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ハイネ–ボレルの被覆定理とその証明~有界閉区間のコンパクト性~

集合と位相
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ハイネ–ボレルの被覆(ひふく)定理とは,実数全体の集合に通常の位相を入れた位相空間において,有界閉区間はコンパクトであるという定理です。位相空間論の基本的な定理の一つです。

ハイネ–ボレルの被覆定理について,その内容の解説と,証明を行います。

ハイネ–ボレルの被覆定理~有界閉区間のコンパクト性~

まずは,ハイネ–ボレルの被覆定理の主張を述べて,その「お気持ち」を掘り下げたいと思います。

ハイネ–ボレルの被覆定理の主張

コンパクトという言葉の説明もしながら,定理の主張を述べましょう。

ハイネ–ボレルの被覆定理 (Heine–Borel theorem)

実数 \R に通常の位相を入れた位相空間について,任意の有界閉区間 [a,b] はコンパクトである。

すなわち, [a,b] の任意の開被覆 \{U_\alpha\} に対して,有限部分被覆 \{ U_k\}_{k=1}^n\subset \{U_\alpha\} が存在する。

\{U_\alpha\} [a,b]開被覆 (open cover) であるとは,各 U_\alpha が開集合でかつ

[a,b]\subset \bigcup_\alpha U_\alpha


をみたすことをいいます。 \{ U_k\}_{k=1}^n有限部分被覆であるとは, \{U_\alpha\} の部分集合で,

[a,b]\subset \bigcup_{k=1}^n U_k


のように,有限個の開集合の和集合で覆えることを表します。

要するに,くだけて言うと, [a,b] を開集合の和集合で覆うとき,どんな覆い方をしても,そこから有限個を選び出して,同じように [a,b] を覆えるということです。「どんな覆い方をしてもそこから有限個を選んで」というのが重要で, [a,b]\subset (a-1, b+1) とすれば1個の開集合で覆えるやんけ,ということではありません。

ハイネ–ボレルの被覆定理のイメージ図

ハイネ–ボレルの被覆定理は有界閉区間じゃないとダメ

[a,b] はコンパクトですが, (a,b) はコンパクトではありません。たとえば, \{(a, b-1/n)\}_{n=1}^\infty は,

(a,b) = \bigcup_{n=1}^\infty \left(a, b-\frac{1}{n}\right)


とできるので,開被覆ですが,そこから有限個を選んできても,その和集合が (a,b) を覆えるわけではないです。

また, [a, \infty) もコンパクトではありません。たとえば, \{(a-2+n, a+n)\}_{n=1}^\infty は開被覆ですが,そこから有限個を選んできても, [a,\infty) は覆えません。

ハイネ–ボレルの被覆定理の証明

さて,ハイネ–ボレルの被覆定理,すなわち [a,b] がコンパクトであることを証明していきましょう。 (a,b) ではなぜ言えないのかまで考えながら進めていきましょう。

証明

背理法で示す。 [a,b] の開被覆 \{U_\alpha\} が,有限部分被覆をもたないとする。このとき,この閉区間を2等分した

\left[a, \frac{a+b}{2}\right],\quad \left[\frac{a+b}{2}, b\right]


の少なくとも一方は \{U_\alpha\} に属する有限個の開集合で被覆できない。その閉区間を [a_1, b_1] とする。同様に2等分して,

\left[a_1, \frac{a_1+b_1}{2}\right],\quad \left[\frac{a_1+b_1}{2}, b_1\right]


のうち, \{U_\alpha\} に属する有限個の開集合で被覆できない方を [a_2, b_2] とする。以下帰納的に [a_n, b_n] を取ると,閉区間の縮小列

[a,b]\supset [a_1, b_1]\supset [a_2, b_2]\supset [a_3, b_3]\supset\cdots


を得る。 b_n-a_n = (b-a)/2^n \xrightarrow{n\to\infty} 0 であるから,区間縮小法の原理 により,

\bigcap_{n=1}^\infty [a_n, b_n]=\{c\}


となる a\le c\le b が存在する。 c\in [a,b]\subset \bigcup_{\alpha} U_\alpha より, c\in U_\alpha となるものが存在する。 U_\alpha は開集合なので,ある \varepsilon >0 が存在して,

c\in (c-\varepsilon, c+\varepsilon ) \subset U_\alpha


とできる。 b_n-a_n = (b-a)/2^n<\varepsilon となる n\ge 1 をとると,

c\in [a_n, b_n]\subset (c-\varepsilon, c+\varepsilon)\subset U_\alpha


となるが,これは, [a_n, b_n] が有限部分被覆をもたないことに矛盾する(実際, U_\alpha の一つで覆えている)。よって示された。

ハイネ–ボレルの被覆定理の証明のイメージ

証明終

途中で区間縮小法の原理を使いましたが,これは実数の連続性に関係しています。詳しくは以下の記事で解説しています。区間縮小法は開区間では成立しません。 c\in (a,b) とは限りません。これが,上記の証明が [a,b] の代わりに (a,b) では成立しない理由です。

ハイネ–ボレルの被覆定理の一般化

ハイネ–ボレルの被覆定理より一般的な定理を述べておきましょう。

まず,ユークリッド空間 \R^n においては以下が成立します。

定理( \R^n のコンパクト性)

\R^n において, A\subset \R^n有界閉集合であることと,コンパクトであることは同値である。

より一般に距離空間においては,「有界閉集合」だけだと不十分です。次の定理が知られています。

定理(距離空間のコンパクト性)

距離空間 (X,d) において, A\subset X全有界かつ完備であることと,コンパクトであることは同値である。

以上の2つの定理については,いずれ別の記事で解説しましょう。

関連する話題~点列コンパクト性~

\R (より一般に距離空間)においては,ある集合がコンパクトであることと,点列コンパクトであることは同値です。ここで, [a,b]点列コンパクト (sequentially compact) であるとは,任意の点列 \{x_n\}\subset [a,b] が収束する部分列を持つことを言います。

本記事では, [a,b] がコンパクトであることの証明を行いましたが, [a,b] が点列コンパクトであることの証明は,以下の記事で行っています。非常に似ている証明であることが分かると思います。

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