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バナッハの不動点定理(縮小写像の原理)とその証明

微分方程式
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バナッハの不動点定理 (Banach’s fixed-point theorem) あるいは縮小写像の原理 (contraction mapping principle) とは, 縮小写像 f\colon X\to X が唯一つ不動点を持ち,その不動点は任意の点から f で何回もうつすことで近似可能という定理です。

これについて,主張と証明を行いましょう。

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バナッハの不動点定理(縮小写像の原理)

バナッハの不動点定理(縮小写像の原理)

(X,d) を空でない完備距離空間とし, 0<k<1 とする。 f\colon X\to X が任意の x,y\in X に対し,

\color{red}\begin{equation} \large d(f(x),f(y))\le kd(x,y)\end{equation}


をみたすとき, f(x^*) = x^* となる x^*\in X が唯一つ存在する。さらに,そのような x^* は任意の x \in X に対し,

\color{red} \large x^* = \lim_{n\to\infty} f^n(x)


となる。ただし, f^n= \underbrace{f\circ \dots \circ f}_{n} (n 回合成)を表す。

(1) 式をみたすような写像 f\colon X\to X縮小写像 (contraction mapping) といいます。2点の距離は f でうつすことで必ず近づきます。縮小写像は定義からリプシッツ連続です。

このような, f(x^*)=x^* をみたす点 x^* のことを不動点 (fixed point) といいます。本定理は,縮小写像には不動点が唯一つ存在する,と言っているわけですね。さらに,f で何回もうつすことで,任意の点から不動点に近づけることができるということです。

バナッハの不動点定理(縮小写像の原理)のイメージ

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バナッハの不動点定理(縮小写像の原理)の証明

距離空間完備であることはこの証明の本質です。

証明

x\in X とし,x_n=f^n(x) とする。まず, \{x_n\} が収束することを示そう。

0<m<n に対し,三角不等式より

\begin{aligned}&d(x_m,x_n) \le \sum_{i=m}^{n-1}\ d(x_i, x_{i+1}) \end{aligned}


である。ここで, f は縮小写像であったから,

\begin{aligned}d(x_i, x_{i+1})&=d\bigl(f^i(x), f^{i+1}(x)\bigr)\\ &\le k d\bigl(f^{i-1}(x), f^i(x)\bigr)\\ &\le k^2 d\bigl(f^{i-2}(x), f^{i-1}(x)\bigr)\\ &\le \cdots\\ &\le k^i d(x, f(x)) \end{aligned}


となる。よって,

\begin{aligned} d(x_m,x_n) &\le \sum_{i=m}^{n-1}\ k^i d(x, f(x))\\ &\le k^m \frac{1}{1-k} d(x, f(x))\\ &\xrightarrow{m\to\infty} 0 \end{aligned}


であり, \{x_n\}コーシー列である。 X完備であるから,収束先 x_n \xrightarrow{n\to\infty} x^*\in X が存在する。

次に, x^* が不動点であることを示す。 f は連続であるから,

\begin{aligned} f(x^*)&=f\left(\lim_{n\to\infty} x_n\right) = \lim_{n\to\infty}f(x_n)\\&=\lim_{n\to\infty}x_{n+1}=x^*\end{aligned}


であり, x^* は不動点である。最後に不動点が唯一つであることを示す。 x^*, x^{**}\in X を不動点とする。 f は縮小写像より,

d(x^*, x^{**})= d(f(x^*), f(x^{**}))\le kd(x^*, x^{**})


であり, 0\le k<1 であったから, d(x^*, x^{**})=0 すなわち, x^*=x^{**} である。

証明終

本定理は,微分方程式の解の存在や,実際にその解の構成を行うのによく使われます。微分方程式の解の構成は x^*=\lim_{n\to\infty}f^n(x) を用いて行われますが,これを ピカールの逐次近似法 と言ったりします。

これについては,いずれ別の記事で解説しましょう。

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