対称群・交代群はそれぞれ置換・偶置換を集めた集合を表します。「置換・偶置換」とは,行列式の定義にも用いたやつです(→行列式の性質6つの証明(列,行の線形性,置換,積,転置など))。
これについて,詳しい定義や性質を解説しましょう。
【置換群】対称群・交代群とは
本記事では,置換のある程度の知識を仮定します。随所で復習を入れますが,もし全く知らないのであれば,以下の記事を読んでからの方が良いでしょう。
さて,対称群・交代群・置換群の定義を紹介しましょう。
対称群・置換群の定義
対称群・置換群の定義のために,まずは「置換」の復習をしましょう。
置換とは
全単射 σ:{1,2,3,…,n}→{1,2,3,…,n} をn 次の置換 (permutation) という。置換 σ,η∈Sn の合成 η∘σ を置換の積という。
置換とは 1,2,3,…,n の入れ替えをしているイメージです(→線形代数(行列)における置換・奇置換・偶置換の最低限必要な知識)。
置換の定義をもとに,対称群・置換群の定義をしましょう。
定義(対称群・置換群)
n 次の置換全体の集合は,写像の合成に関して群となる。これを対称群 (symmetric group) といい, Sn や Sn などとかく。
対称群や,その部分群を置換群 (permutation group) という。
Sn の S はドイツ文字の「エス」です。本サイトでは,対称群は Sn という表記を用いることにします。
交代群の定義
交代群の定義には,もう少し知識が必要です。復習しましょう。
奇置換・偶置換とは
置換のうち,2つの元のみを入れ替えたもの σ(i)=j,σ(j)=i,σ(l)=l(l=i,j) を互換 (permutation) という。全ての置換 σ∈Sn は互換の積(合成)でかけることが知られている。
奇数個の互換の積でかける置換 σ を奇置換 (odd permutation) といい,偶数個の互換の積でかける置換 σ を偶置換 (even permutation) という。
この辺の話は,やはり線形代数(行列)における置換・奇置換・偶置換の最低限必要な知識で解説しています。この知識をもとに,交代群を定義します。
定義(交代群)
n 次の偶置換全体の集合は,対称群 Sn の部分群になる。これを交代群 (alternating group) といい,An や An とかく。
偶置換全体の集合は,対称群の部分群になります。実際,偶置換は偶数個の互換の積でかけますから,偶置換の積や逆置換も偶数個の互換の積,すなわち偶置換になりますね。よって部分群になります(→部分群の定義と判定方法~例4つと性質~)。
注意ですが,奇置換全体の集合は対称群の部分群にはなりません。奇置換の積は,(奇数+奇数)個の互換の積になり,これは偶置換になってしまいます。よって,積に対して閉じていないため,奇置換全体の集合は部分群ではありません。
置換の符号 sgn(σ) を σ が偶置換のとき 1,奇置換なら −1 としましょう(→sign関数(sgn関数,符号関数)とは何か)。このとき,写像 sgn:Sn→{±1} は準同型写像になります。ここで,
An=Ker(sgn)=sgn−1(1)
です。よって,An は置換の符号が 1 となる置換の集まりですね。特に,An は正規部分群になります(→正規部分群の定義と基本的な判定方法・具体例)。
【置換群】対称群・交代群の性質
対称群・交代群の大切な性質を2つ述べましょう。
定理(対称群・交代群の性質1)
位数 n の任意の群 G は,Sn の部分群と同型である。
対称群は有限群の母といわれることもあるかもしれませんが,それは,任意の有限群は対称群の部分群と考えることができるからです。
証明を記しておきましょう。
証明
G={g1,g2,…,gn} とする。gk(1≤k≤n) に対し,gkgj=gρk(j) とすると,これは置換 ρk:{1,2,…,n}→{1,2,…,n} を定める。
ここで,f:G∋gk↦ρk∈Sn は単射準同型であることを示そう。
- 単位元 e∈G に対し,egj=gj より,f(e)=id である
- gkgl∈G に対し,glgkgj=glgρk(j)=gρlρk(j) より,f(glgk)=ρlρk=f(gl)f(gk)
- また上で,gk=gl−1,gl=gk−1 とすると,f(g−1)=f(g)−1 もわかる
ので,f は準同型である。また,f(g)=id∈Sn とすると,明らかに g=e なので単射でもある。よって,f は単射準同型である。
したがって準同型定理より,f:G→f(G)⊂Sn は同型であり,G は Sn の部分群と同型ということになる。
証明終
次は,証明しませんが,大事な性質です。
定理(対称群・交代群の性質2)
n≥5 のとき Sn は可解群でない。
これは5次以上の代数方程式の解はべき根でかけないという「アーベル-ルフィニの定理」の根本になっています。可解群についても解説していませんが,大事な性質であるということを知っておくとよいでしょう。
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