複素関数論における,孤立特異点とは,正則関数で,定義域に1点だけ孤立して入っていない点のことで,以下の3つに分類されます。
- 除去可能特異点 (removable singularity)
- 極 (pole)
- 真性特異点 (essential singularity)
それぞれの定義と見分け方についてまとめましょう。
孤立特異点とその分類の定義

定義1(孤立特異点とその分類)
D\subset\mathbb{C} を開集合とし, a\in D とする。さらに f\colon D \setminus \{a\}\to \mathbb{C} を正則関数とする。このとき, a を f の孤立特異点 (isolated singularity) という。孤立特異点は,状況に応じて以下の3つに分類される。
1.で f を h に「延長できる」というのは, z\in D\setminus \{a\} のとき f(z)=h(z) であり,かつ定義域が広がっていることをいいます。「除去可能」というのは,定義域に入っていないだけで,普通に定義域に入れようと思えば入れることもできるような特異点です。
なお定義1では,孤立特異点を1つしか持たないような正則関数 f を考えていますが,孤立特異点は複数持っても構いません。孤立しているため,各特異点ごとにその十分小さい近傍内で考えて,除去可能か極か真性特異点かを考えることが可能です。
孤立特異点の分類定理3つ
3つの孤立特異点の分類に役立つ定理を3つまとめましょう。
1. 孤立特異点と漸近挙動
定理1(孤立特異点と漸近挙動)
a を f の孤立特異点とするとき,
- f が a の十分近くで有界 \iff a は除去可能
- \lim_{z\to a} |f(z)|=\infty \iff a は極
- \lim_{z\to a} |f(z)| が定まらない \iff a は真性特異点
1.の条件は, \lim_{z\to a} f(z)\in\mathbb{C} が存在すると言っても良いですが,より弱い条件にしました。この辺は,リーマンの除去可能特異点定理と言って,以下で解説しています。 f(a) を \lim_{z\to a} f(z) によって定義することで正則に拡張でき, a は特異点ではなくなります。

2.の \impliedby ついては, a は (z-a)^m f(z) の除去可能特異点なので,1.を使うことで証明できます。\implies については, 1/f において 1.を用いることで, a は 1/f の除去可能特異点であり,零点になります。これに後の定理3を適用すればよいです。あるいは,1.と3.を認めれば,転換法による証明も可能です。
なお, a が m 位以下の極であるとき, (z-a)^m f(z) は, a を除去可能特異点として持つので,定理1の1.より,
a が除去可能または m 位以下の極 \iff (z-a)^m f(z) が a の十分近くで有界
も言えます。
3.についてはより強く,以下のピカールの大定理 (Great Picard’s Theorem) が知られています。
ピカールの大定理 (Great Picard’s Theorem)
D\subset\mathbb{C} を開集合, a\in D を正則関数 f\colon D\setminus \{a\}\to \mathbb{C} の真性特異点とするとき, a の任意の開近傍 U\subset D に対し,像 f(U\setminus \{a\}) は \mathbb{C} またはある b\in\mathbb{C} が存在して \mathbb{C}\setminus \{b\} に一致する。
すなわち,\mathbb{C}\setminus f(U\setminus \{a\}) は高々1点である。
この証明は難しいですが,より弱く, f(U\setminus \{a\}) が \mathbb{C} で稠密であることは割と簡単に証明できます。カゾラーティ・ワイエルシュトラスの定理 (Casorati–Weierstrass Theorem) といいます。
2. 孤立特異点とローラン展開
定理2(孤立特異点とローラン展開)
a を f の孤立特異点とし, a の周りのローラン展開を
{f(z) = \sum_{n=-\infty}^{\infty} c_n (z-a)^n}とする。特に, \sum_{n=-\infty}^{-1}c_n (z-a)^n 部分を主要部 (principal part) という。このとき,
- c_n =0 \; (\forall n <0) すなわち主要部が 0 \iff a が除去可能
- c_{-m} \ne 0,\, c_n =0 \; (\forall n< -m)\iff a が m 位の極
特に,主要部が 0 でなく有限和である \iff a が極 - 主要部が無限和である \iff a が真性特異点
a が除去可能なら,
f(z)= c_0+c_1 (z-a)+c_2 (z-a)^2+\cdots
とかけて, a が m 位の極なら
\begin{aligned} f(z){}={}&\frac{c_{-m}}{(z-a)^m} + \frac{c_{-m+1}}{(z-a)^{m-1}}+\cdots \\ &\quad {}+{}c_0+c_1 (z-a)+c_2 (z-a)^2+\cdots\end{aligned}
かつ c_{-m}\ne 0 とかけるということですね。確かにこうかければ, f(z)=\dfrac{h(z)}{(z-a)^m}(h は正則)の形になっていて,定義に整合しています。そして,こうかけないのが真性特異点です。
ローラン展開に関連して,以下で解説しています。

3. 極と零点の対応
極と零点には対応関係があります。まずは零点の定義を述べておきましょう。
極の定義と零点の定義を踏まえて,極と零点の対応定理を述べましょう。
定理3(極と零点の対応)
D\subset \mathbb{C} を開集合とし,正則関数 f\colon D\to \mathbb{C} は D 内に a のみで零点をもつとする。このとき, m\ge 1 に対し,次の2条件は同値である。
- a は f の m 位の零点である
- a は 1/f\colon D\setminus \{a\}\to \mathbb{C} の m 位の極である
以下の記事で解説しています。

孤立特異点の分類の具体例
上の定理も踏まえて,孤立特異点の具体例を列挙します。
孤立特異点の分類の例.
- f(z)=\dfrac{\sin z}{z} において 0 は除去可能特異点である
- f(z)=\dfrac{z-1}{z^2(z-1)(z-2i)} は 0 で2位の極をもち, 1 で除去可能特異点をもち, 2i で1位の極をもつ
- f(z)=e^{1/z} において 0 は真性特異点である
- f(z)=\dfrac{1}{\sin (1/z)} は z_n=\dfrac{1}{n\pi} \, (n\in\mathbb{Z}) で1位の極をもつ,また 0 は非孤立特異点である
1.は f(0)=1 と定義すれば \mathbb{C} 全体で正則(整関数)になります。定理1も参照してください。
2.は定義や定理3から明らかでしょう。
3.は e^w のテイラー展開を考えて, e^{1/z}=\sum_{n=0}^\infty 1/(n! z^n) がローラン展開となります。定理2から,真性特異点であることが分かります。
4.は定理3から前半が分かり, 0 は z_n\to 0 だから,そもそも孤立点ではありません。
無限遠と孤立特異点
原点中心,半径 \rho>0 の開円板を D_\rho(0) とかくことにしましょう。
f\colon \mathbb{C}\setminus \overline{D_\rho(0)}\to \mathbb{C} のように,複素平面から有界集合を除いた定義域をもつ正則関数を考えます。この関数は,無限遠点 \infty を孤立特異点と考えることができます。
g(z)=f(1/z) とすると, g\colon D_{1/\rho}(0)\setminus \{0\}\to \mathbb{C} は正則であり, 0 は f の \infty に対応する孤立特異点になります。 g の 0 での孤立特異点の分類をそのまま f の \infty での孤立特異点の分類としましょう。
定義2(孤立特異点としての無限遠点)
\rho>0 とする。 f\colon \mathbb{C}\setminus \overline{D_\rho(0)}\to \mathbb{C} を正則とし, g(z)=f(1/z) とすると, g\colon D_{1/\rho}(0)\setminus \{0\}\to \mathbb{C} は正則である。このとき,
- \infty が f の除去可能特異点 \xLeftrightarrow{\mathrm{def.}}0 が g の除去可能特異点
- \infty が f の m 位の極 \xLeftrightarrow{\mathrm{def.}}0 が g の m 位の極
- \infty が f の真性特異点 \xLeftrightarrow{\mathrm{def.}}0 が g の真性特異点
と定める。
これと定理1を組み合わせれば,
- f が \infty の十分近くで有界 \iff \infty は除去可能
- \lim_{z\to \infty} |f(z)|=\infty \iff \infty は極
- \lim_{z\to \infty} |f(z)| が定まらない \iff \infty は真性特異点
が成り立ちます。
さらに f を複素平面全体で正則な関数(整関数) f\colon \mathbb{C}\to\mathbb{C} としましょう。正則関数はテイラー展開可能であり, f は 0 中心にテイラー展開(マクローリン展開)できます。適宜 g(z)=f(1/z) の 0 中心のローラン展開と思い直すと,
- f が \infty の十分近くで有界 \iff f は定数
- \lim_{z\to \infty} |f(z)|=\infty \iff f は定数でない多項式
- \lim_{z\to \infty} |f(z)| が定まらない \iff f は多項式でない
も分かります。
最後に具体例を挙げておきましょう。
孤立特異点としての無限遠点の例.
- f(z)=\dfrac{z^2+5z-8}{(z-1)(z-3)} における \infty は除去可能特異点である
- f(z)=z^3+7z^2-4z+1 における \infty は3位の極である
- f(z)=e^z における \infty は真性特異点である
- f(z)=\dfrac{1}{\sin z} における \infty は非孤立特異点である
関連する記事





