複素関数論のオススメの本・参考書10選

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大学数学における関数論・複素関数論は,感動する理論を多く備えている面白い分野です。そんな1変数複素関数論を勉強するにあたって,おすすめの書籍や参考書を紹介します。

とっかかりやすい入門レベルの本

まずは入門レベルの本を紹介しましょう。力に自信がない人がとっかかりの一冊としてオススメです。数学科ではこの内容では不十分です。

1. 山本直樹「複素関数論の基礎」裳華房

「なぜそのように考えるのか」を大切にしている複素関数の本。感覚的な説明が非常に多く,感覚が身につくようになっています。最初に実2変数関数の微積分と,高校レベルの複素平面の復習が最初の30ページ程度を占め,全体で180ページほどでコンパクトなため,非常にとっつきやすいです。具体的な計算例が例題として多く配置されています。ただし,数学的厳密性を犠牲にしている部分が多く,あくまで入門レベルの書籍です。証明も少ないです。一方で注釈がたくさんあって面白いです。

コーシーの積分定理コーシーの積分公式・留数定理・ローラン展開といった基本的な話は証明は厳密でないもののなんとなく載っており,また一致の定理リューヴィルの定理・代数学の基本定理・最大値の定理も付録にあります。ただ,モレラの定理・偏角の原理やシュワルツの補題・孤立特異点の分類といった話はありません。数学科にとってはこれでは不十分です。数学科の講義よりも内容は少ないでしょう。ただし,力に自信がない人や工学系の人がとっかかりの一冊として本冊を挟むのは良いと思います。

2. 志賀浩二「複素数30講」朝倉書店

テーマを30講に分割し,各講ごとにテーマが定められています。初学者でも読みやすく,楽しむ読み物としては優秀です。まず複素数の誕生の歴史的な話から始まり,複素数平面上における積が回転を表すという,高校理系数学の説明が第7講まで続きます。そこからは大学1年生レベルの解析学の知識が必要で,リーマン球面の話やリーマン球面のコンパクト性を用いた代数学の基本定理の証明がされています。第12講で複素関数が導入されます。

証明は所々省略もありますが,グルサの補題を経由したコーシーの積分定理の証明をはじめ,コーシーの積分公式正則関数のテイラー展開リューヴィルの定理・最大値の定理・一致の定理・孤立特異点・ローラン展開・留数定理など,一通り面白い話は載っています。モレラの定理・偏角の原理・シュワルツの補題などはありません。また,演習問題などは収録されていません。

全体的に数式よりも日本語による直感的な説明が多く配置されていて,「感覚的に面白さが理解できる」という点で,30講シリーズの本は非常に優秀です。とりあえず複素関数の面白さを知ってみたいという人にオススメです。ただし,証明は厳密じゃなかったり,省略があったりするので,逆にその辺が気になる人にとっては読みにくい本かもしれません。「そういうものなんだ」と割り切って読み進めるのが正解です。逆に,下で紹介する専門的な本を読んでから本書を読んでも面白いでしょう。

数学科でも使える標準的な教科書

ここからは,数学科にとっての基本事項をきちんと網羅されている,教科書的書籍を紹介します。簡単な順に紹介しましょう。

3. 神保道夫「複素関数入門」岩波書店

昔からある書籍ですが,新装版になって,さらに手に取りやすくなりました。

解説が分かりやすく,標準的な教科書と言える書籍で,大学の講義に近いレベル感です。すっきりした証明が多い印象です。192ページとコンパクトなため,読破しやすいといえるでしょう。各章の最後に軽くまとめが書かれているのが良いです。

ただし,正則の定義に実部・虚部が C^1であることを付加することで,コーシーの積分定理の証明はグリーンの定理コーシーリーマンの関係式を用いたもののみを紹介し,三角形経路によるグルサの補題は紹介されていません。また,具体例は少なめなので,初学者が「テストで点数を取る」という目的は達成されないかもしれません。

基本的なことの他に,無限積・テータ関数・解析接続の話も少し紹介されています。

4. チャーチル・ブラウン「複素関数入門」数学書房

R. V. Churchill, J. W. Brown, Complex Variables and Applications, 4th edition. McGraw-Hill. の邦訳です。ただし,原著をすべて翻訳することはせず,一部を割愛したり,逆に原著では省略してあるところを加筆したり,形式を変更したりしています。

例が非常に多く,基本的なことから例を踏まえて丁寧に解説されています。まさに初学者向けといえるでしょう。留数計算の例は11個も紹介されており,テストで頻出な留数計算も出来るようになるでしょう。ただし例が多い分,ページ数は300ページと多めです。

リューヴィルの定理一致の定理・最大値の定理・偏角の原理などはきちんと紹介されており,数学科でも十分「複素関数の基礎」が網羅されていると言えるでしょう。リーマン面や解析接続の話も少しあります。

著者が応用寄りが専門のため,本書も応用を意識して書かれています。工学的な応用を意識して等角写像と調和関数の話や,境界値問題の解の話が出てきます。

ちなみに原著は 9th edition まで出ており,発展的な内容まで紹介している,470ページ近くあるボリューミーな本になっています。

5. 吉田伸生「複素関数の基礎」共立出版

言葉でなく厳密に数式できちんと説明している,よく言えば誤魔化しがない,悪く言えばお堅い本と言えます。個人的には何事も日本語より数式で説明されたい派なので凄く良いと思います。ある程度力のある数学科生の1冊目として一番オススメです。ただしある程度力がないと,正則関数の美しさを味わう前に挫折してしまうかもしれません。

前書きには「大学院修士課程の入試準備には本書の内容が必要にして十分である。」と書かれており,内容の充実さも信頼できます。正則関数の基本性質は一通り紹介されています。唯一「解析接続」という単語が一回も出てこないのが残念です。

各定理は十分一般的な仮定の下で述べられており,誤魔化しがありません。できるだけ証明を長くしないためか,主張が細かく補題に分かれており,証明が息切れしません。一方で,各補題の意味が分かりにくいというデメリットもあります。虚数単位が i ではなく \mathbf{i} になっていますが,すぐに見慣れると思います。また,証明終が\(^□^)/になっています。

ちなみに表紙の絵に誤植(?)がありますが,第1版第2刷では直っています。第1刷は他にも誤植がかなりあるので,今から買うなら必ず第2刷を買いましょう。どんな本でも最初はたくさん誤植はあるもので,歴史の浅い本のデメリットです。著者のサイトに正誤表があり,頻繁に更新されていますので参照しましょう。

より本格的な学術書

ここからは,より発展的なことまで扱っている,学術書というべき本格的な書籍を紹介しましょう。どちらかというと,初学者向けというよりは,上記の本あるいは大学の講義で一度基本的なことを学んだ人向けの本たちです。

6. アールフォルス「複素解析」現代数学社

洋書の日本語訳です。名著で,この本を知らない人はいないというレベルの学術書です。笠原乾吉氏が翻訳しています。数学科生なら,この本で自主ゼミをするのも面白いでしょう。ただ,数式による説明よりもむしろ日本語(英語)の説明が長く,個人的には読みにくいです。

複素関数の基本事項はもちろん,無限積・ゼータ関数・ディリクレ問題・楕円関数・解析接続などもあります。複素関数の分厚い専門書でよくある素数定理はありません。

名著ですから,持っておいて損のない本ということに間違いありません。原著は以下です。

7. スタイン・シャカルチ「複素解析 (プリンストン解析学講義 2)」日本評論社

これも洋書の和訳です。すっきり書かれており,初学者でも読めなくはないですが,どちらかというと,ある程度「複素関数の基礎」を知っている状態の人が,最初の方をさっと読み,後半の発展的な話に集中する方が向いていると思います。複素関数の基礎は最初の100ページで一気にまとめられています。ローラン展開が章末問題にしかないなど,端折りもあります。後半はイェンセンの公式・無限積ガンマ関数・ゼータ関数・素数定理・リーマンの写像定理・楕円関数・テータ関数と四平方和定理の関係など,さまざまな面白い話題が紹介されています。

また,ジョルダンの曲線定理が付録で解説されているのも面白いです。英語でも読めます。

その他

個人的なオススメからは少々外れますが,もう少し紹介しましょう。

8. 畑政義「数理科学のための複素関数論」サイエンス社

特にオススメというわけでもないですが,コンパクトにものすごく大量の内容を詰め込んでいる本を見つけたので紹介します。ページ数は239ページしかないのに,基本的なことはもちろん,アダマールの3円定理・デッチュの3線定理・イェンセンの公式・パデ近似・ミッタグレフラーの定理・ワイエルシュトラスの定理・リーマンの写像定理・楕円関数の話題など,専門的なことが多く紹介されています。

証明は厳密な式変形ではなく,直感的(?)な説明に終始しているものが多く,厳密性にこだわって読み進めるのはかなり難しいです。初学者向けでは決してないし,多少学習したことがあっても,感覚を掴むくらいまで慣れていないと難しいと思います。

9. 笠原乾吉「複素解析」ちくま学芸文庫

文庫本なので,サイズが小さいですし,安いです。字は大きいです。証明はあんまりないか不親切で,その分多くの内容を詰め込んでいます。全く初学者向けではありません。ポアンカレ計量・ピカールの大定理もあるのは特徴的です。オススメというわけではありません。

10. Lang「Complex Analysis」Springer

大量の教科書を書いたことで有名な Serge Lang 氏の本。470ページほどあり,相当たくさんのトピックを扱っていて,かなり有名な本だと思いますが,私は読んでいません。複素関数の洋書で,学術書といえる代表的なものの一つに入ると思います。

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