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行列で連立一次方程式を解く方法~計算の手順~

線形代数学
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連立一次方程式は,行列の行基本変形による「ガウスの消去法(掃き出し法)」と呼ばれるものを用いて,比較的簡単に解くことができます。

これについて,具体的な計算手順を分かりやすく解説し,例題も交えながら確認していきましょう。

連立一次方程式の行列を用いた解法

早速,解法の手順を解説しましょう。まずは,連立一次方程式を行列で表しましょう。

1. 連立一次方程式を行列で表す

連立一次方程式

\begin{cases} a_{11}x_1+a_{12}x_2+\cdots + a_{1n}x_n = b_1 \\ a_{21}x_1+a_{22}x_2+\cdots + a_{2n}x_n = b_2 \\ \ldots \\ a_{m1}x_1+a_{m2}x_2+\cdots + a_{mn}x_n = b_m \end{cases}


は,行列を用いて表すと

\begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} &\dots & a_{1n} \\ a_{21} & a_{22} &\dots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots &\ddots & \vdots \\ a_{m1} & a_{m2}& \dots & a_{mn} \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x_1 \\ x_2 \\ \vdots \\ x_n \end{pmatrix} =\begin{pmatrix} b_1 \\b_2\\ \vdots \\ b_m \end{pmatrix}


とかけます。この式に対応して, A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{b} とかくことにしましょう。このときの A係数行列 A \boldsymbol{b} を合体させた (A,\boldsymbol{b})拡大係数行列といいます。詳しくは,以下で解説しています。

これにより,連立一次方程式を行列を表すことができました。これを用いて,連立一次方程式を解くことを考えましょう。

2. ガウスの消去法(掃き出し法)による解の導出

拡大係数行列 (A, \boldsymbol{b}) を用いて,連立一次方程式を解きましょう。解き方は,行基本変形のみを用いて, A を簡約化するように, (A, \boldsymbol{b}) を変形していきます。

「行基本変形」とは,以下の3つの変形のことを言います。

  1. ある行の c 倍を他の行に加えること
  2. 2つの行を入れ替えること
  3. ある行を  c \ne 0 倍すること

詳しくは,行列の基本変形についてわかりやすく図解するで解説しています。

「行列の簡約化」とは以下のような,階段行列のうち,主成分が 1,その上が 0 であるような,RREF行列と呼ばれる行列に直すことです。

RREF行列

たとえば,単位行列は簡約された行列の1つです。詳しくは,【行列の簡約化】RREF行列(Reduced row echelon form)とはで解説しています。行基本変形では,単位行列に簡約化するつもりで変形していけばよいでしょう。

そして,行基本変形によって得た (A', \boldsymbol{b'}) を再び連立一次方程式 A' \boldsymbol{x} = \boldsymbol{b'} の形に戻して,それを解きます。

こうすることで, A\boldsymbol{x}=\boldsymbol{b} を素直に解こうとするよりも,簡単に解けます。まとめておきましょう。

連立一次方程式の行列を用いた解き方
  1. 拡大係数行列 (A,\boldsymbol{b}) に対し, A簡約化するように行基本変形を繰り返す。
  2. 行基本変形後の (A',\boldsymbol{b'}) に対し, A'\boldsymbol{x}=\boldsymbol{b'} を解く。

連立一次方程式が解ける原理

上の方法で,連立一次方程式が解ける原理を簡単に解説しておきましょう。行基本変形というのは,左から基本行列と呼ばれる行列をかけることに相当します。拡大係数行列について,左から行列をかけて

S(A,\boldsymbol{b}) = (SA, S\boldsymbol{b})


とすることと,連立一次方程式 A\boldsymbol{x}=\boldsymbol{b} に左から行列をかけて

SA\boldsymbol{x} = S\boldsymbol{b}


はちょうど対応していますから, SA ができるだけ簡単になるように簡約化することで,上手く解けるというわけです。

関連:行列の演算(和・定数倍・積)の定義と性質をわかりやすく丁寧に

連立一次方程式を解く例題

さて,ここから具体例を挙げていきましょう。

例題1.

\begin{cases} x_1 + x_2 +x_3=0 \\ 2x_1+2x_2 + x_3 =3 \\ 2x_1+3x_2+2x_3=1\end{cases} を解け。

拡大係数行列 (A, \boldsymbol{b})

\left(\!\!\! \begin{array}{ccc|c} 1&1&1 &0\\ 2&2& 1&3 \\ 2&3&2&1\end{array}\!\!\!\right)


ですね。これの左側の部分 A= \begin{pmatrix} 1&1&1 \\ 2&2&1 \\ 2& 3& 2\end{pmatrix} を簡約化するように,行基本変形を繰り返しましょう。

例題1の行基本変形による簡約化の計算結果

左の A の部分は,簡約化すると単位行列になりましたね。基本変形後の行列を用いて,連立一次方程式に直すと,

\color{red} \begin{cases} x_1 = 2 \\ x_2 =1 \\ x_3 = -3 \end{cases}


となり,これは求める解そのものですね。

このように, A の部分が単位行列に直せると,非常に簡単に解を導出することができます。

例題2.

\begin{cases} x_1 + x_2 +x_3=3 \\ 2x_1+x_2 + x_3 =4 \\ 2x_1-x_2-x_3=0\end{cases} を解け。

拡大係数行列 \left(\!\!\! \begin{array}{ccc|c} 1&1&1&3\\2&1&1&4\\2&-1&-1&0 \end{array} \!\!\!\right) ですね。行基本変形を繰り返すと

例題2の行基本変形による簡約化の計算結果

ですね。A= \begin{pmatrix} 1&1&1\\2&1&1\\ 2&-1&-1\end{pmatrix} を簡約化すると, \begin{pmatrix} 1&0&0\\ 0&1&1 \\ 0&0&0\end{pmatrix} になりました。 これを用いると,解くべき連立一次方程式は

\begin{cases} x_1 = 1 \\ x_2+x_3=2 \\ 0=0\end{cases}


ですから,たとえば,x_2=a とおくと,求める実数解は

\begin{pmatrix}x_1\\x_2\\x_3\end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 1 \\ a \\ 2-a \end{pmatrix}, \quad a\in\mathbb{R}


ですね。 a\in\mathbb{R} とすれば実数解ですが, a\in\mathbb{C} とすれば複素数解です。 この辺は文脈に応じて使い分けてください。

この問題は,解に不定性がありましたね。連立一次方程式が3つあるように見えて,実は2つしかない(残り1つは2つから従う)ようなパターンには,このようなことになります。
この辺について深く知りたい場合は,連立一次方程式の基本解・特殊解と解空間の性質を参照してください。

例題3.

\begin{cases} x_1 - x_2 +x_3=3 \\ x_2 + x_3 =0 \\ 2x_1+4x_2+8x_3=7\end{cases} を解け。

拡大係数行列 \left(\!\!\! \begin{array}{ccc|c} 1&-1&1&3\\0&1&1&0\\2&4&8&7 \end{array} \!\!\!\right) ですね。行基本変形を繰り返すと,

例題3の行基本変形による簡約化の計算結果

ですから,解くべき連立一次方程式は

\begin{cases} x_1+2x_3 = 3 \\ x_2+x_3 = 0 \\ 0=1\end{cases}


になります。最後の 0=1 はあり得ないですから,答えは解なしです。

このように,行基本変形後,左側が全て 0 なのに,右側はそうなっていないような行が存在する場合は,「解なし」が答えになります。今回の場合,行基本変形後の最終行がそうなっていますから,解なしです。

ここで,行列の階数(ランク)について詳しければ, \operatorname{rank}A = \operatorname{rank}(A,\boldsymbol{b}) でないと解を持たないのではないか,と気づくかもしれません。実際その通りです。これについては連立一次方程式が解をもつ条件(行列)とその証明を参照してください。

連立一次方程式のその他の解法

A正則行列(可逆行列)のときに使える,連立一次方程式の別の解法を紹介しましょう。

注意ですが, A が正則行列であるかどうかは,計算してみないとわからないですし,そもそも式の本数と変数の数が一致していない連立一次方程式の場合は, A正方行列になりませんから,この方法は使えません。

【Aが正則のとき】逆行列を計算する方法

A正則行列(可逆行列)のときは,連立一次方程式 A\boldsymbol{x}=\boldsymbol{b} の両辺から A^{-1} をかけることで,

\boldsymbol{x}=A^{-1} \boldsymbol{b}


と求めることができます。よって, A^{-1} を計算によって求めることで,方程式の解を求めることが可能です。

ただ,逆行列 A^{-1} を求める操作は,結局上と同じ掃き出し法を使いますから,上で紹介した解法とほぼ同じといえます。逆行列の求め方は,以下を参照してください。

【Aが正則のとき】クラメルの公式

A正則行列(可逆行列)であれば,次のような公式も知られています。

定理(クラメルの公式; Cramer’s rule

連立1次方程式 A \boldsymbol{x} = \boldsymbol{b} について, A正則行列(可逆行列)であるとする。このとき,この連立方程式の解はただ一組で,

\color{red} x_j = \frac{\det A_j}{\det A},\quad 1\le j\le n


と表せる。ただし,

\begin{aligned}A&= (\boldsymbol{a_1}, \boldsymbol{a_2}, \dots, \boldsymbol{a_n}), \\ A_j &= (\boldsymbol{a_1},\dots, \boldsymbol{a_{j-1}}, \textcolor{red}{\boldsymbol{b}}, \boldsymbol{a_{j+1}},\dots, \boldsymbol{a_n})\end{aligned}


とした。

注意ですが,これは計算量が非常に多く,実際の計算に適用することは,あまり現実的ではありません。あくまで理論的なものだと思った方が良いです。

解説は,以下で行っています。

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