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内田伏一「集合と位相」の書評・レビュー

集合と位相本・サイトの紹介
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本記事では,位相空間論や集合の濃度を学習するにあたっての代表的な書籍である,内田伏一「集合と位相」をレビューします。

まず結論から

結論から述べると,数学科の学生であれば,本書か,松坂和夫「集合・位相入門」のどちらかを持っていればまず間違いないです。どちらの本も,大学の授業で参考書に指定されることが多いです。

本書のページ数が256ページで,松坂和夫「集合・位相入門」のページ数は340ページなので,松坂和夫「集合・位相入門」の方がページ数が多いです。記述は多少松坂先生の方が丁寧で,載っている内容も少し多いです。

ただ個人的には,本書の内田伏一「集合と位相」の方が,必要事項がコンパクトにまとまっているため,ある程度力のある学生には大いにおすすめします。ページ数は松坂和夫「集合・位相入門」より少ないですが,知るべき内容が不足しているかというとそんなことなないです。

内田伏一「集合と位相」の概要

本書の基本情報を紹介しましょう。

基本情報

内田伏一「集合と位相」(裳華房 数学シリーズ, 増補新装版, 2020)

  • A5判
  • 256ページ
  • 山形大学名誉教授 理学博士 内田伏一 著
  • 裳華房
  • ISBN 978-4-7853-1412-5
  • 1986年初版刊行以来,現代にわたるまで人気書籍
  • 2020年3月に増補新装版として,巻末の「解答とヒント」をすべての問題に拡充。組版は新しくしたが本文は全く変更していない
  • 内田伏一 先生の専門分野は位相幾何学(変換群論)1938~2011年

本書は1986年から愛されている書籍であり,それが改訂されて,全ての問題に巻末「解答とヒント」をつけたものになります。「昔から愛されて続けているが,現代調に読みやすく改訂されている」ということで,安心・信頼の一冊です。

目次を紹介しましょう。

目次

1.集合と写像
 §1 集合とは
 §2 集合の演算
 §3 ド・モルガンの法則
 §4 直積集合
 §5 写像
2.濃度の大小と二項関係
 §6 全射・単射
 §7 濃度の大小
 §8 二項関係
3.整列集合と選択公理
 §9 整列集合
 §10 選択公理
 §11 整列可能定理
4.距離空間
 §12 ユークリッド空間
 §13 距離空間
 §14 近傍系と連続写像
5.位相空間
 §15 位相
 §16 近傍系と連続写像
 §17 開基と基本近傍系
 §18 点列連続性
6.積空間と商空間
 §19 積空間
 §20 商空間
7.位相的性質
 §21 分離公理
 §22 コンパクト性
 §23 有限交叉性とチコノフの定理
 §24 局所コンパクト性
 §25 連結性
8.完備距離空間
 §26 距離空間の完備性
 §27 距離空間のコンパクト性
 §28 距離空間の完備化
9.写像空間
 §29 実連続関数
 §30 コンパクト開位相
付録 有理数から実数へ
おわりに
解答とヒント
索引

はじめ,集合の濃度の話から始まり,ユークリッド空間の開集合・閉集合,そして距離空間の開集合・閉集合の話をしてから一般の位相空間における開集合族を定義します。位相空間における一般的な概念を紹介した後に,また距離空間の話に戻り,「距離空間がコンパクトであること」と「全有界かつ完備であること」が同値であること,アスコリ–アルツェラの定理,距離空間の完備化について紹介しています。

さらに,最後の写像空間の章では,位相空間から位相空間への連続写像の空間に定まるコンパクト開位相などの発展的な話も載っています。

内田伏一「集合と位相」の書評・レビュー

本書をレビューしていきましょう。

良いところ

  • 数学専攻にとって位相空間論の必要十分な知識がしっかりと,コンパクトにまとまっている
  • 何度も改訂されているため,誤植が全くと言っていいほどない
  • 前提知識はほぼ不要
  • 現代調に新装されているため,読みやすい
  • 練習問題すべてに「解答とヒント」がついている

一番良いところは,昔からある有名な書籍なのに,全然古びれることなく現代でも通用する書籍であることです。現在でも多くの大学で,位相空間論の参考書として筆頭に挙げられる書籍の一つです。

良くないところ

  • コンパクトにまとまっているが,初学者には根気がないと難しい
  • 松坂和夫「集合・位相入門」に比べて,順序数の話がない
  • ネット(有向点族)やフィルターに関する話はほぼない
  • 各位相空間の具体例が少ない

コンパクトにまとまっていますが,初学者が一から読破しようと思うと少々難しいです。読めるとかなり力がつきますが,ある程度証明を読み飛ばしながら,あるいは辞書代わりにするのでも良いです。本格的な数学書であることに間違いはありません。

順序数は整列集合濃度に関する議論のところで出てくる概念ですが,知らなくてもほぼ問題ないので大丈夫です。むしろ位相空間に早く入れる本書の方が良いと思います。ネット(有向点族)の話は知っておくと便利なことも多いですが,とりあえずあまり知らなくて大丈夫です。

それから,松坂和夫「集合・位相入門」にも言えることですが,具体例が少なく,イメージが湧きにくいです。この辺りについては,本サイトで今後具体例を充実させていきたいと考えているので,本サイトで補えば良いです。また,別の分野で位相が出てきたときに,はじめて実用的な具体例を知ることになるでしょう。

この本がおすすめなのはこんな人

  • 位相空間論を本格的に勉強したい数学科の学生
  • 簡単な位相空間論の本を読んだことがあり,より本格的な本に挑戦したい人
  • 証明も含めて,位相空間論を辞書代わりに使いたい人

数学科の学生であれば,位相空間論は必ず通らなければならない道です。本格的な本書を持っておき,読んでみることは有用です。

ただ,本書は難しいので,初学者,ましてや抽象的な議論に慣れていない人の場合,なかなか一人で読むことは難しいかもしれません。数学科の学生同士のゼミで使うのもオススメです。非常に勉強になると思います。

もし,高校生で読みたい場合は,もう少し簡単な位相空間論や群論などの本で,少し抽象的な議論に慣れてから読むとよいでしょう。志賀浩二「位相への30講」はオススメです(ただし,この本は位相空間までちょっと遠いです)。また,「位相空間論を勉強したい」ではなく「大学数学に触れたい」なら,微分積分学のイプシロンデルタ論法や,線形代数学のベクトル空間の議論でまず抽象的な議論に慣れてみてもよいでしょう。

内田伏一「集合と位相」の勉強方法

大前提として,数学における「位相空間論」は基本的な道具であり,それ自体を研究するということはまずないです。この前提の下で,本書に取り組むにあたっての2通りのアプローチを紹介します。

勉強法1. 時間に余裕がある場合,じっくり読破してみよう

数学科に入った学生にとって,「集合と位相」は初めての抽象的な数学であることが多いと思います。今までは数字を扱っていたのに,全然数字が出てこない。もしそのような抽象的な議論が初めてであり,時間があるならば,ゆっくり読破することを目指してみましょう。

本書は本格的な数学書であり,「読み物」レベルではありません。よってかなり苦戦することになると思いますが,抽象的な議論は今後も避けては通れないものです。「これが数学なのか」という感覚を体感してください。

ただし,そこそこの学力と根気がないと一人では読めないと思います。特に,根気はものすごく大事です。友人がいれば,ゼミをしてもよいでしょう。もし,根気や時間がなければ,あるいは最初の方で分からず挫折しそうなら,次の「勉強法2.」のような読み方をしてみましょう。

ちなみに,ある程度いろいろな数学の勉強をして戻ってくると,スラスラ読めるようになっているので安心してください。

勉強法2. 位相空間論はあくまで道具。割り切って必要最小限のみ抑えよう

位相空間論はあくまで道具と割り切った場合,最初のベルンシュタインの定理(本書定理7.2)の証明とか,選択公理とツォルンの補題の同値性(本書定理10.1)とか,選択公理と整列可能性の同値性の証明(本書定理11.1)とかは正直どうでもよいです。本サイトでも解説しているので,それを読んで進むのでも良いでしょう。

その辺が分からなくても,取り敢えず読み飛ばして,4章「距離空間」に入りましょう。全射・単射・全単射と,像・逆像と,可算集合・非可算集合が分かっていたら,取り敢えず4章に入れると思います。最初の議論に苦戦して,4章より前で挫折してしまうのは非常にもったいないです。

また,後ろは8章まで読めば十分です。8章は,時間がなければ証明を追わなくても大丈夫です。9章の「コンパクト開位相」はおまけです。必要最小限を抑えて,自分の研究したい分野に早く入門しましょう。もちろんですが,大学生の人は大学での位相空間論の単位はちゃんと取ってください。

まとめ

数学科の学生であれば,内田伏一「集合と位相」か,松坂和夫「集合・位相入門」のどちらかを持っていればまず間違いないです。内田伏一「集合と位相」は,必要十分な内容がコンパクトにまとまっています。寄り道がほとんどないものの,かといって内容が不足しているわけでもなく,本格的な内容をしっかりと学べる書籍になっています。

一人で読むのは少々難しいと思いますが,抽象的な議論に慣れていない場合は,頑張って読んでみるとかなり力がつくと思います。途中で挫折しそうになっても,飛ばし飛ばしで4~7章を読んでみてください。あるいは辞書のように用いてもよいでしょう。

数学科の学生全員におすすめできる書籍です。