コーシー積 \displaystyle \sum_{n=0}^\infty \sum_{k=0}^n a_kb_{n-k} =\left(\sum_{n=0}^\infty a_n \right) \left(\sum_{n=0}^\infty b_n\right) について,その定理の主張と証明,最後に具体例を紹介しましょう。
【乗積級数】コーシー積~2つの無限級数の積~
定理(コーシー積, Mertens)
\displaystyle \sum_{n=0}^\infty a_n , \sum_{n=0}^\infty b_n がともに収束し,少なくとも一方が絶対収束するとき,
\color{red} \sum_{n=0}^\infty \sum_{k=0}^n a_kb_{n-k} =\left(\sum_{n=0}^\infty a_n \right) \left(\sum_{n=0}^\infty b_n\right)
が成り立つ。
2つの無限級数の積は,「係数の和が常に一定になるようなところ」に注目して,それを足し上げても同じになるということですね。図で描くと,以下のようなイメージです。
「係数の和が一定になるところを足す」というのを,級数の畳み込み (convolution) ということもあります。
なお,元の級数の2つともが絶対収束する場合は, \sum_{n=0}^\infty \sum_{k=0}^n a_kb_{n-k} も絶対収束します。実際,
\sum_{n=0}^N \sum_{k=0}^n| a_k||b_{n-k}| \le \left(\sum_{n=0}^N |a_n| \right) \left(\sum_{n=0}^N |b_n|\right)
となることから分かります。
コーシー積の証明
証明は少しテクニカルかもしれません。やっていきましょう。
証明
\displaystyle \sum_{n=0}^\infty a_n が絶対収束するとして証明しよう。このとき,\alpha= \displaystyle \sum_{n=0}^\infty |a_n| とおくことにする。
\begin{gathered} A_N =\sum_{n=0}^N a_n,\, B_N = \sum_{n=0}^N b_n, \\ C_N = \sum_{n=0}^N \sum_{k=0}^n a_kb_{n-k},\\ \beta_N = B-B_N \end{gathered}
と定める。示すべきことは, C_N \xrightarrow{N\to\infty} AB である。
であり,A_NB\xrightarrow{N\to\infty} AB であるから, a_0\beta_N+\dots +a_N\beta_0 \xrightarrow{N\to\infty} 0 を示せばよい。
\varepsilon > 0 とする。 \beta_N=B-B_N\xrightarrow{N\to\infty} 0 であるから,ある N_0 \ge 0 が存在して,
N \ge N_0 \implies |\beta_n|\le \varepsilon
とできる。このような N \ge N_0 に対し,
であり,最終辺第2項は a_N\xrightarrow{N\to\infty} 0 より, 0 に収束するため,
となる。結局, a_0\beta_N+\dots +a_N\beta_0 \xrightarrow{N\to\infty} 0 が示せたので,証明が終わる。
証明終
コーシー積の具体例
ひとつだけ具体例を挙げましょう。
例
\displaystyle \color{red} \left(\sum_{n=0}^\infty \frac{x^n}{n!}\right) \left(\sum_{n=0}^\infty \frac{y^n}{n!}\right) = \sum_{n=0}^\infty \frac{(x+y)^n}{n!} である。
これは, e^x のマクローリン展開の話ですから,結局 \color{red} e^xe^y = e^{x+y} と言っているに過ぎないのですが,これを確認してみましょう。
\sum_{n=0}^\infty x^n/n! は任意の実数 x で絶対収束することに注意すると,
\left(\sum_{n=0}^\infty \frac{x^n}{n!}\right) \left(\sum_{n=0}^\infty \frac{y^n}{n!}\right)= \sum_{n=0}^\infty \sum_{k=0}^n \frac{x^kx^{n-k}}{k!(n-k)!} \tag{1}
が成り立ちます。二項定理より, (x+y)^n の x^k y^{n-k} 項の係数は \frac{n!}{k!(n-k)!} であることに注意すると,結局,
であることから, (1) 式は
となって,例の式が示せましたね。