
例1(離散位相の直積).
\{ (X_\lambda, 2^{X_\lambda})\}_{\lambda\in\Lambda} を離散空間の族とする。このとき, \square_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda も離散空間である。
たとえば,離散位相の入った集合 \{0,1\} の可算個の直積 \{0,1\}^\mathbb{N}=\prod_{n\in\mathbb{N}}\{0,1\} に入る位相について,
直積位相は,各 \{0,1\} はコンパクトなのでチコノフの定理により,コンパクトになります。
一方で,箱型積位相は離散位相であり,\{0,1\}^\mathbb{N} は無限集合なのでコンパクトではありません。これは,コンパクトな空間たちの直積位相はコンパクトだが,箱型積位相はコンパクトとは限らない例になっています。
ちなみに,直積位相の入った \{0,1\}^\mathbb{N} はカントール集合(カントールの三進集合)と同相です。詳しくは直積位相とは~定義・具体例・性質~をみてください。
例2( \R^\mathbb{N}).
\R^\mathbb{N}=\prod_{n\in\mathbb{N}} \R は実数列全体の集合とみれる。この空間に箱型積位相を入れたとき,
\R^\mathbb{N} は \R^\omega とかくことも多いです。
1.については,有界列全体の集合と,非有界列全体の集合はどちらも箱型積位相において開集合となるので言えます。一般に直積位相では連結な空間たちの直積は連結になるので,これは連結な空間たちの直積位相は連結だが,箱型積位相は連結とは限らない例になっています。
2.について,たとえば開集合 U=\prod_{n\in\mathbb{N}} (-1/n, 1/n) を考えたとき,
f^{-1}(U)=\bigcap_{n\in\mathbb{N}} \left(-\frac{1}{n},\frac{1}{n}\right)=\{0\}
は開集合ではないので, f は連続ではありません。 p_n\colon (x_n)\mapsto x_n を射影とするとき, p_n\circ f(x)=x (恒等写像)なので, p_n\circ f\colon \R\to \R はもちろん連続です。
p_\lambda \colon\prod_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda}\to X_\lambda を射影とするとき,直積位相のときは
f が連続 \iff \forall \lambda\in\Lambda,\, p_\lambda \circ f が連続
が成り立つことが知られています。これを普遍性 (universality) といいます。これは,直積位相のときは普遍性が成り立つが,箱型積位相ではそうとは限らない例になっています。
3.について,2.と同じ開集合 U を考えると, U は (0,0,0,\ldots) の近傍ですが,任意の m\ge 1 で x_m\notin U となるため,言えます。
一方で,直積位相とは~定義・具体例・性質~で示した通り,直積位相は各点収束の位相なので,直積位相においては, x_m は (0,0,0,\ldots) に収束します。
箱型積位相の性質
直積位相では成り立つが,箱型積位相では成り立たない例を多く取り上げましたが,逆に箱型積位相でも成り立つものも述べておきましょう。
1. 射影は開写像
定理1(射影は開写像)
\{(X_\lambda, \mathcal{O}_\lambda)\}_{\lambda\in\Lambda} を空でない位相空間の族とする。
このとき,各射影 p_\lambda \colon \square_{\mu\in\Lambda} X_{\mu}\to X_\lambda は開写像である。すなわち,開集合の像が開集合となる。
これは直積位相のときと同様に証明できます(→直積位相とは~定義・具体例・性質~)。
2. 直積位相と内部(開核)・閉包
\{(X_\lambda, \mathcal{O}_\lambda)\}_{\lambda\in\Lambda} を空でない位相空間の族とする。また, A_\lambda\subset X_\lambda\, (\lambda\in\Lambda) とする。このとき,箱型積位相 \square_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda において,
- \overline{ \prod_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}}= \prod_{\lambda\in\Lambda}\overline{A_{\lambda}}
- \operatorname{Int}\left(\prod_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}\right)= \prod_{\lambda\in\Lambda}\operatorname{Int}(A_{\lambda})
である。ただし, \overline{\hspace{5pt}\cdot\hspace{5pt}} は閉包を表し, \operatorname{Int}(\cdot) は内部(開核)を表す。特に,閉集合の直積は閉集合で,開集合の直積は開集合である。
直積位相のときは,閉包は無限個の直積と交換可能ですが,内部(開核)は有限個のときしか無理でした(→直積位相とは~定義・具体例・性質~)。箱型積位相では,両方無限個で可能です。
証明
1.について,直積位相のときの証明と同様(→直積位相とは~定義・具体例・性質~)。
2.について, \prod_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}\supset \prod_{\lambda\in\Lambda}\operatorname{Int}(A_{\lambda}) かつ右辺は開集合であることから, \operatorname{Int}\left(\prod_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}\right)\supset\prod_{\lambda\in\Lambda}\operatorname{Int}(A_{\lambda}) であることはよい。
逆に x\in \operatorname{Int}\left(\prod_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}\right) とすると,箱型積位相の定義より,各 \lambda\in\Lambda に対して,ある U_\lambda\in\mathcal{O}_\lambda があって,
\begin{aligned}x&\in\prod_{\lambda\in\Lambda}U_{\lambda}\subset \operatorname{Int}\left(\prod_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}\right) \end{aligned}
とできる。各 \lambda で U_\lambda \subset A_\lambda であり, U_\lambda は開集合なので U_\lambda\subset \operatorname{Int}(A_\lambda) である。したがって,
となる。よって逆の包含も言えた。
証明終
3. 箱型積位相と分離公理
定理3(箱型積位相と分離公理)
\{(X_\lambda, \mathcal{O}_\lambda)\}_{\lambda\in\Lambda} を空でない位相空間の族とする。
このとき,各 (X_\lambda, \mathcal{O}_\lambda) がハウスドルフ空間 (resp. T_0, T_1 空間) ならば,\square_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda もハウスドルフ空間 (resp. T_0,T_1 空間) である。
分離公理は,位相が大きい(細かい・強い)方が成り立ちやすい性質です。直積位相で成り立つ(→直積位相とは~定義・具体例・性質~)ので,それより大きい(細かい・強い)位相である箱型積位相でも当然成り立ちます。