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随伴行列(エルミート転置,共役転置)の定義と性質10個

線形代数学
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随伴行列,あるいはエルミート転置や共役転置と呼ばれる行列は,元の行列の各成分で複素共役を取り,それを転置させた行列 A^*=\overline{A}^\top のことを指します。

これについて,その定義と具体例,性質を詳しく解説しましょう。

随伴行列(エルミート転置,共役転置)の定義

複素数 z = x+iy に対し,その共役複素数を,上にバーをつけて \overline{z} = x-iy とかきます。

定義(随伴行列)

A=(a_{ij}) m\times n 行列とする。 A の各成分で複素共役を取り,転置させた n\times m 行列

\large\color{red} A^*=\overline{A}^\top=(\overline{a}_{ij})^\top = (\overline{a}_{ji})


随伴行列 (adjoint matrix) または エルミート転置 (共役転置; Hermitian transpose) という。

随伴行列は \color{red} A^* とかくことが多い。他に, \color{red} A^\dagger とかくこともある。

共役を取って転置するのと,転置して共役を取るのはどちらも同じですから,順番を気にする必要はありません。

全ての成分が実数の行列においては,ただの転置行列と同じになります。

具体的に各成分を書き下してみましょう。

A = \begin{pmatrix}a_{11} & a_{12} & \dots & a_{1n} \\ a_{21}&a_{22} & \dots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{m1} & a_{m2} & \dots & a_{mn} \end{pmatrix}


とします。これの随伴行列は

A^* = \overline{A}^\top = \begin{pmatrix}\overline{a}_{11} & \overline{a}_{21} & \dots & \overline{a}_{m1} \\ \overline{a}_{12}&a_{22} & \dots & \overline{a}_{m2} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ \overline{a}_{1n} & \overline{a}_{2n} & \dots & \overline{a}_{mn} \end{pmatrix}


ですね。右下の添え字は mn のままですが,n\times m 行列になっていることに注意してください。

随伴行列(エルミート転置,共役転置)の具体例

具体例を挙げておきましょう。

随伴行列の具体例

  • \begin{pmatrix} 1 & i \\ 0 & 2-i \end{pmatrix}^*= \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ -i & 2+i \end{pmatrix}
  • \begin{pmatrix} 1 & 2+i & 2i\\ 1-i & -3i& 0 \end{pmatrix}^*= \begin{pmatrix} 1 & 1+i \\ 2-i & 3i \\ -2i & 0 \end{pmatrix}

他に,複素列ベクトルの内積は,随伴行列を用いて書くことが可能です。ここで,

\boldsymbol{a} = \begin{pmatrix} a_1 \\ a_2 \\ \vdots \\ a_n \end{pmatrix}, \quad \boldsymbol{b}= \begin{pmatrix} b_1\\ b_2 \\ \vdots \\ b_n \end{pmatrix}\in\mathbb{C}^n


に対して,この(複素)内積は,

\langle \boldsymbol{a}, \boldsymbol{b} \rangle = \sum_{k=1}^n a_k \overline{b}_k


と定義されます(→数ベクトルの定義と数ベクトルにおけるノルム・内積)。

随伴行列とベクトルの内積

\boldsymbol{a}, \boldsymbol{b}\in\mathbb{C}^n を列ベクトルとする。すなわち,

\boldsymbol{a} = \begin{pmatrix} a_1 \\ a_2 \\ \vdots \\ a_n \end{pmatrix}, \quad \boldsymbol{b}= \begin{pmatrix} b_1\\ b_2 \\ \vdots \\ b_n \end{pmatrix}


とする。このとき,ベクトルの(複素)内積について,

\color{red} \langle \boldsymbol{a}, \boldsymbol{b} \rangle =\boldsymbol{a}^\top \overline{\boldsymbol{b}} =\boldsymbol{b}^* \boldsymbol{a}


となる。

随伴行列(エルミート転置,共役転置)の性質10個

随伴行列は,転置行列の共役を取ったものですから,転置行列の定義と基本的な性質11個の証明で紹介した,基本的な性質と同じような性質が成立します。確認していきましょう。

一般の随伴行列の性質

定理(随伴行列の性質)

A, B m \times n 行列とする。このとき,

  • (A^*)^* = A.
  • (A + B)^* = A^* + B^*.
  • (kA)^* = \overline{k} A^*, \quad k \in\mathbb{C}.

また, A m \times n 行列, B n \times l 行列とすると,

  • (AB)^* = B^* A^* .

上3つはほぼ明らかでしょう。最後の1つについては,両辺の各成分を比較することで確認するか,あるいは転置行列の定義と基本的な性質11個の証明で証明した, (AB)^\top = B^\top A^\top に対し,両辺共役を取ると考えればよいです。

正方行列における随伴行列

定理(随伴行列の性質2)

A n 正方行列とする。このとき,

  1. \operatorname{tr} A^* = \overline{\operatorname{tr} A}. (トレース)
  2. \det A^* = \overline{\det A} . (行列式)
  3. 随伴行列の固有値は,元の行列の固有値の複素共役である。
  4. \operatorname{rank} A^* = \operatorname{rank} A . (ランク)
  5. 列ベクトル \boldsymbol{v} , \boldsymbol{w} \in \mathbb{C}^n の(複素)内積について,
    \langle A\boldsymbol{v}, \boldsymbol{w}\rangle = \langle \boldsymbol{v} , A^* \boldsymbol{w} \rangle.
  6. A 正則(可逆行列)とすると,
    (A^*)^{-1} = (A^{-1})^*.

それぞれ証明しておきましょう。

証明

1. \operatorname{tr} A^* = \overline{\operatorname{tr} A} について

\operatorname{tr} A^* = \sum_{k=1}^n \overline{a}_{kk} = \overline{\operatorname{tr} A} から従う。

2. \det A^* = \overline{\det A} について

行列式の定義式から, \det \overline{A} = \overline{\det A} である。加えて,転置行列の性質から, \det A^\top = \det A である。したがって,

\begin{aligned} \det A^* = \det \overline{A}^\top = \det \overline{A}=\overline{\det A} \end{aligned}


となる。

3. 随伴行列の固有値は,元の行列の固有値の複素共役であることについて

\begin{aligned} \det (\lambda I - A^*) &= \det (\overline{\lambda} I - A)^* \\ &= \overline{\det(\overline{\lambda} I - A^\top )} \end{aligned}


よりわかる(→固有値の定義と求め方をていねいに~計算の手順~)。ただし,2つ目の等式は上の2.を用いた。

4. \operatorname{rank} A^* = \operatorname{rank} A について

一次独立な数ベクトルの複素共役を取っても,一次独立なベクトルの数は変わらないことに注意する。

各列ベクトルに対する一次独立なものの個数と,各行ベクトルに対する一次独立なものの個数は等しく,これは階数 (rank) に一致していることから従う。

5. \langle A\boldsymbol{v}, \boldsymbol{w}\rangle = \langle \boldsymbol{v} , A^* \boldsymbol{w} \rangle について

\begin{aligned}\langle A\boldsymbol{v}, \boldsymbol{w}\rangle &=\sum_{i=1}^n \left( \sum_{k=1}^n a_{ik}v_k\right) \overline{w}_i \\ &=\sum_{i=1}^n \sum_{k=1}^n a_{ik}v_k\overline{w}_i \\ & = \sum_{k=1}^n \sum_{i=1}^n a_{ik}v_k\overline{w}_i \\ &=\sum_{k=1}^n v_k\overline{\left(\sum_{i=1}^n\overline{ a}_{ik}w_i\right)} \\ &=\langle \boldsymbol{v} , A^* \boldsymbol{w} \rangle. \end{aligned}


6. (A^*)^{-1} = (A^{-1})^* について

上の性質で述べた (AB)^* = B^* A^* を用いる。 I_n n 単位行列とすると,

\begin{gathered} (A^{-1})^* A^* = (A A^{-1})^* = I_n , \\ A^* (A^{-1})^* = (A^{-1} A)^* = I_n \end{gathered}


となり,これは (A^*)^{-1} =(A^{-1})^* を意味する。

証明終

その他の行列