劣加法的関数 (subadditive function) の定義とその性質について解説します。
劣加法的関数・優加法的関数の定義
劣加法的関数
定義(劣加法的関数)
I \subset \mathbb{R} を, x,y \in I \Rightarrow x+y \in I となる集合 (cone) とする。
関数 f \colon I \to \mathbb{R} が
をみたすとき,劣加法的 (subadditive) であるという。
なお,関数の定義域は C \subset \mathbb{R}^n とすることもあります。
終域は [-\infty, \infty] とすることもあります。
優加法的関数
逆の不等式が成り立つ「優加法的関数」というのもありますから,定義しておきましょう。
定義(優加法的関数)
I \subset \mathbb{R} を, x,y \in I \Rightarrow x+y \in I となる集合 (cone) とする。
関数 f \colon I \to \mathbb{R} が
をみたすとき,優加法的 (superadditive) であるという。
ここで, f が優加法的 \Longleftrightarrow -f が劣加法的ですから,劣加法的関数の性質のみ考えれば,優加法的関数の性質もわかると言えます。従って,以下は劣加法的関数のみ扱います。
劣加法的関数の具体例
具体例を挙げましょう。
具体例
以下の関数 f\colon \mathbb{R} \to \mathbb{R} は劣加法的である。
- \textcolor{red}{f(x) = |x|^\alpha, \quad 0 < \alpha \le 1 }.
- \textcolor{red}{f(x) = \begin{cases} \log(x+1) & x \ge 0, \\ 0 & x < 0.\end{cases}}
- \textcolor{red}{f(x) = \begin{cases} 0 & x \in \mathbb{Q}, \\ 1 & x \in \mathbb{R}\setminus \mathbb{Q}.\end{cases}} (ディリクレ関数のある意味「逆」)
劣加法的関数の性質
劣加法的関数の基本的な性質
定理(劣加法的関数の基本的な性質)
- f, g を劣加法的とするとき, a, b \ge 0 に対して af+bg も劣加法的である。
- \{f_n\} を劣加法的関数の列とし, f(x) = \lim_{n\to\infty} f_n(x) が有限値であるとすると, f は劣加法的である。
- f\colon \mathbb{R} \to \mathbb{R} を劣加法的とすると,
- f(0) \ge 0.
- f(-x) \ge -f(x).
- f が偶関数ならば f(x) \ge 0.
- f が奇関数ならば f(x+y) = f(x) + f(y) ,すなわち f は加法的 (additive)。
略証
1. 明らか,2. 明らか。
3-1. f(0) \le f(0)+f(0) より。
3-2. 0 \le f(0) \le f(x) + f(-x) より。
3-3. f(x) = f(-x) \ge -f(x) より。
3-4. f(x) \le f(x+y) + f(-y) = f(x+y) - f(y) を移項して, f(x) + f(y) \le f(x+y) より。
略称終
なお,これらは全て f\colon \mathbb{R}^n \to \mathbb{R} として成立します。
劣加法的関数の極限挙動
以下の定理は面白いので証明したいと思います。
定理(極限挙動)
f\colon (0, \infty) \to \mathbb{R} は劣加法的で,任意の有界閉区間で有界であるとする。
このとき, \lim_{x\to\infty} f(x) / x が存在して,
となる。
なお「任意の有界閉区間で有界」は,「可測関数である」または「ある有界閉区間で有界」であれば従うことが知られています。
証明
\alpha = \inf_{x>0} f(x) /x \in [-\infty, \infty) とおく。 \alpha = -\infty のときは明らかなので, \alpha > - \infty とする。このとき, \varepsilon > 0 として, f(a) / a < \alpha + \varepsilon となる a > 0 を一つとる。
n_x = \lfloor x/a \rfloor - 2 と定める(ただし, \lfloor\cdot \rfloor は床関数(ガウス記号))。このとき,
\begin{aligned} f(x) &\le f(n_x a) + f(x - n_x a) \\ &\le n_x f(a) + f(x-n_x a) \\ &\le n_x f(a) + M \end{aligned}
である。ここで, M = \sup_{x \in [2a,3a]} f(x) とした。よって,
となるから,結論が従う。
証明終
また,逆に以下も知られています。
定理
関数 f\colon (0, \infty) \to \mathbb{R} に対し, f(x) / x が単調減少となるとき, f は劣加法的である。
証明
x, y \in (0, \infty) に対し,
\begin{aligned} f(x+y) &= x \frac{f(x+y)}{x+y} + y \frac{f(x+y)}{x+y} \\ &\le x \frac{f(x)}{x} + y \frac{f(y)}{y} \\ & = f(x) + f(y) \end{aligned}
より。
証明終
劣加法的関数の連続性
次に連続性の定理を挙げます。
定理(連続性)
f\colon \mathbb{R}^n \to \mathbb{R} が劣加法的で, f(0) = 0 かつ f が 0 で連続ならば, f は全体で連続である。
証明
x, \delta \in \mathbb{R}^n とする。このとき,劣加法的であることから,
\begin{gathered}
f(x+\delta) - f(x) \le f(\delta), \\
f(x) - f(x+\delta) \le f(-\delta)
\end{gathered}
なので,
|f(x+\delta) - f(x)| \le |f(\delta)| + |f(-\delta)|
である。右辺を \delta \to 0 とすると,結論を得る。
証明終
これ以外にもさまざまな性質がありますから,最後の参考文献等を参照してください。
補足
また,劣加法性に加えて, \textcolor{red}{f(kx) = k f(x), \, k \ge 0} が成り立つ関数を劣線形的関数 (sublinear function) といいます。この性質については以下の記事を見てください。
また,単に \color{red}f(x+y)=f(x)+f(y) となるとき, f を加法的関数 (additive function) といいます。これについては,以下で解説しています。
参考文献
- E. Hille, R. S. Phillips, Functional analysis and semi-groups, American Mathematical Society, 1957.
- M. Kuczma, An introduction to the theory of functional equations and inequalities, 2nd edition. Birkhäuser Verlag, 2009.