数学,とくに代数学における体 (field) とは,四則演算が定義された集合のことを言います。一般に,代数学においては,
をいいます。本記事では環の定義を前提に,体の定義と具体例を述べましょう。
体の定義
体というのは,ざっくりいうと四則演算が定義された集合のことを言います。厳密に定義を述べると,以下のようになります。
定義(体)
空でない集合 が体 (field) であるとは,
- が単位元を持つ可換環
- の でない任意の元が乗法逆元を持つ,すなわち, に対し, となるものが存在する。言い換えると である
の2つが成り立つことをいう。ただし, とは の乗法群を指す。
1.の可換環とは,足し算・引き算・かけ算が定義されている集合です。「可換」とはかけ算について と入れ替え可能なことを意味しています。それに加え,2.で割り算もできると言っているわけです。
念のため,1.で出てくる環の定義を述べておきましょう。
- は可換群(アーベル群)である。すなわち,
a. (結合法則)
b. (加法単位元 の存在)
c. (加法逆元 の存在)
d. (可換性) - はモノイドである。すなわち,
a. (結合法則)
b. (乗法単位元 の存在) - の間の分配法則,すなわち,
a.
b.
が成り立つとき,環 (ring) という。
さらに乗法について (可換性)が成り立つとき,可換環 (commutative ring) という。
詳しくは環の定義・可換環の定義とその具体例6つで解説しています。
なお,体に可換性を課さないこともあります。1.で,可換環でなく単なる環に変えたものを特に斜体 (skew field) といい,可換なときはそれを強調して可換体 (commutative field) ということもあります。逆に非可換なときは非可換体 (non-commutative field) ということもあります。
本記事では,単に「体」というと上の定義で述べた通り可換体を指すことにします。
また,位数(すなわち集合としての元の個数)が有限な体を有限体 (finite field) といいます。
体の具体例4つ
例1(数の集合).
は体である。 は可換環であるが体ではない。
有理数 ,実数 ,複素数 はそれぞれ四則演算ができますから,体です。一方で,一般に整数 は乗法逆元が 内に存在しませんから,体ではないです。ただかけ算は出来るので,環ではあります。
例2(有限体)
を素数とするとき, は体である。
の世界ですね。 が素数のときは,任意の に対して, となる が存在しますから,体です。
なお が素数でないと,これは成り立ちません。たとえば, の世界 を考えると, となる は存在しないです( を順に代入すれば確認できます)。よって, は可換環だが体ではないです。
例3(有理関数体)
を多項式とし, とする。このとき, の形の式を有理関数 (rational function; 有理式) という。有理関数全体の集合は体になる。記号でかけば,
を有理関数全体の集合といい,これは体になる。
たとえば, みたいな関数は有理関数です。
は実数係数多項式全体の集合を指し, は実数係数有理関数全体の集合を指すのが一般的です。
例4(四元数).
複素二次行列
は,非可換体になる。
この行列は,四元数と同型です。
体の性質
体の性質のうち,特に基本的なものを述べておきましょう。
定理(体の性質)
1,2,3.はそれぞれ整域とは~定義・具体例4つ・基本的性質4つ~,イデアル(環論)とは~定義・具体例・基本的性質の証明~,準同型写像・同型写像の定義と基本的な性質【群・環・体】の記事で解説しています。
5.について簡単に示します。 をどちらも元の個数(位数)が同じ体とし, を準同型としましょう(準同型の存在は認めることにします)。このとき,3.より は単射ですね。位数が同じなので,全単射ですね。よって, は同型です。